再会しました(ホッとしました)
赤い毛並みをした巨大な狼は、ドラゴン・ゾンビを蹴った反動で華麗にバク宙を決めると私たちの側に着地。
〔フンッ!〕
そして無駄の無い動きで振り回した尻尾の攻撃が魔術師たち、そしてアンデッドたちをまとめて吹き飛ばした。
「んな……ッ⁉」
〔……フンッ! なるほどじゃのぅ〕
驚愕するエリーデを見て鼻を鳴らしなにかを呟くと、それから私たちの方へと向いた。
〔どうやら待たせたみたいじゃのぉ〕
その声は、やっぱりそうだ。それはまごうことなき私たちの仲間。
「──スドッ!」
ようやく会えた! 無事に会えた! なぜか、視界が滲む。
──あれ……なんで私泣いてるんだろ……。
たぶん嬉しくて。どうしようもなく押し寄せるその感情に、いまの状況をわきまえることなく私の涙腺は崩壊した。
「……もぉー! 待ったし探しもしたよ! もぉー! どこ行ってたのぉ!」
〔な、なんじゃなんじゃっ? どうして泣くのじゃ!〕
「だって……! だって急に居なくなるんだもんっ! スドのばかーっ!」
〔し、仕方なかろう。我が飛ばされた時間軸はついさっきだったんじゃ。我は悪くない! これじゃからあの悪竜は厄介なのじゃ! ……と、それにしてもしかし〕
スドがドラゴン・ゾンビの方を向いて、顔をしかめる。
〔なんじゃアイツは? どうしたことか、腐っておるぞ?〕
「私とグリムとウィーズたちエルフの村のみんなで戦って1回倒したんだよぉ! もー! スドのあほーっ! 私たちのこと庇って、一瞬だけ死んじゃったんじゃないかって心配したんだからねっ!」
〔そ、それはお主らが我の言う通りに逃げんからじゃろうが……というか、お主らが倒したのか? あの悪竜を?〕
コクリと頷くと、スドは〔ほほぅ〕と感心した表情に。それからニヤリ。
〔グリムもずいぶん成長しているみたいじゃし……ふむ。まあ離れて悪いことばかりでもなかったみたいじゃのぅ〕
「へ?」
私にはよく分からない思わせぶりなことを言うスドにちょっとムカチン。
「なに言ってるのか分かんない! 悪いことだらけだったもん! もう会えないんじゃないかって怖かったんだからねっ!」
〔ス、スマンスマン。だがちょっと落ち着けシャル〕
「おぅふっ!」
情緒がバグっている私へと、スドが尻尾を押し付けてモフらせてくる。干したての布団の暖かさと太陽の匂い包まれて、一瞬にして心がふんわりほぐされる。
〔グリム。久しぶり……なのかのぉ? 我としてはお主らと離れたのはほんの半日ばかりの感覚なのじゃが〕
「私たちからしてみれば3週間以上離れていましたよ、スドさん。こうしてまた無事に会うことができて僕も嬉しいです!」
〔うむ、そうか。しかし再会を喜んでいる場合でもなかろう。とりあえずいまのシャルだと話にならんからお主が状況を説明せい〕
私が暖かなスドの尻尾のモフモフに包まれてる最中、グリムがことのあらましを説明してくれているようだった。
〔──ふむ。エリーデ・ディルマーニ、ライラにも勝るとも劣らない恐ろしい才能の持ち主じゃのぅ。まだ幼きその齢で禁呪にまで到達したか……。シャルっ!〕
状況を把握し終えたスドが私をモフモフの尻尾から解放する。
〔シャル、もう落ち着いたな?〕
「うん。ちょっとは落ち着いた……」
〔では訊くが、部屋の隅におるあのエルフは味方か?〕
「え、うん。彼はウィーズ。新しく私たちの仲間になったエルフだよ」
〔そうか。エルフの村には行ったのだな。【アレ】は持っておるか?〕
「……アレ?」
〔銀色の球じゃ〕
「あ、あぁ! うんっ! 持ってる! 貰ったの!」
エルフの村を出るときに村長に貰ったものだ。
上着のポケットを探ると、やはりそこに入れたままになっていた。
〔よいか? その球にはあるエルフの込めた、四賢者の遺物にも匹敵するほどの聖属性魔力が込められておる。その力ならば【魂喰らい】と化したエリーデにもダメージを与えることができるじゃろう〕
「これにそんな力があったんだ……でもどうしよう、私1個しか貰ってないよっ?」
〔それは仕方あるまい、元よりそれ1つしかないのじゃからな。シャルよ、その1発をエリーデの心臓へと撃ち込んで勝負を決めるのじゃ〕
「っ!」
球を心臓へと撃ち込む。それってつまり──。
「殺す、っていうこと……?」
〔いいや、違う。【魂喰らい】には実体は無いからの、胸にあるのは心臓ではなく鬼属性の魔力の【核】じゃ。それを撃ち抜けばやつはただの人間へと戻る〕
「……いま魂を抜き取られた人たちや操られている人たちはどうなるの?」
〔治るじゃろうて。300年前もそうじゃった〕
その答えに、なんだかあたりに一気に光が差し込んだように、これからやるべきことがはっきりとしてきた。
〔お主が難しいと言うのであれば我がやってもよいが、どうする?〕
「ううん。私がやるわよ。【魂喰らい】だかなんだか知らないけれど、いちおうアレでも姉だし。私がお灸をすえてやらないと」
〔そうか。それなら我はあのドラゴンを相手にしよう。グリム、お主はそこの魔術師たちを相手にせい〕
「はいっ! お任せを。シャル様の戦いの邪魔はさせません!」
〔ゆくぞっ!〕
スドは言うやいなやその場から姿を消し、一瞬でドラゴン・ゾンビの元へ。
〔ここは手狭じゃ。外で仕合うとしようぞ〕
強烈な尻尾での一撃でドラゴン・ゾンビもろとも王の間の壁を砕いて外へと飛び出していった。
「さあ、エリーデ。仕切り直しよ……っ!」
「……ふんっ! なにやら私に対抗する手段ができたようだけれど……それがなに? 調子に乗るんじゃないわよ、シャルロット!」
1歩ずつ距離を詰める私へと、エリーデが手を振るう。
「結局、私に近づくことができなければ無意味! 行きなさい我が僕たち!」
操られている周りの魔術師たちがいっせいに術式を起動するが、しかし。
「──フッ!」
高速で移動するグリムがそのすべてを叩き消していく。
属性魔術を無効化するシステム化魔術が起動するまでもない。私の周りの空間はとても静かに、グリムによって一部の隙も無く護られていた。
「く……っ⁉ でも私にはまだアンデッドたちが──」
エリーデは新たな指示を送ろうとして、
「なによ、これっ!」
アンデッドたちはいつの間にか光の糸で身動きを封じられていた。
「俺には……これしかできないが……っ!」
「ウィーズっ!」
部屋の隅、青い顔のウィーズの手は聖属性魔術の光に満ちていた。
「クソッ! 死にぞこないのエルフが……っ!」
怒りに、エリーデは黒い魔力をほとばしらせウィーズをにらみつけた。そしてその身体を再び地面の影へと溶け込ませようとする。
恐らく再び瞬間移動のようなあの技で、邪魔者を殺しに行こうとしているのだろう。
──そんなこと、絶対にさせるものかっ!
拳を握りしめると、あふれ出す白い光。これって、まさか……。
私はエリーデが私以外に気を取られている一瞬のうちに、身体強化魔術によってその距離を一気に詰める。
そして銀の球を握りしめたこの右拳を思いっきり振るった。
「──ゲホッ⁉」
痛烈なボディーブロー。エリーデへのみぞおちへと綺麗に決まる。
──ああ、効いてよかった。やっぱり、これって握りしめた状態でも聖属性魔力の恩恵があるのね。
そうと決まれば私たちの反撃はここからだ。
「覚悟しなさい、エリーデ! いまからアンタの性根を叩き直してやるわ!」
私は、後ずさりするエリーデへビシリと指を突き差した。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルロットは今後どうなるのっ……!」
と思ったら
この画面の下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
なにとぞ、よろしくお願いいたします。




