いざ城へ
「王国の城まで来てくれませんか?」
俺の目の前で腰を下ろしている騎士が真剣な表情でそう言っていた。
うーん、、、なにゆえ?
本当に心当たりがないので、戸惑うばかりである。
そもそも、ここまでの流れが急すぎて理解が追いつかない。この世界に来て早々、チンピラに絡まれたと思ったら、王国の城に誘われる始末である。
この世界では、チンピラに絡まれた少女を城に連れていくのが常識なのだろうか。
俺が戸惑っている様子を見て、ルイスは申し訳なさそうに項垂れる。
「いきなりすぎる事ですので、戸惑うのも無理はありません。ただ、申し訳ないのですがここで説明するわけにもいかないので、一度城まで来ていただきたいのです。勿論、危害を加えたり、貴女に不利益な事は致しません。安心して欲しいのですが、、。」
ふむ、この好青年がここまで言うのだから、本当に変な事はしないのだろう。ただ、こっちは、この世界に生まれて3分なのだ。知らない人に着いていくのには、抵抗しかない。
ただ、何から手をつけたらいいか分からないこの状態で、王国の城に行ってみる事は、この世界を知るのにはもってこいではある。
俺はそう素早く思考すると、目の前で顔を落としているルイスに向け、にこやかにこう言った。
「助けてもらった立場ですし、喜んでいかせてもらいます。よろしくお願いします、ルイスさん。」
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石造の街道を、俺は騎士ルイスと並んで歩いていた。
脇には、フルーツ屋や、防具屋、そしてよく分からないが、本みたいなのを売っている所もある。
さて、城へ着いていくことになった俺だが、ここで一つ問題がある。
俺の横に並んで歩いている好青年ルイスが、俺のことを女だと勘違いしていることだ。
さっきのチンピラ騒動では女ということにしていたので、今更訂正するのも恥ずかしく、言わないでいたが、このまま女のフリをするのもきつい。
チラッと横を見ると、俺の視線に気付いたルイスが、ニコッと俺に微笑んできた。
いや、いい奴かよ。
このまま騙し続けるのも、それはそれで罪悪感があるな。
本当のことを言うか言わまいか、俺が悶々と悩んでいると、ハンスが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫かい?今すぐ城に行くのが緊張するなら、少し時間を空けてもいいんだよ?」
あー、、その親切さが俺の心を抉るんだよなぁ、、。
「いいえ、大丈夫ですよ。ちょっと緊張はしてますけど、、。」
俺がそう答えると、ルイスは腕を組みうーんと唸ると、何やらピンと来た様に顔を上げ。
「もしかして、僕に気を使いすぎてない?よく言われるんだよね。僕相手だと、タメ口を使いずらいって。全然気にしないんだけどな。いつも通りに話して貰えると僕も嬉しいんだけど。」
成る程、俺に気を遣って言ってるのだろうが、全くそのことを感じさせないな。あくまで、自分が相手だから緊張するのも仕方ないというスタンスか。心なしか、言葉遣いも軽くなった気がする。
ルイスの優しさを噛み締め、俺は。
「、、分かりました。じゃあ、いつも通りで行きます。」
「はははっ。分かってないよ。敬語なんて使わなくていいんだからね。」
くそっ!こいつがいい奴すぎてタメ口で話すことが難しすぎる!
「ええっと、じゃあ、自己紹介してくれるかな?僕は君のこと名前も知らないし。」
ルイスは、まだ緊張している俺の気を遣ってか、気軽な質問をしてくる。
、、うん。ルイスなりの気遣いだとは分かるのだが、なんだろう。自己紹介をする事は至極まともなことだと思うが、突然城に連れて行かれる身としては自分について全く知られていないことが、少々腹立たしいな
「だからって、逆に知られてても怖いか、、。」
俺はそう呟くと、ルイスの方を見て。
「、、まあ、とにかく、これからはタメ口で話すことにするよ。」
そう言い、ルイスがうんうんと頷くのを確認し、俺は自己紹介をする。
「俺の名前は、藤宮澪。東の方から来たとだけ言っとく。年齢は16歳だ。改めてよろしくな!」
俺が自己紹介を言い切ると、ルイスは笑顔のまま。
「うん、こちらこそよろしくね、ミオ。城では僕が着いてるから安心してくれていいよ。何があっても守るからね。」
そう言い、俺の頭をポンポンと撫でてきた。
男にこういうことをされるのは結構抵抗感があったのだが、ルイスにされるのはあまり気にならない。
これがイケメン補正ってやつか。
「ところで、ルイスは騎士って言ってたけど、騎士ってどういうことをする仕事なんだ?」
俺は、会話を続けようとそう質問をすると、ルイスは嬉しそうに答えてきた。
「うん、やっぱあんま知られてないよね。騎士っていうのは簡単に言うと、ここスピカ王国を魔物や他国からの侵略から守る人達のことだよ。知っての通り、最近は魔族との戦いが激しくなってるからね。騎士はみんなそいつらと命をかけて戦ってるんだ。」
成る程、まあ、予想してたのと大方同じだな。ていうか、やっぱ魔物とか魔族とかいんのか。ほんとにファンタジーだなここ。
「じゃあ、やっぱり、ルイスも魔族たちと戦ったことがあるのか?」
「、、うん、まあ、そうだね。」
俺の言葉に少しルイスは言い淀んだが、すぐにいつものように真っ直ぐな声でそう言う。
「じゃあ、魔族ってどんな感じだったんだ?角が生えてたとか、人間と違って目が何個もあるとか。」
今のうちに情報を集めておこうと、俺はさらに質問をする。
「あー、魔族にはそういう偏見もあるよね。でも、魔族って姿は人間とあんまり違いはないよ。強いて言えば、魔力保有量が多くて、一部の魔族は異形になるってことがあるぐらいかな。」
「へー、そうなのか。やっぱ詳しいな。」
「そうでもないよ。僕より前線で戦ってる騎士はいっぱいいるからね。早くこの戦いが終わるといいんだけど、、。」
俺は、悲しそうに目を伏せるルイスを見て、やっぱりいい奴だなと思う。思うのだが、質問を止める気はない。
なんでって?そりゃ、こっちも命がかかってるからな!このまま城に行って、何も知らないで、下手なことを言ったらただじゃ済まないだろう。
ルイスが守ってくれると言ってくれたが、流石に上司に命令されたら諦めるしかない。
ということで、俺はこの世界に来てから、一番気になっていたことを聞く。
「なあ、ルイス。変なこと聞くかも知んないけど、勇者とかいんのか、ここには。」
すると、その瞬間、ルイスの雰囲気が変わった。
勿論さっきまでの優しいオーラもあるのだが、何か警戒するような、緊張感がある。
「え、えっと、ルイス?」
「、、その言葉、どこで知ったのかな?」
待って、怖い!!優しい奴がいきなり怒ると怖すぎるって!!、、やめて!?その目やめて!?仕方ないじゃん!うちの国では勇者とかみんな知ってるから!
ルイスからのプレッシャーに内心焦るが、俺には不本意だが、ある解決策がある。それは───
「ご、ごめんなさい、、。俺がいた国には勇者って人がいるって知られてたから、、。」
そう言い、俺は目に涙を溜め、くすんくすんと鼻をすする。元々から可愛らしい瞳が濡らされ、小さい鼻は赤く染まり、睨みつけてくる相手に罪悪感を与える。
あ、あとチラッと上目遣いすんのも忘れずにな。
「あ、いや、そ、そっか。ごめんね、ミオ。いきなり強い言葉使っちゃって。ただ、その事は結構重要な秘密だから。」
どうやら、効果抜群だったらしい。やっぱ根が優しいやつにはめっちゃ効くなこれ。
「、、でもそっか、よく考えたら、ミオが知ってるのも不思議じゃないか。関係者なんだし。」
俺が、一安心していると、隣から何やらルイスの呟きが聞こえてくる。
うん、?どういう事だろう、関係者って。
俺は嫌な予感を感じ、すぐに聞き返そうとするが、そのタイミングで。
「あ、着いたよ、ミオ。ここがスピカ王国の王城、アルファ城だ。」
ルイスがそう俺に言うと、門番に声をかけ、門が開けられる。
くそ、ミスった、!門番の前だし下手な事は聞けねぇ!
俺は仕方なくルイスの後に続き、門を潜る。
まずいな、勇者の関係者とか嫌な予感しかしない、
俺はそう気落ちしながら、とぼとぼと城へと入っていく。
何やらこちらをチラチラ見てくる門番の視線が、嫌に痛かった。
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