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さあ、反撃を開始しましょう

 私はまた身体強化魔術で勢いよくエリーデとの距離を詰める。

 

「寄るなッ!」


 するとどうにも私から距離を取りたいらしく、力任せに殴ってくるエリーデ。

 

 ──いまのエリーデには実体がない……つまりアンデッドと同じで物理障壁が効かないかも。

 

 顔面狙いのそのパンチを首を傾けて避ける。やはり、本来なら私の手前で自動で発動するはずのシステム化魔術は起動しなかった。

 

 ──厄介。だけど結局それってただのケンカの条件と同じね。

 

 相手のパンチが私に届き、私のパンチも相手に届く。

 それならやることは1つ。

 

「はぁぁぁあッ!」


 私にパンチを放ったままがら空きの左頬に、私はすかさず聖属性魔力の恩恵を得た右拳を叩き込む。

 1発じゃ終わらない。2発、3発。続く限り何度だって殴ってやる。

 

 ──要はね、相手に殴られる前に殴りまくるだけってわけよ!

 

「調子に、乗るなぁぁぁッ!」


 エリーデが私を遠ざけるがための大振りの横殴り。でも、そんなの当たらない。


「ッ⁉」


 悠々《ゆうゆう》と、私は軽く身体を屈めてその一撃をかわす。


「アンタ、まともなのは身体(さば)きだけなのねッ!」


 まあそれも仕方ない。だってエリーデは魔術師なのだから。素手での殴り合いなど初めから想定していないだろう。

 魔術師にとっては身体を動かすのは相手の攻撃を避けるための手段に過ぎない。

 

 ──それがここじゃ仇になったわね!

 

 屈めた身体を一気に伸ばし、その勢いと共に固く握りしめた右拳でアッパーカット!


「ガハッ!」


 クリーンヒットだ。

 口の中が切れたのだろう、血を吐き散らしながらエリーデが尻もちを着く。


「な、なんで……ッ!」

「なんで? 決まってるでしょ、経験値の差よ」


 私だってケンカはド素人もいいとこだ。でもこれまで間近でモンスターと戦闘してきて、何度かグリムと模擬戦闘をしたこともある。

 システム化魔術との相性的にも遠距離の戦闘の方が得意だけど、でも私は至近距離での戦闘もばっちこいだ!


「こんなの……こんなこと、許されない……ッ! 私は、私はここで負けるわけにはいかないのよ……ッ!」

 

 フラフラと、震える膝を手で押さえつけるようにしてエリーデが立ち上がる。

 

「私は、1番でなきゃいけないの……ッ! この王国で1番の才能を持つ、最強の存在でいなきゃいけないのよ……ッ!」

「……どうして、なんでそこまで1番にこだわるの」


 エリーデはフンッと鼻を鳴らして笑った。


「決まりきったことだわ……っ。私が最強の存在でなければ、どうして王国すべての人間の選別をする資格があるというのっ? 私が1番だからこそ、私に次ぐ才能を持つ、生きる価値のある人間を掬い上げられるのよっ!」

「……なんで、そこまでして選別をしようとするの? 才能のあるなしなんて関係ない、アンタが人の命の奪う理由になんてならないわ!」

「──なるわよッ! それが私がこの世界で生きる場所を得るための、唯一絶対の方法なんだからッ!」


 エリーデが叫ぶ。再び、エリーデの身体から勢いよく黒い魔力が噴出した。バチバチと赤い雷を伴って。竜巻のようなエネルギーの奔流ほんりゅうが彼女を包む。


「この世は、私が生きていくにはあまりにもみにくすぎる! 血統だとか、地位だとかそんなものに縛られてばかり。咲き誇るべき才能が無能な貴族どもに踏みつぶされる不条理が横行する醜い世界! そんなだから誰も私についてこれない、追いつけない! いまのままじゃ、このままじゃ、きっとこの先もずっと、私は……ッ!」


 エリーデの右拳に黒い魔力、そして赤い雷が集中していく。

 

「ノイズばかりが大きく響く、こんな豚小屋みたいな世界はぶち壊してやるのよッ! そして私がその跡地にすべての才能ある者が輝ける世界を創る! それが私の夢だからッ!」


 エリーデが再びの大振りで、その拳を私へと突き出してくる。

 相変わらずの隙だらけの構えだ。

 

 ──こんなの、また避けて返り討ちに……っ!

 

 と、しかし。

 私が避けようと身体の位置をズラした瞬間にエリーデのパンチが止まる。

 

 ──フェイント……ッ⁉


「こっちよッ!」


 突然の左フック。右手につられていた私はノーガードで横っ面を殴り抜かれる。

 バリィッ! と身体に電流が流れる感覚。しまった、と思ってももう遅い。

 閉じる思考。襲い来る意識の断絶(ブラックアウト)

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 『どうして私以外の人間たちは、私とこんなにも違うの……?』

 

 不意に、頭の中に流れ込んでくる見慣れぬ情景。

 

 ──その幼女はすべてが虚ろに見える目をつむり、耳を塞ぎ、そうしてただ膝を抱えて縮こまっていた。

 

 それは私の中にあるはずの無い記憶。私ではない誰かの視点を持った記憶だった。 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「──カ、ハッ⁉」

 

 視界が戻った。一瞬、エリーデによる電撃を帯びた拳を喰らって意識がどこかに飛んでいた。


「はぁ……っ、はぁ……っ」


 電撃を喰らったせいか、呼吸が荒くなってしまった。

 

 ──いや、そんなことよりも、いまのはいったい……っ?

 

 さっきの一瞬、電撃と共に私の知らない景色が私の頭の中に直接流れ込んできた。

 あれはまさか……エリーデの記憶なのだろうか。

 

 ──分からない……。分からないけれど、もし本当にそうなのだとしたら。


「シャルロットォォォオ──ッ‼」


 エリーデが私へと詰め寄って、再び腕を振り上げる。黒い魔力と赤い電流の込められた拳。

 今度こそ、正真正銘、それは私の顔面をまっすぐに狙って放たれた。

 

 ──私は、知りたい。なにがそこまでエリーデを駆り立てているのか、どうしてもそれを知りたい。

 

 だから、私はそれを防ぐことはしない。

 だってきっと、その先にはエリーデの本質が待っているはずだから。

 私の頬に突き刺さる右ストレート、そしてバリィッ! と。赤い電流が身体を流れ、痛みを残し、そして私の意識をシャットダウンさせるその一瞬の時間。

 エリーデの記憶が、私の脳へと繋がった。

「面白かった!」


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「シャルロットは今後どうなるのっ……!」


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