それは反則《チート》過ぎるじゃありませんか
アンデッド。それが物理攻撃の効かない、厄介極まりない相手だということはガラムの町で身に染みた。
だけれども、その弱点についてももう分かっている。
「ウィーズ! お願いっ!」
「任せろっ!」
ウィーズが両の手のひらを合わせると、そこに光の糸が生まれ出る。
「はぁ──っ!」
そして正面、アンデッドたちを横薙ぎするように糸を振るう。糸はまたたく間に絡まって身動きを封じた。
──【システム:圧縮球】、起動。繰り返し×30!
光の糸に捕らえられたアンデッドは物理攻撃をすり抜けさせることができなくなる。
束になって掛かってきたそいつらは私の圧縮球に吹き飛ばされて、呆気なく玉座の後ろの壁に叩きつけられた。
「へぇ……聖属性魔術。ということはエルフがいるの。それは厄介ね」
ぼそりとボヤくエリーデだったが、ちょっとそれは余裕を見せすぎというものだ。
「──エリーデ様っ! お覚悟っ!」
グリムが一瞬のうちにエリーデの後ろへと回り込んでいた。
ディルマーニ家を出てからの私たち──とくにグリムの成長は著しい。この場にいる誰も、もはやグリムの動きを肉眼で追うことなどできやしないのだ。
「せいっ!」
恐らく殺さないための手加減なのだろう、グリムは平面の部分を使って殴りつけるように剣を振り下ろす。
が、しかし。
「ふふふ……」
その剣での攻撃を受けるやいなや、エリーデの身体が黒く、そして燃え尽きた炭のようにボロボロと崩れ落ちていく。
「なに……? どうなってるの……?」
完全に崩れ切ると、そこにエリーデの姿は見えなくなった。
まるで影に吸い込まれるように、跡形もなく。
「──ぐぅっ⁉」
私の横から聞こえたその声に勢いよく振り向くと、
「もうね、私にはそんな攻撃効かないのよ」
エリーデがウィーズの背後に立っていた。
その鋭い手刀で、ウィーズの腹部を貫いた状態で。
「ウィーズっ⁉」
私はとっさに身体強化魔術を発動し、エリーデへと飛び掛かる。
しかし、私の手は空を切った。
「効かない、と言ったばかりよ?」
エリーデがまた床に落ちる自身の影に吸い込まれるように私の目の前から消えて、別の場所へと現れた。
しかしいまはそんなことよりも。
「ウィーズっ! しっかり!」
「く、クソ……っ! 油断した……っ!」
「ダメよ喋っちゃ! とにかくいまはヒールに専念してっ!」
グリムが駆けつけてくれたので、王の間の隅へとウィーズを退避させるようにお願いをして、私は再びエリーデへと向かい合う。
「エリーデ、アンタいまいったいなにをしたの……? まさかそれもアンタが発見したオリジナルの魔術ってわけ?」
「いいえ。これはこの王国に古くからある魔術よ? まあ【禁呪】と呼ばれて一般社会からは隔離されているものだけれどね」
「禁呪……?」
「ええ。複数の強力な魔術師の魔力を生贄に捧げることで自身の身体に授けることのできる呪い。この王宮に封印されている魔本に儀式のやり方が書いているのよ。私はそれを読みたいがためにこの王宮の主席魔術師となり、そして最強の力をこの身に宿したというわけ……。これを見なさい」
エリーデが右手の指を見せつけてくる。そこにはめられているのは美しい赤色と青色の宝石があしらわれた2つの指輪だ。どこか、見覚えがあった。
「これは火の賢者と水の賢者の指輪よ。見覚えがあるでしょう? だって貴女も1つ、土の賢者の指輪を持っているのだから」
「……どうしてそれを知っているの?」
エリーデがなにか気でも食わないようにフンッと鼻を鳴らす。
「数か月前、私が古文書を頼りに四賢者の遺体を探しに採石場に行ったのよ。すでにもぬけの殻だったわ。それで近くのガラムの町のギルドを訪ねたら、以前に幼い少年少女を含んだ掃除者チームが討伐依頼を受けて行った場所だっていうじゃない。そのときピンときたわ。これはシャルロットのしわざだと。貴女が遺体を壊して指輪を持っていったのだってね」
「それで私たちがガラムを拠点にしていたと知ったわけね?」
「そういうこと。できればすべての賢者の遺体を集めたかったのに、貴女のせいでそれも無理になってしまったわ」
あーあ、とエリーデが深いため息を吐いた。
──本当は風の賢者の指輪も持っているけれど。まあ、それは言わないでおこう。
「だから火の賢者と水の賢者以外の魔力は間に合わせになってしまったけれど……まあそれでも充分な呪いの力をこの身に宿すことができたわ。お父様やお母様、それにアルフレッドとフリードも私の力になれて喜んでいるんじゃないかしら」
「『私の力に』って、アンタまさか……っ!」
「ええ。生贄に捧げたのよ。禁呪のためにね」
なんでもないようにそう言うと、エリーデは髪をかき上げる。
「アイツらの無能っぷりは貴女が一番分かっているでしょう、シャルロット。別にこの世に居なくてもいい……いえ、居るだけ害悪なのだから消えてしまった方がよかったヤツらよ」
「……他にいったい、何人の生贄を捧げたの?」
「それだけよ。まあ4人揃って賢者の遺体が持つ魔力の1 / 5にすら満たなかったのは誤算だったけれどね。禁呪を使う分はギリギリ足りたので良しとするわ」
その言葉に少し、ホッとする。
いやそれは反応としてはおかしかったのかもしれないけれど、ラングロたち以外の罪の無い人々がすでに犠牲になっていると聞かされるよりは心は荒れなかった。
──まあ実際、あの家族たちのことはどうでもいいしね。
「さて、話が長くなったわね。それじゃあシャルロット、必死の抵抗をなさい? 真正面から叩き潰してあげるから……。禁呪によってこの身に宿った【鬼属性魔術】でね」
エリーデが床に手を着き、身体からあふれる黒い魔力を流し込む。
「いでよ、眷属ども」
すると黒い稲妻が地面をはしり、そして新しいアンデッドたちが墓穴から這い出てくるように召喚された。
「あのエルフが動けないいま、貴女たちに勝機はあるかしらね?」
「まったく……面倒ねっ!」
私は圧縮球をエリーデ本体へと叩き込む。が、しかしやはりその攻撃も効かなかった。
「あはは、無駄よシャルロット。鬼属性魔術を宿した私はもはや人間じゃないわ。人の魂を奪って生きる伝説上のモンスター、【魂喰らい】よ。寿命も無ければ誰かの攻撃で死にもしない。絶対無敵の存在なの」
「なにそれ! 反則よ!」
「うふふふっ! そうでしょう? そうだ、さらに絶望をプレゼントしてあげる」
エリーデがパチンっと指を鳴らす。すると、
〔GuGyaooooh‼〕
王の間の、ガラスの天井を突き破って大きなソレが飛び込んでくる。
「う、うそ……っ⁉ なんでコイツがここにっ⁉」
硬い青色のウロコに大きな口、そして茶色く濁った鋭い眼を持つソイツは私たちが倒したはずのドラゴン。身体のあちこちに穴の空いたボロボロの姿で、私たちをにらみつけてくる。
「さあっ! 行きなさい、我が僕【ドラゴン・ゾンビ】! シャルロットたちを喰い殺してくるのです!」
〔Goooooooh‼〕
エリーデの命令と共に、再びその獰猛な牙が私たちへと向いた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルロットは今後どうなるのっ……!」
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