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絶体絶命のピンチです

 爆炎が空中のドラゴンから放たれて、地上からはアンデッドが襲い掛かってくる。

 

「逃げ場が……っ! グリムっ!」

「はい!」


 私はグリムに抱えられて、風の賢者の指輪に宿る【素早さの加護】に支えられた高速移動に身を任せるしかない。

 

「なんでドラゴンまで操れるのよっ!」


 防戦一方で苦しむ私たちを見て、エリーデが大きく笑う。

 

「それはね、あのドラゴンの封印を解いて召喚したのが私だからよ。召喚状態を解けば死骸だろうと私の元に戻ってくるのは道理じゃない?」

「エリーデが……召喚したっ⁉ なんで、どうやってっ!」

「うふふふっ! ねぇ、シャルロット? 貴女、トールス・ディルマーニとライラ・ディルマーニの名前を知っているかしら?」

「っ!」


 知らないわけはない。それは私たちディルマーニ家のご先祖様であり、私やグリムにとっては恩人そのものだ。だって彼らの知識があったからこそ家出もその後の掃除者としての生活も成り立ってきたのだから。

 

「ディルマーニ家の隠された書斎にあったのよ。彼らの遺した手記、そして魔本がね。そこには彼らの旅についてとその道中で出くわしたドラゴンの封印術式についてが書いてあったわ。だからその術式を逆算し封印解除術式を導いて、さらにそこに私のモノとするための召喚術式を混ぜ込んだというわけ。割と簡単で助かったわ」

「……っ! ホントに嫌になるわね、天才ってヤツは!」

「ふふふっ! 褒め言葉として受け取っておくわね。しかし、試しに貴女たちを襲わせてみたのだけれど、まさか返り討ちに遭うとは思っていなかったわ。貴女たちも強くなったようね」


 エリーデの身体から再び黒い魔力が立ち昇る。


「シャルロット、貴女の実力を侮って味わったあの屈辱を私は忘れていない。だからもう2度と油断なんてしないわ」


 エリーデが今度は指を鳴らす。すると今度は王の間の入り口が開き、そこから虚ろな目をした人間たちがゾロゾロと入ってきた。

 

「彼らはこの王宮に勤める席次魔術師たち総勢17名よ。私の足元に及ぶほどではないけれどそれなりの実力者ぞろい。私の鬼属性の魔術で彼らの魂を少しいじっているから、いまや完全に私の奴隷だけどね」


 人形のように感情の見えない魔術師たちはあらぬ方向を見据えたまま、手だけをこちらに向けて多数の術式を展開してくる。

 火の槍、水の刃、突風、土のつぶて。それらが幾重の束となって私たちに降りかかった。

 

「く……っ!」


 グリムがスピードを上げ、さらに避けて避けて避けまくる。

 しかしその避けた先には新たなドラゴンの爆炎、アンデッドの待ち伏せがあり、もはや攻撃の降りかからぬ場所がない。一度でも立ち止まればそのままハメ技のように抜け出せない連続攻撃に遭うのは確実な状況だ。

 

 ──ヤバいわ。本当にヤバい。せめてどれか1つ止めないことにはどうにも……っ!


「はぁ……っ、はぁ……っ」


 グリムの息があがってきている。それはそうだ、グリムの体力は無限じゃない。

 なにか、なにか対策を考えなきゃ……っ!

 必死に頭を回転させていた、その時。


〔──遅くなったのぅ〕


 それは、とてもとても懐かしい声だった。

 ドラゴン・ゾンビが穴をあけた王の間の天井、声はそこから聞こえてきた。

 月明りをさえぎって飛び込んできたのは、燃えるように真っ赤な毛並みをした美しい狼。

 

〔王国最古・最強キーーーックッ‼〕


 エンシェント・ウルフの長であるホロウ。巨大な狼が王の間に飛び込んで、空中に留まるドラゴン・ゾンビを強烈な後ろ蹴りで吹き飛ばした。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「シャルロットは今後どうなるのっ……!」


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