王都を探索しましょう
異世界に来て、そしてディルマーニ家から出てしばらく経つけれど、王都に訪れるのはこれが初めてだ。地図を頼りにして隠れながら歩き、1週間かけてたどり着いた。真夜中のことだった。
「でっかいわね……」
その王都を囲う壁はガラムの町の倍の高さがあった。遠目で見ても圧倒される。
中へと通じる門は四方にあるらしく、私たちはその中の南の1つへとやってきていた。
私もグリムもウィーズも、みんなフードで顔を隠す。
「やっぱり誰もいないわね。門も閉じているようだし」
「ですね。さきほどからすれ違う方々の言っていた通りのようです」
ここに来るまでの間、街道を王都とは逆に進む商人らしき人たち何人かとすれ違ったが、みんな口をそろえて「王都には入れなかった」と言っていた。
「ギリギリ間に合わなかったみたいね。王都は今日時点で封鎖されたんだわ、テルマさんの言っていたウワサ通りに」
門の正面に立つ。そこは固く閉じられたまま開く様子はない。
門の近くには誰もいなかった。真夜中だし訪れている人がいないというのは当然のことかもしれないが、門兵すらも立ってはいない。
「異常よね……。ここ、王国で一番重要な都市なのよ?」
「特別ななにかが起こっているとみて、まず間違いないだろうな」
ウィーズは手のひらか光の糸を生み出して、それを手渡してくる。
「じゃあ、またよろしく頼むよ」
「そうね。こんなところで待ち呆けているわけにもいかないし」
私たち3人はさっそく、ガラムの町でもやったように王都の壁を登った。
その壁はガラムの町とは比べ物にならないほどに厚く、そして壁の上には見張り所もある。
しかし、やはりそこにも誰も居なかった。
「本当にどういうことなの……?」
壁から下りて、王都の地に立つ。
最初は隠れながら街中を進んだが、しかし本当に誰も通りがかったりしないので大通りを歩くことにする。
「シャル様……この都市、なんだかおかしいですよ」
「ええ。人の気配がしないわね」
真夜中なのだからそれも当然? いいやこれはなんだかおかしい。
まるで街そのものが死んでいるかのように、その息遣いを感じられないのだ。
「……近くの建物に入ってみましょう」
大きな宿屋を見つけたのでそこに足を踏み入れてみる。
真っ暗なロビーが私たちを迎え入れた。
「荒らされた様子とかは……ないわね」
もしかして誰か──ガラムの町で私たちを襲ったドクロの兵士みたいなヤツに襲われて全員殺されてしまっているのでは、なんて少し思ったりしていたのだがそんなことはなかったみたい。
最悪の想像が当たらなくてホッとしていると、
「シャル様っ! 来てください、ここに人が……っ」
グリムが宿の受付でこちらを手招く。
駆け付けてグリムが指差す方を見れば、大人の男がぐったりとした様子で倒れていた。
「ちょ、ちょっと! これ、死んで……っ?」
ピクリとも動かないその男を私とグリムは遠巻きで見ていることしかできない。
そうこうしていると、ウィーズが男の側にしゃがみ込んで冷静に観察し始めた。
「いや、生きてはいる。よく見ると胸が動いているからな、呼吸があるってことだ」
「そう……それならよかった……」
「エルフの村にダンジョンができてからというものの、興味本位で入って死にかける奴らをたくさん見てきたからな。生死の判別なら任せてくれ」
「う、うん。壮絶な体験をしてきたのね……」
ウィーズの約300年の人生経験が役に立った。
──というか風の賢者は本当にエルフの村に迷惑かけ過ぎよね? この調子だと残りの2人の賢者の遺体の安置場所も不安になってくるわ。
まあいまはそれはともかく。
「それで、その人は気絶してるの? どこか怪我とか……」
「いや、見たところ外傷は無いようだな。ただ一向に起きそうにもない」
不思議な状態だった。その受付はやはりこの宿のロビーの他の場所と同じように荒らされた様子はない。ただ、そこに座っていたと思われる男が無傷で倒れている。揺さぶっても起きないのだから寝ているわけでもない。
「他の場所も見てみましょう。もしかしたら……」
そこからは私の思った通りだった。
その宿にはやはりチラホラと人が倒れ込んでいたのだ。
すべて1階ロビーの受付の男と同じで、外傷がなく寝ているわけでもないのに意識がない。
他の建物の中も同じ。みんな一様に死体のように動かなかった。
「シャル様……いったいなにがどうなっているんでしょうか……」
「私にも分からないわ。でもこれが王都の封鎖と関係があるのは明白ね」
なぜならあまりにもタイミングが良すぎる。封鎖した直後にこんな事件が起きるなんて、その関係を結び付けられない方がどうかしているだろう。
「王都の封鎖なんていうことを指示できるのは王宮しかないし、もうそこに直接行ってみるほかないわね」
王都を歩いていると街の地図を見つける。それを頼りに街の中心部へと向かい、私たちは王宮にたどり着いた。
荘厳な建築だ。パルテノン神殿のような立派な柱がスラリと並ぶ正面入り口、その奥に他の建物とは比べ物にならないほど高くそびえ立つ宮殿。
しかしここもまた、驚くほどに人気が無い。
「入りましょう」
私たちは静まり返った王宮へと足を踏み入れる。
コツコツと自分たちの足音だけが響き渡った。
「それで、俺たちはどこへ向かえばいいんだ?」
「それは……やっぱり王様のところじゃないかしら。一番偉い人のところに行って、現状がどうなっているのかを問いたださないと」
「その王様がどこにいるのかは知っているのか?」
「……い、一番高いところにある部屋、かしら?」
ウィーズがホントかよと言いたげな視線を送ってくるが、そんな目を向けられたって仕方がない。だって私も初めて来たんだから。
「行ってみて違ったらたどり着くまでいろんなところに行ってみればいいのよ。別に時間制限があるわけじゃないんだから。それでいいでしょっ!」
というわけで一番高いところから行くことにしたのだが……なんとその選択がビンゴだった。
階段を上ってたどり着いたその広い階層に敷かれた赤い絨毯はこれまで廊下にあったものとは全く別物の高級感を放っている。
そしてその階にあったのはたったの1室だけ。大きく豪奢にあしらわれた両開きの扉が私たちを出迎えた。
「絶対にここよね」
「ですね。すごい威圧感のある扉です……」
扉の前に立ち、3人で頷き合う。
──準備はオーケー、覚悟もできている。
「行くわよ……っ!」
グリムとウィーズが左右の扉を押し、防御用のシステム化魔術を最初から起動させた状態の私が先陣をきってその王の間へと足を踏み入れる。
王宮の最上階にあるその広間は天井がガラス張りになっていて、月や星の明かりが差し込んでいた。
そしてそのひっそりとした明るさの中、そこには確かに動く者たちが存在した。
「──な……っ?」
目の前の光景に、息を飲む。
──うそ、でしょ……?
玉座の前を固めるようにして直立する10体以上のドクロの兵士たち。そして玉座で足を組んで座るその人は──。
「久しぶりね。シャルロット」
エリーデ・ディルマーニ。
恐らくは王国随一の才能を持つ魔術師であり、ディルマーニ家きっての天才。血を分ける【私の姉】がそこに居た。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルロットは今後どうなるのっ……!」
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