もしかして反抗期でしょうか
さて、私たちはさっそくウィーズによって大きな洞窟の入り口へと連れて来られていた。
「さあ、このダンジョンだ。奥まで行くことができれば四賢者の1人、風の賢者が遺した指輪があるはずさ」
ウィーズは気軽そうに言って笑う。
なんでもいまからは200年前のこと、風の賢者がエルフの村へと現れて誰にも見つからないところに自分の遺体を安置するダンジョンを作りたいと言ってきたそうなのだ。
――四賢者っていうと、私たちが前に採石場で見つけた遺言を残してたミイラの人と同じよね……?
その人の遺してくれた指輪はいまグリムに装備させているけれど、高レベルの魔術を受けても無傷だったあたり効果は確かなようだ。
とすればきっとこのダンジョンに眠るという風の賢者が遺す指輪というのにもものすごい力が宿っているのだろう。
「しかしねぇ……なんでダンジョンなのかしら? 土の賢者みたいに遺体を隠すだけじゃダメだったの?」
「隠すって意味であれば俺たちエルフの村の中にあるってだけでかなり効果はあると思うぞ。その上でさらにダンジョン化することで奥まで来れないようにしたんじゃないか?」
「ふーん……そういうもの?」
「まあ超高難易度にダンジョン化してくれてしまったおかげで、この200年で興味本位でダンジョンに入っていったエルフの失踪者・重傷者が大量発生してるんだがな!」
「迷惑極まりないじゃない! っていうかそんな危ないところに私たちを挑戦させようとするな!」
「あはは。まあそう怒るな。もしかしたら君たちとならいけるかもって思ったんだけどなぁ……。やっぱりダメか?」
いやいや、普通に考えてエルフたちが200年かけて攻略できないダンジョンを人間の幼女と少年が攻略できるわけない。
「ちなみにこのダンジョンにはモンスターは生息してない。その代わりに洞窟内のいたるところから強力なカマイタチが飛んでくるっていうワナが仕掛けられているんだ」
「ふーん。それで、他は?」
「いや、単純にそれだけだよ」
「え、それだけ?」
「ああ。ただカマイタチの数が多すぎるうえ、どんなに硬い鎧や盾でも切り裂かれるから奥に行く前にみんな死ぬかリタイアして戻ってくるんだ」
「ほほう……?」
――あれ……? これってもしかして私のシステム化魔術【風属性魔術無効化】を使えば楽勝なのでは?
「ねぇ、グリム。カマイタチが飛んでくるだけならさ……」
「そうですね。シャル様であれば簡単に突破可能かと」
「だよねだよね? それじゃあ私が1人で行って指輪を取ってきて、それをグリムに装備してもらえば一件落着ってことだわね」
――あー、よかった。それなら特に迷うこともないわ。
その程度のワナだったら私1人で楽々に突破できそうだ。そうと決まればさっそくダンジョンに入ってくることにしよう。
そのことをウィーズに告げようとしたところ、
「……その指輪も僕が着けるんですか?」
グリムが眉をひそめていた。なにやら不満そうな顔だ。
「え。どうしたの、グリム?」
「シャル様、お聞かせください。シャル様が単身で取ってこられた指輪を僕がいただいて着けることになるんでしょうか……?」
「えっと、そのつもりだけど……」
なにか問題でもあったろうか。特になにも問題ない気がするけれど。
しかし、グリムはやはりなにかが気に食わないようで、
「シャル様、やはりダンジョンには僕が入ろうと思います」
なんて剣を抜いて洞窟へと向かって行く。
いやいや、ちょっとちょっと!
「ダメだって! 危ないって! 私が1人で行けば絶対に安全なんだから、グリムはここで待っててよ!」
「申し訳ございませんシャル様。しかしそれはズルです!」
「ズ、ズル……っ⁉」
「シャル様のご尽力に頼ってばかりいるようでは僕は僕自身を認められません! なので風の指輪は僕が自力で取って参ります」
そう言って、グリムは走りダンジョンへと1人で入ってしまう。
「ちょっ! グリム!」
名前を呼ぶも、グリムは振り返りもしない。
――なにこれ、どういうことっ? もしかして私なにかグリムの地雷を踏んだ? それともウワサに聞く男の子の反抗期ってやつっ?
まあいまは原因なんてなんでもいい。とにかくグリムの後を追わなくては。
「待ちなさい! グリム~っ!」
「お、おいっ? 君たち結局ダンジョンに入るのかっ?」
私もまたダンジョンへと走っていき、そしてウィーズもまたその後を追ってきた。
ダンジョンを駆けていると、話の通り洞窟の壁のあちこちからカマイタチが飛んでくる。
「ウィーズ、私から離れないでいてっ!」
「わ、分かった……っ!」
カマイタチは私たちに勢いよく迫ってくるが、しかし一定の距離で消滅する。自動で起動するシステム化魔術のおかげだ。やはり私にとってはかなり相性の良いダンジョンであることに間違いはない。
「す、すごいな……っ! こんな魔術があるなんて」
「まあね。火・水・風・土とかの攻撃であればだいたいなんとかなるわ」
「こんなに完璧な防御方法があるっていうのに、グリムくんはいったいなぜ1人で行ってしまったんだ?」
「それは私も訊きたいっ!」
私たちはカマイタチを気にする必要がない分、結局すぐにグリムへと追いつけた。
「グリムっ! なんで1人でダンジョンに入ったのっ⁉ 危ないじゃない!」
「シャル様……」
グリムはシュンとした表情をする。
「僕は……シャル様に頼ってばかりはいたくないんです。人に与えられた力ばかりで強くなっても、それが本当の強さだとは思えないのです」
「グリム……」
「ですからお願いです、シャル様。どうか僕をこのまま1人で行かせてはくれませんか? きっとこのダンジョンを作った風の賢者も、独力で自分の元までたどり着いた者にこそ指輪を託したいのだと思います」
「うーん……」
そう語るグリムの表情は真剣そのものだった。
自分で挑戦して勝ち取りたいという気持ちはよく分かる。
でも、やっぱり1人でこの超高難易度とかいうダンジョンに挑ませるのは不安だ。
「じゃあ、こういうのはどう? グリムは基本的に1人でダンジョンに挑むけど、私が危ないって判断したらすぐに助けに入らせてもらうっていうのはさ」
「シャル様……でもそれは……」
「それが私の妥協ラインよ。ねぇグリム、逆の立場で考えてみて? もし私がすごく危ない場所に命綱も無しに1人で行ってくるって言ったらどうする?」
「そ、それは……」
「止めるか、あるいは自分もついていくことを条件にするでしょ? 私もそれと同じことをいましてるの」
グリムは私の言葉にしばらく考え込むようにしていたが、
「分かりました。それではシャル様、いざという時はよろしくお願いいたします」
と納得してくれた。私は頷いて返す。
――これなら多少は安心できる……はず。
こうしてダンジョン攻略が始まったのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルロットは今後どうなるのっ……!」
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