チンピラ到来
現在、異世界に飛ばされて途方に暮れている男、、名前を藤宮澪というが、彼のこれまでの人生は女子に間違えられること以外、平凡そのものである。
高校一年生だった彼だが、特段友達がいないわけでもなく、学校では少しヤンチャなグループに属しており、先生や親から怒られるのもしばしばであった。
ヤンチャをする行動理念が、見た目から舐められないため、であったのは言わずもがなである。
そんな、見た目に反し強気な彼だが、流石に今の状況には頭が追いつかないらしい。かれこれ10分ほど虚空を見つめていた。
「おい、キミ、大丈夫かい?」
時々、心配して話しかけに来る者もいたが、その度返事が返って来ず、今では遠くからチラッと見ても話しかけて来る者は居なくなっていた。
、、どうしたらいいんだこれ
気付いた頃には、ミオの周りだけぽっかりと穴が空いているような状態である。
やばい、放心状態の時に話しかけられて無視してたらいつのまにか孤立してた、、
まさに自業自得なのだが、知らない場所でこの状態はやばい。というか簡単に言うと詰んでいる。
そもそも、ここが異世界だったら元の世界に帰る必要がある。しかし、この世界に来た理由が謎である今、ミオに出来ることなどたかが知れていた。
そもそも異世界転移って、ニートみたいに人生詰んでるやつとか、一度死んだやつとかが望んでするもんだろ。俺はそこまで現状に困ってなかったし、むしろいい迷惑なんだけど。
異世界転移と聞くと、結構貴重に思ってしまうが、いきなり押し付けられても全く嬉しくない。ていうか、別の世界に行くなら姿も変えて欲しかった。
これで俺が、死んだ目をしてカッコいい癖毛で細マッチョ、とかになってたら甘んじて受け入れるよ?でも何にも変わってないじゃん。やられたことといえば、友達、家族、常識を全部デリートされただけなんだけど?
よくよく考えてみると、本当に面倒くさい気がして来た。俺はこれから何をして生きていけばいいんだ。
とりあえず、あまり人目につかない所行こうと、ミオは目線をあげ、裏道へと入る。
そこでこの世界の人々とすれ違い、気付いたことがあった。
髪の色は様々だと思っていたが、ミオのような黒髪の者はぱっと見いなかった。どうやら、この世界では黒髪は少ないらしい。目線を集めるのが自分の顔のせいだと思っていたが、それだけではなかったようだ。
ちょっと自意識過剰だったなと反省してしまう。
「さてと、これからどうしていこうかな、、。」
路地裏に腰を下ろし、そう呟く。
「まず、この世界の常識を知ることだろ。そして、お金を稼ぐこと。まあ、金って言う概念があるか知らないけど。ああ、あとは、異世界転移を知っている人を探すことだな。」
指を折りながらそう確認するが、いざ考えてみると、やることが抽象的で具体性がないな。まあ、この世界を全然知らないから仕方ないか。
俺は横目で大通りの方を見ると、トカゲが馬車の様なものを引いていた。
なんだよアレ、、
俺は自分の常識が通用しないことを改めて実感する。
しかし、となると、最初にやるべきは情報収集か、、。そういえば、さっき話しかけられた時は放心状態で気付かなかったけど、違う世界なのに言葉は聞き取れたな。
、、いや、なんで聞き取れんだよ。そういうとこだけは優しいのかよ。それならせめてこの世界の説明をしてくれる女神とか、転移の時にもらえる能力とかねぇのかよ。
俺はそう当たり散らすが、これも仕方ないだろう。ゆとり世代の現代っ子にこの仕打ちはパワハラである。
まあ、そう毒ついていても仕方ないので、現地民に話しかけようと、さっきまでいた表通りへ戻ろうと腰を上げようとする。
「全く、なんで俺がこんなこと、、。」
その時だった。
肩を誰かに触られたと思うと、上から体重がかけられる。
その拍子に中途半端にあげられた腰が床へ落ち、尻餅をついてしまう。
「な、なんだ、、?」
「よう、嬢ちゃん、良い格好してんな。」
声が聞こえた方へ顔を向けると、そこにはいかにもチンピラといった格好をしている男が、侮蔑と色欲の混じった目でこちらを覗いていた。
その姿に嫌な予感を感じるが、俺は極力目線が合わさるのを避け、もう一度大通りへ行こうと慌てて腰を上げようとする。
普段から女と思われているので、こういう目線には慣れているが、知らない場所でこういうことをされるのは正直怖い。
俺が起きあがろうとしているのを感じ取り、チンピラはもう一度俺を押さえつける。
ちっ、だりいな
「ええと、わたしに何か用でしょうか、?」
取り敢えず、チンピラに合わせて女のフリをしておく。舐められているのなら、舐められたままの方が後々役に立つだろう。声変わりしていないのもこう言う時は役に立つ。
俺がそう怯える様に聞くと、チンピラは気取った様に俺を上から見下ろし。
「あ?決まってんだろ。金目のものを出してくれりゃいいんだよ。もしくは体で払ってくれてもイイんだぜ?」
そう言い、土がついた汚い手を、俺の胸へと伸ばそうとする。
俺がそれを払い除け、後退りすると、男は思い出したように俺へ注意する。
「おっと、声をあげても無駄───」
「助けて下さぁぁい!!痴漢です!!!」
残念ながらこう言う手合いには慣れている。こういう奴らは大抵が口先だけで、ロクに捕まることに対策なんてしていない。恐怖で何もできない様にするだけである。
「テメェ、何してくれてんだ!?声あげてんじゃねぇよ!」
「声上げても無駄って言ったでしょ?じゃあ言ってもいいじゃん。」
俺がそう言い、ふっと笑うと、チンピラは顔を真っ赤にし手を震わせ始めた。
やっぱり口だけだったらしい。最初はちょっと心配だったが、頭が悪くて助かった。
俺がついニヤニヤしていると、チンピラは震えていた手を、俺の方へと向ける。今にも殴り出しそうな雰囲気だ。
おっと、怒りに身を任せて手をあげたりしないよね?このまま逃げるよね?
「ちょっと?殴るのは無しだよ?女の子に手をあげるとか最低だからね?」
俺は慌ててそんなことを口走るが、どうやら逆効果だったらしい。
「女に舐められて逃げられるか!!俺を馬鹿にしたこと後悔させてやる!!」
クソ!やっぱ頭悪いはこいつ!どうせ捕まんだからそのまま逃げろよ!
俺が毒つく中、チンピラはそのまま振り上げられた拳を俺の方は振り下ろす。
あ、本気でやばっ、、、
「死ねや、ガキ!!!」
パシッ
俺は来るであろう痛みを、目を瞑り怖々と待っていたが、痛みが来る代わりに、乾いた音が聞こえて来た。
「女の子に何してるんだい、キミ。」
何やら前から声が聞こえる。
恐る恐る目を開けると、そこには、白いスーツを全身にまとった茶髪の青年が立っていた。
「な、なんだお前、!?」
チンピラの焦った声が聞こえてくる。
チンピラの拳を止めた青年は、そう聞かれ爽やかに。
「僕かい?僕はルイス・イヴァン。王国の騎士だよ。」
騎士!?騎士とかいるのか!?
騎士と聞き興奮する俺だが、対照的にチンピラの顔は青ざめていく。
「諦めて投降してくれるかな?そっちの方がお互い幸せだと思うんだけど。」
ルイスはそうにこやかに尋ねると、チンピラは意外にも素直に顔をうなだれ頷いた。
馬鹿は馬鹿らしく強行突破すると思ったが、、そこまで馬鹿では無かったらしい。
「良かった。じゃあ、キミはちょっとそこで待機しててね。」
そして、チンピラが大人しくなったのを確認し、ルイスはさっきまでの笑顔のまま、俺の方を向く。
「あ、あの、助けて下さいありがとうございます。おかげで助かりました。」
慌ててそうお礼を言う俺を眺めルイスは爽やかに。
「当然のことをしたまでです。それより───」
俺の手を取り片足を立てて座り込むと、さっきまでの笑顔が真剣な表情になり。
「王国の城まで来てくれませんか?」
え?
そう俺に頭を下げて来た。
、、ああ、もう意味がわかんない。
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