新天地にて。手紙を出しましょう
とある手紙の内容
『拝啓 【疾風の狼殺し】様
(季節のあいさつ、略)
さて、早いもので、私たち【マリオネット】が王国から離れて5年が経ってしまいました。
みなさまにおかれましては近年新しく王国掃除者組合を創立したとのことで、そのご活躍を遠い私たちの国【アンノーン共和国】でも聞き及ぶことがございます。
そのおウワサを聞くたびに王国での日々が思い返されてとても懐かしいです。
国家転覆未遂の事件から王国はずいぶんと変わりましたね。名だたる貴族家が潰れてしまった影響もあり、今後は議会制民主主義に移行するのだとか。
より良く暮らしやすい国へとなりますように、遠くの国からではありますがお祈り申し上げます。
今度、王国の近くを通りがかる機会がございますので、そのときにでもこっそりとガラムの町に寄ってみようかと思います。
その際にお会いできれば嬉しいです。
私たちは成長盛りなので、きっと驚かれることと思いますよ。特に、グリムなんかは身長がすごく伸びて、すっかり男前になってしまって。
それではまた、再会できるときを楽しみにしております。
シャルより、深い敬愛の念を込めて。』
* * *
「──はいっ、投函っと」
人通りもまばらな田舎町。ポツンと置いてあるこの町唯一の郵便ポストに、先ほどしたためた王国宛の手紙を入れる。たぶん3週間後くらいには届くはずだ。
私は鼻歌混じりにスキップでお家へ帰る。
──みなさまこんにちは。わたくし、シャルです。14歳になりました。
昔と変わらず元気はいっぱいです。身長はけっこう伸びました。160cm近くにはなったかな? なるべく毎日お肉や牛乳を摂っていた成果でしょうか。
──それなのに、まったく不思議なこともあったものです。
山も無ければ谷もない、そんな薄い胸板を見下ろすと足の甲が余すところなく見えてしまいます。あれ、どうして? グラマーになっているはずの大人の私はいったいどこに?
──コホン。とりあえずそれは置いておいて。
私とグリム、それにスドは1年ほど前から【アンノーン共和国】という国に拠点を置き、いまは憧れだった【冒険者】となって日々楽しく過ごしております。
この国には未知の遺跡・生物が眠る森、異次元に繋がるといわれている谷、そして世界で1番高いと言われる前人未到の山があり、そういった場所を開拓するための冒険者ギルドがあるのです!
「さあっ! 今日も冒険に行くよーっ!」
「分かっておるわ。我もグリムもシャル待ちじゃ。さっさと準備をせい」
なだらかな丘の上にある赤い屋根のこぢんまりとした我が家。そのドアを開くと、すでにグリムとスドは準備万端といった様子だった。
「シャル様、こちらをどうぞ。すでに必要なものは用意しておきました」
昔に比べて少し低くなった声。グリムがリュックを手渡してくれる。
「ありがとう……それにしても、大きくなったねぇ、グリム」
「え? どうしたんですかいきなり?」
「手紙を書いて昔を思い出してたら、ちょっとね」
たぶん身長はもう180cmを超えてるんじゃないかしら。肩幅もガッチリして、とても男らしい体格になっている。顔つきは可愛いまま変わらないけど。
「まったく、なにを感傷に浸っておるんじゃ。早く行かんと日が暮れてしまうぞ」
「ごめんごめん」
スドに急かされてリュックの中身を確認する。ひと通りの冒険道具一式がそろっていた。
「これだけあれば今日行くところは大丈夫そうだよね?」
「そうかと思います。今日は来週以降に通るルートの当たりをつけるのみですので」
「だよね。よしっ! じゃあ行こっか!」
さて、そんな軽いノリで踏み入った森の中です。
当たりをつけるべきルートを見つけ、それじゃあ帰ろうかといったとき、
「のぅ、シャル。この大木に空いている穴、向こう側に通じてるみたいじゃぞ?」
「えぇ? ……あ、ホント。風の抜ける音がするわね」
「おもしろそうじゃの。我らならちょうど通り抜けられそうじゃ。ちょっと行ってみんか?」
「ちょっとスドさん。ダメですよ。僕たちは今日は最低限の装備しかないんですから」
「お堅いヤツじゃのぅ、グリムは。ホントにちょっと覗いてみるだけじゃ!」
「ダメったらダメです! ねっ、シャル様、そうですよねっ?」
「……えっ? わ、私?」
「……シャル様?」
──う~~~ん……。グリムの言うことはもっともなんだけれど。私もちょっと行ってみたいかもだなぁ……なんて……。
スドのワクワク顔と私のウズウズ顔に挟まれてか、グリムは諦めたようにため息を吐いた。
「本当に、ちょっとだけですからね……」
「よーし、グリムも折れたようじゃし、ゆくぞ! 我についてくるのじゃ!」
「おー!」
そうして大木の穴を抜けた先には未発見の大きな樹上遺跡。多くの枝葉と木々に囲われて地上とは隔離されたひっそりとした場所にそれはあった。
そして、それを守るように入り口に佇むゴーレムが1体。ギギギ、と首を回して私たちの方をみた。
──えーっと、このパターンはまさか……。
〔シンニュウシャ ヲ ハッケン…… ハイジョ ヲ カイシ シマス……〕
プシュー、と蒸気を出すような音とともに、そのゴーレムが高速でこちらに向かってきた。
「シャル様っ! 僕の後ろへっ!」
グリムが背中に背負っていた大剣を抜き、私の前に出る。
「ご安心を。必ずお護りしますので」
グリムはゴーレムの攻撃をなんなく止め、そして斬り返す。
──本当に大きく、たくましくなったなぁ……。
その背中を見て、私の心は温かな気持ちに包まれるのだった。
* * *
すっかり日も暮れた夜。アンノーン共和国、その冒険者ギルドへと私たちは帰って来た。
「ただいまです~」
「あっ、【マリオネット】のみなさん、おかえりなさ──ってなんでそんなにボロボロっ⁉」
なじみの受付嬢にびっくりされる。まああのゴーレムを倒したあと、未発見の遺跡の中を最低限の装備でウロウロしてしまったので仕方ない。罠という罠にハマり、そして結局最深部まで行ってしまった結果だ。
というわけでそんな報告をかくかくしかじかと済ませる。
「はぁ~……相変わらずすごいですね……! さすがこの共和国が誇る特級冒険者チームのみなさんです! 遺跡の発見と攻略とのことですので、早ければ明日には報奨金をお渡しできるのですが、ご予定はいかがでしょうか?」
「明日はちょっとお休みする予定なので、来週でもいいですか?」
「ええ、はい。もちろんです。ごゆっくりお休みくださいね~!」
ホントは明日に備えて軽く済ませようと思っていた冒険だった、にもかかわらず、なぜだかとってもハードワークになってしまった。
まったく、明日はお出かけの約束があるというのに。
まあ、好奇心に突き動かされてしまった自分が悪いんだけれど。
ギルドから少し歩き、丘の上の我が家に着く。
「さあ風呂じゃ~我が1番風呂なのじゃ~」
「はいはい。私は装備の手入れをしてからでいいかな……っと、あれ?」
ドアの郵便受けに手紙が挟まっていた。
差出先は……こことはまた別の国。差出人は【エリーデ】だ。
「今日は縁があるのかしら……王国時代のことに」
エリーデは私たちと3年間ともに旅をしたあと、やりたいことを見つけたからということでとある国に拠点を置くことにしたのだ。なんでも孤児院を開いたとか。
手紙を開いて、読む。
「へぇ……順調なのね」
その内容に、思わず微笑んでしまう。
エリーデはいろいろな国を旅しつつ、才能のある恵まれない子供たちを保護する活動をしているらしい。
そしてその才能の役立て方を教え、その子供がさらに多くの人々を救える人間に育つ手助けをするのだそうだ。
「変わったわね、本当に」
手紙の末尾には『あと、ウィーズも元気にしてるわ。いつも横でうるさいのだけれど黙らせる魔術ってないかしら』と愚痴っぽく1文が添えられていた。
──あ、そうそう。ウィーズだけれど、彼はひと通りの私たちとの旅に満足したのか、今度はエリーデについていって孤児院の手伝いをしてるのよね。
あとこれは完全に私の憶測だけれど……たぶんウィーズはエリーデに惚れてる。
旅の道中で弱々しかったエリーデが少しずつ元気を取り戻すにつれて、なんだかウィーズも元気になっていっていたし、途中から2人で話すことも多くなっていた気もした。
エリーデはたぶん気づいていないだろうけど。
──天才ゆえの恋心への鈍さ、ってやつかしらね……いや、そんなことあるかな? テキトー言ってる気がするわ、私。
まあなんにせよ、ウィーズよ、がんばれ!
2人の今後の道行きに幸あれっ!
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