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ダンジョン攻略を見守りましょう(保護者目線です)

「――フッ! ――ハァッ!」


 グリムは四方八方から襲い来るカマイタチを剣で受け流したり、あるいは攻撃を仕掛けることで消滅させて進んでいく。

 私と言えばその後ろで手に汗にぎってグリムの活躍を見ているだけだ。

 

 ――が、がんばれ……っ! グリム……っ!


 もしかして自分の子供の運動会を観戦する母親の気持ちとはこういうものなのだろうか?

 カマイタチが私たちの方にもバシバシ降ってくる中、それは全部システム化魔術の自動防御に任せて、私はグリムの一挙一動をハラハラしつつ見守っていた。

 

「セェェェイッ!」


 グリムは360度からのカマイタチの同時攻撃も華麗に弾いて見せる。

 スドから受けた特訓がどういったものかの詳細は分からないがなんとも見事なものだった。

 それでもやっぱり完全には防げていないようで、


「はぁ……はぁ……っ!」


 腕や足、頬からはカマイタチに斬られた傷がついており、血が滲んでいた。

 ダンジョンに入っておよそ1時間が経過している。

 次第にその姿はなんとも痛々しいものになってきて、正直もう見ているのも辛い。

 

 ――ああ、早く助けてあげたい……っ! もう充分がんばってるんだから「よくやったね」と褒めてあげて、そのあとは私に任せてほしい……っ!

 

 思わずそれを口に出しかけたところで、後ろから肩に手が置かれる。


「ダメだぞ、シャルくん。いまここでグリム君を助けることは、彼のプライドに傷をつけてしまうことだ」

「ウィーズ……あなた、そういえば居たのね、完全に忘れてたわ……」

「おい……」


 存在感が無さすぎて……。私の後ろに引っ付いてカマイタチから身を守っているんだった。

 そんなウィーズの言葉ではあったが、確かにその通りなのかもしれなかった。

 私はたぶんそういった男心には疎いのだろう。この前もグリムが泣いて落ち込むまでグリムが悩んでいることに気づけなかったわけだし。

 

 ――分かったわよ、グリム。私しっかりと最後まで見守るから……っ!


 そうしてとうとう行き止まりまでやってきた。おそらく洞窟の最奥の空間だ。とても広いドーム型をしている。そして奥側の壁に採石場にあったものと同じような扉があった。

 

「あそこに、指輪が……っ!」


 そうしてグリムが1歩踏み出した時、突風が吹き荒れた。

 

「ぐ……っ!」


 そしてその風に乗って、いままで飛んできたものの比にはならないほどの勢いのカマイタチが何十、いや何百と飛んでくる。

 これがおそらくこのダンジョン最後の試練。


「ま、負けるもんかぁぁぁあっ!」


 グリムの動きが変わる。おそらく身体強化魔術で自身の身体の限界を超えて強化しているのだろう。

 四方八方から自身めがけて襲い掛かる高速のカマイタチを1つ残らず叩き落としていく。

 

 ――がんばってグリム……! もう少しっ!

 

 私の方にもビュンビュン風とかカマイタチとか飛んでくるがそれは全部無効化されてる。

 こっちはまるで問題ないが、グリムの方は限界が近かった。

 

「――うぉぉぉおッ!」


 恐らく骨や筋肉が悲鳴を上げているだろうに、グリムは剣を振るい続けた。

 そして――。


「……やった」


 風が止む。そしてカマイタチもそれ以上は襲ってこなかった。

 それはつまり、グリムが試練に打ち勝ったということだ。


「やった、やったよグリム! ダンジョンクリアだよ!」


 恐らく力を出し切ったのだろう、倒れ込みそうになるグリムの身体を支えてあげる。


「よくやったわよ、本当にがんばったわねグリム!」

「あ、ありがとうございます……シャル様……」


 その頭を抱え込んで背中をポンポン、頭をヨシヨシしまくる。


「……シャルくん。めでたいことは確かだがな、グリムくんはケガをしているわけだし、まずは安全な場所に運んであげるのはどうだろう?」

「そ、そうね。確かにそうだわ! 早く手当てもしてあげないと」


 ウィーズの言葉にハッといまの状況を思い出す。

 そりゃそうだ。最後の試練らしきものを突破できたとはいえまだダンジョン内なのだから、突然カマイタチが襲って来るかもしれないのだ。


「じゃあこの扉を開けるわよ?」

「そうだな。サッサと中に入ってしまおう」


 グリムを支えつつ、扉を開く。

 するとその先の部屋にあったのはやはり採石場と同じ、おごそかな棺だった。

 その中にあるのはきっとお約束通り賢者と呼ばれる魔術師のミイラだろう。

 しかしいまはそれよりも優先することがある。

 

「グリム、とりあえず壁に寄りかかって座っておいてね。いま消毒と止血をしてあげるから」

「は、はい……ありがとうございます、シャル様」


 私は背負ってきていたリュックを降ろすと、その中から消毒用アルコールとガーゼを取り出した。すると、


「いやいや、君たち。ちょっと待ちなさい」


 ウィーズがグリムの前に立って、傷口に手をかざし始めた。その手が輝き始める。

 すると、みるみるうちにグリムのケガが治っていくではないか。


「なにそれ……どういうことっ?」

「なにって【聖属性魔術】の回復術式さ。知らないのか?」


 ブンブンと首を横に振る。そんなの聞いたことも無い。

 というかそもそも魔術の基本属性は火・水・風・土の四属性のはずだ。

 まれに私の姉のエリーデのような天才はその四属性を混ぜ合わせて、まるで化学変化を起こすかのように新しい属性を生み出すことはできる。


 ――でも聖属性? なにそれ? それって化学変化で生み出せるものなの……?

 

「ああそうか、知らないのも無理はない。聖属性はエルフの種族にしか発現しない属性だからな。ここ100年ちょっとはエルフと人間が交流したって話も聞かないし、きっと人間たちの世界では忘れ去られているんだろうさ」

「そ、そうなの……?」


 どうやらこの世にはまだまだ私の知らない魔術があるらしい。

 まあとにかく、そんなウィーズの回復術式のおかげでグリムの傷はまたたく間に治っていった。

 

「ありがとうございます、ウィーズさん。もうどこも痛くないです」

「そうかい。そりゃあよかったよ」


 グリムも元気になったところで、本題だ。

 部屋の棺の中を覗くと、やはりそこにあるのは立派なローブを羽織ったミイラだった。

 身体の前で手紙を抱えており、その指にあるのは緑色に輝く魔石がはめ込まれた指輪。

 採石場での光景とおおむね同じだった。

 とりあえず手紙を読む。


「なになに……うん。これも採石場の人が書いたのと同じだわね。自分の遺体を破壊する報酬に風属性の加護を宿した指輪を持って行っていいって書いてあるわ」


 というわけで、私はシステム化魔術でミイラの身体を風化させて砂にした。


「さあ、グリム。その指輪を取りなさい。今回は正真正銘、グリムの実力で勝ち取ったものなんだから」

「はい……っ! それでは」


 そうしてグリムの指には土属性の【護りの加護】を宿した指輪の他にもう1つ、風属性の【素早さの加護】を宿した指輪がはめられたのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「シャルロットは今後どうなるのっ……!」


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