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公開処刑って残酷ですね

 3日後、王宮前にはいままでに見ないほど大勢の人々が集まっていた。

 

「おいっ! 来たぞッ!」


 誰かの声が発せられて群衆がざわめき、そしてその視線は次第に一方向に集まった。

 王宮の横にある法廷、その入り口から複数の人影が現れる。

 

「道を開けろ」

 

 群衆を割って、魔術師と思しき男たちが歩く。

 その後ろを、ジャラジャラという鎖の音を鳴らして続く者がいる。それは目隠しに口枷くちかせをされ、両手をきつく縛られた少女。

 

「あれだ……! あれがエリーデ・ディルマーニだッ!」


 エリーデのその姿は遠目から見てもボロボロだった。

 顔はアザだらけ、まとう衣服はボロ布同然のもの。黒い首輪から前後に伸びる鎖は男の手に握られており、少しでも歩くペースが乱れると強く引っ張られる。

 

「死ねッ! 長く苦しみ罪を償えッ! エリーデ・ディルマーニッ!」

「最低最悪の悪魔めッ! 聖なる火で燃やし尽くされろッ!」

「火にかけるだけじゃつまらない! その前に手足をちょん切って豚のエサにしようぜッ!」


 群衆から上がる怒り、そして面白がるような声。まるで祭りの日のように人々は騒ぎ立てる。

 しかし、それも仕方ない。王都民にとって罪人の公開処刑とは1つの娯楽なのだから。

 

「──まあ、一種のライブイベントよね。野外でみんなで1つのことに盛り上がって一体感を、そして罪人が苦しんで死ぬ様を見ることで歪んだ快感(カタルシス)を得る。私はあまり好きになれそうにないけれど」

「……僕もです。確かにエリーデ様は大変なことをしてしまいました。シャル様の命を狙ったことを許すつもりは僕にもありませんが、それでもこれは……少し、残酷過ぎます」

「まあこれも人のさがよ。悪人よりも残酷なことができるとしたら、それは善人じゃ。人は自分が正義の側に立っていると信じるとき、悪に対して非情になれるものだからのぅ」


 熱狂に包まれる王宮前の様子を、私たちはとある建物のうえから見下ろしていた。

 エリーデを連れた男たちは刑の執行のために組み立てられた台へと向かって移動している。

 

「うむ? 死刑台に誰か現れたようじゃぞ?」

「あれは……確かオットー・ダリヒシュタイン主席魔術師、じゃなかったかしら。この前お礼してもらったときに少し会ったわ。空いた主席に、第三席次から繰り上げで就任したっていう人よ。たぶん、今日の刑の執行の責任者なんじゃない?」

 

 エリーデが死刑台へ到着すると、オットー主席は群衆に向けて術式を展開する。

 声を遠くまで届かせるための風属性魔術だ。


「これより、エリーデ・ディルマーニ元王宮主席魔術師の公開処刑をり行う」


 とうとう始まるのだと、群衆が一段と騒がしく盛り上がる。

 

「罪状を述べる。国家転覆罪ならびに158名の貴族家当主の殺害、そして王国民の大量虐殺未遂だ。それでは処刑人、エリーデ元主席魔術師を縛りつけたまえ」


 新たに台へと登ってきた大柄の男がエリーデの身体を乱暴に持ち上げ、台の上に設置された火刑場所、その直立した丸太へと押し付けた。そして何重にも縄を巻き締め上げる。

 オットーは身動きの取れなくなったエリーデへと近づくと、その目隠しと口枷くちかせを外した。

 

「エリーデ・ディルマーニ元王宮主席魔術師に尋ねる。なにか言い遺すことはあるか?」

「……」


 エリーデはまぶしそうに空を見上げたまま、なにも話そうとはしない。

 丸太にくくられ、火を灯すための藁に囲まれて、しかしその表情は変わらなかった。

 迫る死を恐れて泣いているわけでもなく、悲嘆に暮れているわけでもない。


「おい、ふざけんなぁッ! 謝罪はどうしたぁッ!」

「生まれてきて申し訳ございませんぐらい言ったらどうだコラァッ!」

「拷問しろ拷問! こんなヤツすぐに殺すなっ! 苦しませろッ!」


 エリーデの無反応が面白くない群衆が死刑台へと近づこうとして、近づけさせまいとする兵士ともみ合いになる。場が一時騒然となった。


 ──さて、そろそろ頃合いかしらね。

 

 私たち3人は互いに頷き合うと、建物のてっぺんから跳んだ。

 エリーデのいる、その死刑台めがけて。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「シャルロットは今後どうなるのっ……!」


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