第9話 どいつもこいつもマイペース
晩餐はとても盛り上がったな。
とはいえ俺自身はあまり喋れなかったが。
そもそも語れる様な話題もあまり持ち合わせていないし。
何よりノオン達の個性が強過ぎて勢いに押されてしまった。
まぁそれでも充分に楽しめたよ。
料理もなんだかんだで美味しかったからな。
それで俺は彼等と一旦別れ、各々の宿へ。
そのまま一人で今後を考えつつ、夜を明かした。
で、その翌日。
「やぁアークィン、良い朝だね!」
「朝だというのに相変わらずテンション高いな」
「ハッハー、それがボクの取り柄だからね!」
昨日取り決めた待ち合わせ場所で再会を果たす。
俺が彼等の仲間になって最初の行動を起こす為に。
何でも、ノオン達には俺に手伝って貰いたい事があるらしい。
昨日は〝詳しくは後日〟とはぐらかされてしまったが。
なら良き朝を迎えた今こそ話してくれてもいいだろう。
「ではまずは少し依頼をこなしたい。いずれもとっておきの依頼さ! 皆の力を合わせて乗り越えよう!」
「「「おーっ!」」」
なるほど、人数が必要となる依頼という訳か。
どうやら一人では受けられない仕事もある様だ。
それで受付嬢も依頼を出し渋っていたんだな。
じゃあ一体どんな仕事が待っているのだろうか。
こうなるとなんだかワクワクしてくるな。
それで俺達は早速、ノオンの受けた依頼をこなす事に。
その依頼内容はと言えば。
<第一の依頼 バザール屋台設置の管理!>
バザール広場は公共の場である!
そこに出店する店は必ずテントサイズを一定に留めなければならない!
しかし管理者が不在の今、出店者のモラルにまかせっきりだ!
なので定期チェックで違反者を見つけて正し、秩序を守ろう!
「待てノオン、俺達は一体何をしているんだ?」
「テントの大きさを測っているのさっ! こうやってバザールは秩序を常々守っているんだ! 素晴らしい慣習だと思わないかい?」
言いたい事はわかる。
秩序を守るのは人の文化として大切なのだと。
でもこれは一人でもやれる仕事だろう。
だって俺も受けられる依頼内容だったし。
「なら別れて個々にやった方がいいだろ? で人員のハズのマオは一体どこへ行ったんだ」
「あぁ彼女なら宿に戻ったよ。【クロ様】を愛でないといけないからね! あ、【クロ様】っていうのは背中の大猫の事さ!」
「どういうサボり理由だそれェ!」
なのに真面目にやってるのは今や俺とノオンだけだ。
フィーは露店スィーツを堪能してるし、テッシャは路肩の土に埋まってるし。
で、マオの姿が無いと言えば堂々とサボタージュとは。
なんだかこの先、不安しか無いんだが。
で、気合いを入れて二人で第一の依頼をこなして。
早速、次の依頼へと取り掛かる。
<第二の依頼 愛猫捕獲!>
猫は自由である。自由奔放に歩き回る生き物である!
しかし飼い主は縛りたがる! 手元に居ないと落ち着かない!
愛でたいもの! 癒されたいもの!
だから今日も今日とて探してもらおう、何度逃げられようとも!
「待てェ、ノオンと猫ォ!! 俺達は一体何をしているゥ!!」
「罠は使えないからね! 走って捕まえた方が楽だろう!?」
現在俺達は全力疾走中。
目の前で逃げるターゲットを追い駆けながら。
しかしこれはあくまで囮、本命は逃げる先にいる――ハズ。
「先回りしたフィーはどこだァァァ!?」
「フッ、あそこさっ!」
だがその本命であるフィーは絶賛、猫の集会に参加中という。
肝心の捕獲者があの体たらくだ。
何してんだお前ェェェ!!
なので颯爽と片手でフィーを捕まえ、再び追い駆ける。
にしてもとても軽い、まるで綿毛の様だ。
ならばその特性を利用して一気にカタをつけてやるッ!!
ターゲットへと向けてフィーを投げ付けたのだ。
しかも猫にやたら執着のある彼女だからこそ。
こうなれば起きうるのはただ一つ。
フィー、ターゲット捕獲完了!
ガッチリホールドで逃がさない! 狙い通りだッ!!
種族的に、本来はお前が捕獲される方なんだけどな。
半ば呆れて来た所で次の依頼だ。
なんだかもう何が来てもおかしくない気がするよ。
<第三の依頼 植木の雑草処理!>
街の至る所に植木がある。景観を飾るとても大切なシンボルさ!
清い水があり、育った木がある。それは青空界の象徴となるんだ!
しかしそれと同時に雑草もどんどんと生えて来る!
じゃあ除去しようじゃないの、薬なんて使わないでね!
「ノオン……俺達、一体何をやらされてるんだ……?」
「雑草処理も大切な仕事さアークィン。時には我を忘れて没頭するのも良い事だよ、ふふ、ふふふ……」
あのノオンも既に目が据わってる。
虚無か、虚無なのか。
虚しさがわかってるなら何で受けたんだお前は。
だが引き受けた以上はこなさねばならない。
信用第一、放り出す事は俺の主義に反する。
そう思って一心不乱に雑草どもを駆逐していたのだが。
「なぁノオン、あそこに花が植えてあったはずなんだが、消えてないか?」
「えっ?」
なにか異様さを感じて見回してみたら、景観が変わってた。
花が並んで植えてあったはずなのに、列の途中から消えていたんだ。
で、今もスポッと一つ、また一つと。
その事実に気付き、花があった場所に近づいてみれば。
「美味しいねコレ。モグモグ」
「「テッシャァァァ!!!!!」」
例の顔がまた埋まってた。
嬉しそうに頬をモゴモゴとさせながら。
やめろ、それは雑草じゃない。
土の中からじゃわからないだろうけど雑草じゃないんだ。
なのでこの後、ノオンと一緒に土から引っこ抜いた。
だけど時既に遅し。
花消滅の被害は作業領域のおおよそ八割に渡る。
お陰で報酬は貰えませんでした。
「悪いが、俺は抜けさせてもらう」
「待ってェ!! もうちょっと待ってェ!!」
こんな事が続けばさすがに萎える。
例え会話の楽しい仲間でもこれでは。
まだ一歩譲ってノオンはわかる。
彼はちゃんと終始真面目だったし。
しっかり最後までやり遂げた意志には感服もしよう。
だけど他がダメダメじゃないか!
行動原理さえとても理解出来そうにないッ!!
「気持ちはわかるとも! だけど今だけだって! 今だけ耐えればすぐ慣れるって! たぶん! きっとォォォ!!」
「俺もその気持ちには応えたいが、出来る事と出来ない事があぁるッ!!」
なら俺は遠慮なく脱退を選ぶ。
例え頑なに止められようともな。
楽しい以上の苦痛があっては耐えられそうにない!
だからこうして離れようとしたのだが。
ノオンがまたしても掴んで離そうとしない。
ていうかお前――ち、力強いな!
全力で踏ん張るとこれ程までなのか!
くっ、進むどころか身動きさえ叶わないだと……!?
その間にもフィーが背中に掴まりながら飛び跳ねてる。
やめなさい、駄々っ子ですか君は!
ウサギキック、さりげなくスナップ効いて痛いんだが!?
マオ、それだけはやめろォ!
進路上からクロ様のネコケツを砲筒の様に向けるのはよせェェェ!!
他の誰よりエゲつないぞ、その抵抗!!
テッシャはせめてこんな時くらい参加しろよ!
一人で土掘りしてないで!
果てしなくマイペース過ぎないかお前ェ!!
「ゼェ、ゼェ……!」
「フゥ、フゥ……!」
ダメだ、逃げられなかった。
想像以上に抵抗力が強過ぎて。
並の奴等なら軽く振り解けると思ったんだが。
しかしどうやら、この全力も訳あっての事だったらしい。
「アークィン、今夜までどうか待って欲しい。今までの依頼は只の時間潰しに過ぎないんだ」
「なに……?」
「君の知る通り、ボク達は貧乏だからね。夜までブラブラしている訳にもいかなかったのさ。チョイスは確かに悪かったと思ってるけど」
なんでも、今までのは本命ではなかったと。
それで手軽い依頼だけ受けて暇を潰そうとしていて。
結果、無駄に労力ばかり使ってしまっていたという訳だ。
もっとも、マオ達のサボりに関しては説明が付かないけどな。
だがきっと何か理由があるのだろう。
仕方ないので今はそう思う事にした。
なら今夜の本命とやらをこなして、それで全てを見極めようじゃないか。
雑草毟り程度で真理に辿り着けるとは思えないしな。
その事に関してはノオン達も了承してくれた。
これで眼鏡に叶わなければ脱退も仕方ないのだと。
彼等には悪いが、俺は立ち止まっている訳にはいかないんだ。
だから多少は厳しい目で見させてもらうとしようか。
こうして俺達は夜まで待つ事に。
ノオン達の言う〝本命の依頼〟をこなす為にも。
しかしこの時は夢にも思わなかったよ。
まさかその依頼が、俺の予想を遥かに凌駕したモノだったなんてな。
よりぬき言語紹介
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砲筒
この世界にも火薬は存在し、大砲というものもしっかり存在する。中には肩持ち式の砲筒もあり、それを世間では親しみを持ってバズーカと呼ぶ。しかし決してBazookaではなく、正式名称はバッゾローク。そこから訛ってこの名前へと変化したという。決して現実から引用した名称ではない。ただの偶然である。
なお現状は魔法の方が扱い易いとされ、実物は赤空界にしか無い。それも骨董品レベルであり、実用性は無いとのこと。ウーイールーは遥か昔に実射された所を見た事があるらしく、その感動を伝えられていたのでアークィンは知っていた。
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