評判って大事ですよね
また夜に投稿しますので読みに来てもらえると嬉しいです
私たちマリオネットとギルバートを囲む周囲の人々からは多くの声が上がる。
「いいかギルバート? マリオネットはなぁ、この前モンスターから俺の故郷の村を救ってくれたんだ! お前みたいに仕事の直前に報酬の値上げ交渉なんてせずにな!」
「ウチもそうだったわ! 私も依頼に出したのはアルガルド1体の討伐だったのに、その巣を見つけてそれごと駆除してくれたことがあったの。しかも無償でよ! 依頼に出された以外のモンスターを勝手に倒して報酬の増額を迫ってきたギルバートとはぜんぜん違うわ!」
「だいたい依頼者を脅迫してるのはいつもギルバートの方だろうが! 自分の悪事をマリオネットになすりつけてるんじゃねーよクソ野郎!」
それらはすべてがギルバートへの非難で、本人は訳が分からないといった顔で慌てふためいている。
――まったく、自覚なしの嫌われ者ほど滑稽なものはないわね……。
ギルバートは確かに権力と魔術の才能を持ってはいる。
しかしそれだけ。
人望、それも町にいる平民という立場の人々からの信頼なんてまったく無い。
しかし本人はどうやらそれに気づいていなかったらしい。
ガラムの町のみんなが貴族である自分を畏れている、それはつまり尊敬されているということだとでも勘違いしていたようだ。
救いようがないアホっていうのは、いるところにはいるものだ。
「ば、ばかなっ! ほら、マリオネットが脅迫をしたことの証人はこの通りいるんだぞっ⁉ なのにどうして僕が貴様ら平民ごときにこき下ろされなければならないのだっ!」
「はぁ……」
引き際の分からないヤツだなと呆れ、思わずため息が漏れ出てしまう。
「ギルバートさん? その青年ですが本当に村の人なんですか?」
「あぁ? あぁそうだよ。ホラ、この通りみすぼらしいだろう? 村の青年で間違いないさ」
青年の格好は上着は破れ、ズボンも土まみれで汚い。
だけど、
「靴が汚れていないのはどうしてです?」
「……は?」
「この人は服がこれだけ破けたり汚れたりしているのに、それとは対照的に靴だけは綺麗なままです。それに髪も身体も綺麗に洗ってあるみたい。なんていうかものすごく【ちぐはぐ】なんですよ」
「そ、それは……っ」
「どうせ自分の息のかかった人間にボロボロになった服だけを被せて遠い村の人間を偽ろうとしたんでしょう? なんというか、見え見えすぎますよ」
「く……っ!」
ギルバートの顔が青くなる。どうやら図星のようだ。
さて、ここからどうやってコイツを追い詰めてやろうかと思案していると、
「通してくださいっ! 通してくださいっ!」
聞き慣れた女性の声が私たちの後ろから近づいてくる。
そして群衆を割って現れたのは掃除者ギルドの受付のイレーネさんだった。
「マリオネットさん! よかった……見つけやすい場所にいてくれて」
「えーっと……どうかしましたか? なにやら急いでいるようですが」
「そう! 急いでいたんです。緊急でマリオネットさん宛に指名依頼がきまして!」
どよっと周囲の人々が沸く。
ギルバートはまたもや私たちに入った指名依頼に、悔しさからか歯を食いしばっているみたいである。表情の変化が分かりやすいわねぇ。
「指名依頼の内容は?」
「【魔の森】の方角から現れた地竜が隣町付近へと向かっているようで、至急これの撃退ないしは討伐を要請するとのことでした。隣町の掃除者たちでは歯が立たないらしく……」
「なるほど、地竜……」
地竜――それは伝説上に存在するドラゴンを末裔に持つと考えられている強力なモンスターだ。
岩のように重く硬いウロコを持ち、大きいもので全長50メートルにも及ぶ個体も存在すると記録されている。
地の竜というだけあって羽は生えておらず、陸上で生活しているらしい。
――今回はなかなか大変そうな相手のようね……。
さて装備にはなにが必要かな、なんて考えていたところ、
「おいっ! そこの受付嬢よ! その指名依頼だが、マリオネットの代わりに私たちのチーム【エターナル・ブリリアント・オンスウェン】が引き受けてやることにしようじゃないか」
ギルバートが突然に私とイレーネさんの間に割って入ってくる。
「ギ、ギルバート様っ? それはできかねます……! これは指名依頼で――」
「なんだ貴様? もしかして逆らう気かい? ガラム掃除者ギルドに多額の寄付をしているオンスウェン家の次男であるこの私に?」
ギルバートはギロリとした視線で今度は私をにらみつける。
「シャル殿、貴女も異論はあるまい? 私と貴女方のチームのランクは同じ8だ。しかしランク8になってからの年数は私たちの方が遥かに長いのだから」
「はぁ、異論なら10は下らないほどにありますが、しかしそれよりも疑問が勝りますね。いったいなぜ私たちへの指名依頼をわざわざ横取りしようというのです?」
「横取りなど、人聞きが悪いじゃないか。貴女たちじゃまだ地竜の相手は難しいと思っての先輩心だとも」
ギルバートはニヤリとあくどい笑みを浮かべると、恐らくはご自慢のローブをひるがえして町の人々へ向き直る。
「聞きたまえ町民諸君! 緊急の事態だっ! いまは掃除者チーム同士で争っている場合ではないらしい! 私はこれからマリオネットの代わりに、かの強力なモンスターである地竜に挑まなくてはならない! 掃除者が一丸とならなければならないいま、とりあえずこれまでの話はいったん保留ということにしようじゃないか!」
その変わり身の速さに人々はポカンとするしかないようだった。
――まあ、字面だけ見れば正論っぽいことを言っているけど、誰がどう聞いてもギルバートがこの場を誤魔化して逃げようとしてるのは分かるものねぇ……。
そのうえこちらから仕事を一方的に奪っていこうとしているのだから最悪この上ない。
しかし、残念ながらどんなに権力を持っていても、そうそうギルバートだけに都合よく世界は回らないらしい。
「あのっ! ギルバート様っ!」
イレーネさんが勇気を振り絞るように叫ぶ。
「この指名依頼は、絶対にギルバート様へは渡せませんっ!」
「なんだと……っ! 貴様、ギルドをクビになりたいのかっ!」
「いいえ、違いますっ! この指名依頼をお出しになったのは、隣町を含む一帯を領地とするハルカラム伯爵ご本人なのです!」
「んなぁ……ッ‼」
ギルバートはそれを聞いて顔を青ざめさせた。
――ハルカラム伯爵ね……確かギルバートの家であるオンスウェン家が持つ爵位は子爵。つまり立場的には上の爵位の貴族からの指名依頼ってわけね。
であればギルバートの反応も頷けた。
まあ上の地位の人間の意思を自分の勝手でねじ曲げでもしたら、飛ぶのはイレーネさんの首ではなくギルバート本人の首だろう。
いやまあ、なんとも痛快なこともあったものだ。
「申し訳ありませんね、ギルバートさん」
大衆の前で大恥をかいたであろう自称【私たちの先輩】であるその男に一礼する。
「どうやら【エターナルなんとか】ではなく【マリオネット】でなければ受けられない依頼のようですね。代わりと言ってはなんですが、私たちの留守の間をお願いいたしますよ」
羞恥か怒りか分からない感情に顔を真っ赤にするギルバートの百面相に、クスクスと群衆から笑い声が漏れ聞こえてくる。
さすがに嘲笑されていると気づいたのだろう、ギルバートは舌打ちを残して足早に去って行った。
私、グリム、スドはそれからイレーネさんに依頼の詳細を聞くためにギルドへと戻る。
「あ、そういえばスド。私が素性を隠したいにも関わらず、どうしてランクを上げて有名になるようなマネをするのかって訊いたよね?」
「うむ? うむ。そうじゃな。確かに訊いたぞ? どうしてじゃ?」
「それはね、あの貴族のボンボンを悔しがらせたかったからよ」
私はギルバートに低ランクの依頼を差し止められた屈辱を決して忘れてなどはいない。
今度はこっちがランクを上げてギルバートの仕事を奪ってやろうと考えてはいたのだが、これはこれで期待以上の成果と言えなくもなかった。
――やってやったわ。復讐完了ね。
気分よく鼻歌を奏でていると、
「お主、大人ほどに頭が切れるかと思いきや、たまに子供みたいなところがあるのぅ……」
とスドに呆れられてしまった。
別にいいじゃない、子供でも。
だっていまはホントに幼女なんだから。
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