未知との遭遇をしました
突如としてテルマさんの泊まる部屋のドアを吹き飛ばしたのは、全身鎧を身にまとった禍々しいドクロの兵士。
ソイツは私に目を止めると、刃こぼれした大剣を振りかぶって襲い掛かってきた。
「――させるかっ!」
しかし、それはグリムが許さない。
剣の攻撃を防いで逆に斬り返したが、しかし。
「えっ⁉」
スルっと、グリムの一撃はその兵士をすり抜ける。まるで空気を斬ったかのようだった。
「どっ、どういうことっ⁉」
その兵士はぽっかりと空いた穴の目を私から離すことなく、その距離を縮めて来る。
「なにコイツ! こわいこわいこわいっ!」
――【システム:物理障壁】、起動っ!
私は普段自動防御に設定している物理障壁を目の前に展開する。
これで兵士はこれ以上こちらに近づいてくることができないはずだった、のだが。
スイーっと、兵士はなにごとも無いかのようにそのバリアをすり抜けてきた。
「え、えぇ~~~っ⁉」
――あ、あり得ない! これは以前スドの攻撃すらも弾き返したバリアなのに……!
のっしのっしと兵士は剣を振りかぶって近づいてくる。
その背中をグリムが攻撃しているが、しかしやはりそのすべてが先ほどと同じようにすり抜けていた。
「ヤダヤダヤダっ! こわい、本当にこわいっ!」
――【システム:圧縮球】、起動!
テンパって、なにも考えずに兵士に向かって圧縮球をぶっ放す。
その威力になすすべなく吹き飛んでいった。
……グリムが。
「ぐ、ぐふぅ……。シャ、シャル様……っ」
「あぁっ! グ、グリムっ!」
まあ、当然のように兵士をすり抜けた圧縮球がその後ろにいたグリムに当たってしまう。
ホントにゴメン!
そして一方の兵士にやはりダメージは無い。
──やばい本当にどうしようっ! そのドクロの顔で無言で近づいて来られるのは本当にこわいっ!
と、そう思っていたとき、
「拘束術式、発動っ!」
光の糸が兵士の身体を絡めとった。
「お、おおっ!」
なんとそれはすり抜けることなく、そのドクロの兵士の動きをしっかりと止めることができている。
兵士はそこから抜け出そうともがいているようだったがしかし、思ったように身体が動かせないらしい。動きがぎこちなくみえる。
──もしかして、聖属性魔術が弱点なのかしら……?
「やぁぁぁあっ!」
私の圧縮球のダメージから復活したグリムが、再び兵士の後ろから剣を振り下ろす。すると、
〔Gagagagaga──〕
兵士が悲鳴(?)を上げて、そしてその身体をボロボロと崩していく。
それは地面に落ちた端から自分の影に吸い込まれるように消えていき、最後にはその影すらも無くなった。
「シャル様っ! ご無事でしたかっ?」
「うん。私は……。グリムは大丈夫だった?」
「はい、僕の方は。ちょっとお腹が痛いくらいで」
「わ、私のせいよね。ゴメンねグリム……」
──それにしても、いったいなんだったのだろう……。
そう考えようとしていたが、しかしどうにも宿の中が騒がしくなってきた。
それもそのはずだ。部屋のドアが思い切りぶち壊されたのだから、他の部屋の人たちもその異常に気づいている。
何事かとみんな様子をうかがいに集まり始めていたのだ。
「マ、マズい……っ! いまここにシャルちゃんたちが来ているのがバレたら他の兵士たちも集まってきてしまう!」
テルマさんは言うやいなや、私たちを窓の方向へと押しやった。
「この場は俺がなんとかしておく! だから俺が誤魔化しているうちに早くガラムから脱出するんだ! これを持っていけ!」
そういって手渡されたのは使い込まれたリュックサックだった。
「数日分の食糧とその他備品が入ってる! 役立ててくれ!」
「テルマさん……っ! ありがとうございますっ!」
ここで騒ぎを大きくするのは得策ではない。
私は素直にテルマさんの好意を受け取って、窓から身体を乗り出した。
そのまますぐに出て行こうかとも思ったけれど、いやしかし今度いつここに帰って来れるのかも分からない。
――お世話になったお礼はちゃんとしなきゃよね。
「これ、気持ちばかりですが受け取ってください!」
エルフの村で貰ったものをそのままで申し訳ないけれど、時間がないので布袋いっぱいの金貨をテルマさんに渡す。
「はっ? え、これなに――って重っ⁉」
「それじゃあテルマさん、お世話になりましたっ!」
「なんだこれ──って、金貨っ⁉ ちょっとシャルちゃんっ!」
「キューレさんとラックスさんにもよろしく! それではお元気でっ!」
なにやら引き留めようとしているテルマさんだったけれど、でも急がなくちゃいけないし、一方的ではあったけれど別れのあいさつを残して私たちは宿から飛び出した。
再び外壁を越えてガラムから脱出。そして素早く近くの森へと身を潜める。
「……大丈夫そうですね。門から追手が来そうな気配はありません」
しばらくガラムの様子をうかがっていたグリムが戻って来て、そうしてようやくひと心地がつけた。
「でも、追手が無いっていうのもちょっと気になるわね……。私たちを襲ってきたあのドクロの兵士って結局なんだったのかしら」
倒してもガラムの町に異変が無いところを見るに、この町には関係の無い兵士だったという線が濃いのだけれど、しかしそれならなおさらどうして私たちを襲ってきたのかが分からない。
「というかそもそもあれは兵士だったのか? むしろモンスターに近いなにかを感じたが」
ウィーズの言葉はもっともだった。
というかむしろドクロな時点で人間ではない。
「ウィーズはああいうモンスターに遭遇したことある?」
「いや、俺は無いな」
「グリムは図鑑とかでああいうモンスターを見たことあったり……」
「しませんね。僕も初めて見ました」
「だよねぇ……」
完全に物理攻撃を無効化し、聖属性魔術のみが有効なモンスター(仮)。前世のRPG系の知識から推察するに、真っ先に思いつくのはアンデッドかなにかだけれど。
――この世界でそういうモンスターがいるっていうのは私も聞いたことないのよね。
「シャル様、もう1つ気になる点があるんです」
「え? なに?」
「あのドクロ兵士、なぜか分かりませんがシャル様だけを狙っていませんでしたか?」
「ああ、確かに。言われてみればそんな気がするわね……」
そういえばグリムが散々攻撃していたのに、ドクロの兵士はそれに対して反撃することも防御することもせず、ひたすら私の方に歩いてきていた。
「じゃあきっとこれも例の指名手配に関係するってことね?」
「はい。さらに言えば狙いがシャル様へと集中しているあたり、むしろマリオネットへの指名手配自体がシャル様だけを捕まえるために出されたものかもしれません」
「えぇっ⁉ わ、私そんなに誰かに恨みを買うことってしたかしら……」
思い当たるフシは……そこそこあるけれどっ!
ただそれがどうして王国全体の規模での指名手配に繋がるのか、それが分からない。
私はそこまでの権力者を相手取ったことはなかったはず。
「シャル様を狙う者がいるのはほぼ確実ですが、しかし原因はまるで分からないままです。とにかくいまは王都に向かって情報を集めるべきかと思います」
「そうね……いつまでもここでグダグダと現状分析をしていてもラチが明かないし。行きましょうか、王都へ!」
状況は依然、不透明なまま。
私たちは隠れ潜みながら王都の方角へと足を進めるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルロットは今後どうなるのっ……!」
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