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ガラムの町へ帰りましょう

 平原からかなり離れた【魔の森】近くの森の中、私たちはひっそりとたき火を囲んでいた。

 

 ――エルフの村を出て3日、今日こそはまともな宿でひと晩を明かせると思っていたのに。


 自然とため息がこぼれ出た。

 

「なんなのかしら……【指名手配】って」

「……【国家反逆罪】、とも言われていましたね」


 ドラゴンを倒し、森を抜け、そうしてようやくたどり着いた町で私たちを待っていたのは槍を構えた門兵と重装備に身を包んだ兵士たち。

 まあいまさらその程度の兵士に遅れを取ることもないので、私たちはそいつらを蹴散らして退散してきたわけだけれど。

 

 ――あ、ついでにヨタヨタ歩きのギルバートはその場に置いてきたわよ。足手まといだったし、いちおうあれでも貴族の次男坊らしいから、素性が分かればあの町の人たちがなんとかしてくれるでしょ。

 

 しかし、私たちの顔を見て掃除者チーム【マリオネット】のメンバーだと悟っていた様子から、私たちの容姿に関する手配書などが事前に回っているみたいだった。


「なぁ、シャルくん、グリムくん。君たちなにかやらかしたんじゃないのか?」

「なにかって、なにを?」

「王国の要人の殺害とか……」

「するわけないでしょっ!」

「しかし国家反逆罪だぞ? それくらいのことをしなきゃそんな風にはならないだろ」


 ウィーズの言わんとしていることは分かるけど、でも本当にそんな覚えはない。

 

「とにかく、いまは情報がまったく足りないわ。どうにかして私たちがいま置かれている状況を知らないと。じゃなきゃどう動けばいいのかも分からない」

「それを知るために、どうする? 俺は人間の町にツテなんてないぞ?」

「そうね。だからいったん私たちが拠点にしていた町――ガラムに帰ろうと思うの」

「おいおい、そんなのさっきの町より厳重に警備されてるに決まってるだろ? 行ったってきっと情報収集どころじゃない」

「……そんなこと分かってるわよ」


 ため息を押し殺して、続ける。


「でもね、結局どこの町に行っても状況は変わらないわ。だったらガラムの町に行った方がいいのよ。だってそこなら私もグリムも土地勘はあるし、情報を集めるうえでのアテもある。それに、もしかしたらはぐれてしまった私たちの仲間──スドの行方についてもなにか分かるかもしれないんだから」

「……うん。まあ、潜伏し続けていたところで仕方ないだろうしな。分かったよ。シャルくんの意見に従おう」

「グリムはどう思う?」

「僕はシャル様のお考えに従います」

「じゃあ、決定ね」


 私たちはその日はそこでひと晩を明かし、そして早朝に出発。昨日は早々に追い返されたものの町の名前は分かったので、地図と照らし合わせて現在地は分かった。

 そこからひたすらガラムの町を目指して歩き、2日。ようやく見慣れた町の門が見えてくる。

 

「やっぱり警備は厳重みたいね……」


 遠目から見ても、門にいつもなら見ない数の人員が配置されているのが分かった。

 ほとんどフリーパス状態で入れたはずのその門には、いまや重装備の兵士が数人立っていて、通る者すべてをにらみつけるようにしている。なんともものものしい様子だ。


「この分だと町を巡回している兵もいそうね……。これは夜になるのを待った方がいいかもしれないわ」


 私たちはガラムの町から少し離れた森へと入り、その中で日が暮れるのを待った。

 そして真夜中。

 

「ゆっくりね。音を立てずに……」


 私たちは門兵に気取られないように、門からはだいぶ離れた場所を選んでこの町の外壁へと忍び寄る。

 そしてまず、グリムが跳んだ。

 身体強化魔術で鍛えられた脚力で、10メートルあまりの高さの外壁へと楽々上る。

 上から、グリムがこちらにOKサインを送ってきた。

 

「次は私ね。ウィーズ、糸を出して」

「ああ」


 ウィーズは聖属性魔術で作られた糸を出すと、それを手渡してくる。

 それを手に、私も身体強化魔術で外壁へと飛び乗った。そしてグリムと2人で糸を支える。


「よっ、と」


 ウィーズもまた、まるでヨーヨーのように糸を縮めることで外壁の上にやってきた。


「なんとか誰にも悟られずに侵入はできたわね……」


 あとは情報収集を行うだけだ。

 私は馴染み深い街並みを細心の注意を払いつつ駆け、そして【彼ら】が泊まっているはずの宿へ行く。

 拠点にしていたのは確か、3階。私は宿の壁を静かに駆け上がる。

 

 ――お願い。起きていて……!

 

 祈るような気持ちで目当ての部屋の窓をノックした。すると、カーテンが開く。

 そこから顔を出した部屋の借り主と目が合った。


「――なぁっ⁉」

「夜分遅く、すみません……」


 窓が開いた。

 

「シャルちゃんじゃないか……っ!」

「あはは……どうも、テルマさん」

 

 私たち【マリオネット】と仲良くしてもらっていた掃除者チーム、【疾風の狼殺し】のリーダーであるテルマさん。彼は突然の来訪にも関わらず、「とりあえず中に入るといい」と私たちを招き入れてくれる。


「いったいどうしていたんだい、シャルちゃん、グリムくん! 本当にすごく心配していたんだぞっ?」

「すみません……ちょっといろいろありまして……」


 まあ失踪していた掃除者チームを探しに行くという名目でこの町を立ち、それから2週間いっさいの音沙汰なし。挙句の果てに指名手配されたのだ。いったいなにをしたんだ? っていう話になるだろう。

 私はこれまでに遭った出来事について簡単に説明した。

 

「ドラゴン、それにエルフの村とはね……信じがたいけれど、しかし本物が目の前に居ては信じざるを得ないな」


 ウィーズがフードを外したことで、テルマさんはとりあえずという形ではあったものの納得してくれた。

 

「そういえば、キューレさんとラックスさんが居ませんね? お2人はどうしたんですか?」

「あの2人は出稼ぎに行ってるよ。掃除者ギルドが閉鎖されてしまってからは俺たちも食い扶持ぶちを得るのが大変でね」

「は……? 掃除者ギルドが、閉鎖……?」

「ん? ああ、そうか。長いこと魔の森に居てはここ最近の情勢についても疎くなっているよな。理由はまったく分からないんだが、2か月前に王宮からすべての町の掃除者ギルドに対して閉鎖命令が出たんだよ」


 ――2か月前……?

 

「ちなみに、君たちの指名手配が出たのも同じ頃だ。君たちがこの町から姿を消して1年、あまりにいろんなことが起こり過ぎた」

「は……? 1年……?」


 ――なんだって? 1年? 私たちが町を出て1年って言った? いやいや、ちょっと?


「テルマさん、おかしいですよ? なにを言ってるんですかっ?」

「ん? なにって……なにがだ?」

「いや、さっきから2か月前だとか私たちが居なくなって1年だとか、どう考えてもおかしいじゃないですか! だって私たち【マリオネット】がこの町を出立したのは2週間前のはずでしょうっ?」


 テルマさんは、なに言ってるんだこの子は、みたいな顔で私を見ると、


「2週間なわけないだろう? この町ではもうきっかり1年の時が過ぎているんだ。ホラ、これを見ろ」


 そういって指を差した壁掛けのカレンダーには、私たちが生きていたはずの年の数字にプラス1された年がハッキリと書かれていた。


 ――そんな……バカなっ! 本当に1年が経っている……っ?


 訳も分からず、私とグリムは顔を見合わせた。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「シャルロットは今後どうなるのっ……!」


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