私たちマリオネットです
ガラムの町へ帰った翌日、私とグリム、それにスドは依頼の達成報告のために掃除者ギルドへと向かった。
「【マリオネット】のみなさん。依頼の完了が確認できました。お疲れさまでした」
ギルドの受付のイレーネさんから報酬の貨幣が入った布袋を受け取った。
「あれ?」
「どうかしましたか、シャル様」
「いや、なんか思ったよりも重くて……」
報酬をくれたイレーネさんを見ると、なにやら柔和に微笑んでいた。
「お聞きしましたよ。なんでもスコイル村に出現したモンスターの大群を倒したとか」
「ああ、あれのこと……」
偶然、今回の依頼を達成した帰り道にスドが大量のモンスターの気配を察知して駆け付けられた村のことだった。
「そちらの村の方が今朝早くにお越しになりまして、『気持ち程度で申し訳ないですが』と報酬を預かっていたんです」
「なるほど、その分重くなっていたということね……」
義理堅いことだ。私だったら依頼してもいないのに掃除者が勝手に倒してくれた! ラッキー! と思うくらいだろう。
「追加の依頼を受けていかれますか?」
「いや、今日はいいです。ちょっと休もうかなと思っていたので。指名依頼があればいつもの宿に連絡を入れてください」
イレーネさんと別れ、ギルドを後にする。
町に出て歩いていると、多くの人がこちらを振り向くのが分かる。
「おい……あれマリオネットじゃねーか?」
「ホントだ! 隣町へのワイバーン襲来を1チームだけで掃討したっていう……」
「あのちっこいの2人が人形で、あの赤毛のネーちゃんが噂の人形使いってやつか? 魔術師のいるチームだってそうそうなれないランク8にたったの3か月でなっちまうなんてスゲーよな」
「そうそう。でも実力だけじゃねーぞ。高い報酬が払えない貧しい辺境の村の依頼も受けてやる人徳もあるらしい」
「なんだよそれ、まるで英雄だな!」
私たちを取り囲むようにして追ってくる町の人々から隠す気も見られない噂話が聞こえてくる。
――うんうん。耳を傾ける限りどうやら良い調子で私たちの評判が上がっているみたいね。
「のぅ、シャルよ」
先頭を歩くスドがヒソヒソと言う。
「本当に我が人形使いでお主たち2人が人形だなんて設定はいるのか? 別にお主ら2人がいっしょに活躍しとってもよかろうに」
「その話は前にしたでしょ」
「お主らのような幼子が名声を上げてしまっていたら、お主らのことがいずれディルマーニ家に知られる恐れがある。だから功績を人形使いである我の元に集中させて隠れ蓑にしようということじゃろ?」
「そうよ。分かってるじゃない」
いまのところディルマーニ家の追手たちがこのガラムの町へと現れるようなことはないみたいだが、これからずっとそうだという保証はない。
そんなときに私やグリムが有名人であっては困るのだ。
「しっかし、分からんのぅ……」
「なにがよ?」
「自分の名前を売りたくなければ静かにほどほどの依頼を受けていればいいだけじゃろうに。なにもこんなに早くランクを上げる必要はなかろう?」
「それは……」
「――おやおや、これはマリオネットのみなさまではありませんか」
スドへと答える前に、私たちを囲む群衆をかき分けて私たちの正面、道をふさぐように1人の男が現れた。
まあそれは知った顔だ。できれば知り合いたくはなかったが。
「これはどうも、ギルバートさん」
嫌々ではあったけどあいさつは返しておく。
大仰なローブを人々に見せつけるようにひるがえすその男の名はギルバート・オンスウェン。このガラムの町の掃除者であり、貴族の次男坊。
私たちが低ランク依頼を受けられなくなるように仕向けてきた、因縁の相手だ。
「お久しぶりですねぇ、シャル殿。どうも最近は強力なお仲間が増えたようで、とてもよくご活躍しているとか」
「それはもうおかげさまで。それで本日はどのようなご用件でしょう? まさか今度はランク8以下の依頼を受けるのを禁じる! などと仰りに来たので?」
「……いえいえ、そんなことはありませんとも」
ギルバートの目が一瞬細められたのを見逃しはしない。
まったく、今度はいったいなにを企んでいるのやらだ。
「ただねぇ? シャル殿。私には1つ疑念があるのですよ」
ホラきた。
「最近どうにもマリオネットへの指名依頼が多すぎはしませんか? 特に高ランクの依頼です。これにはなにか裏があるとしか思えない!」
「裏、とは?」
「例えば……脅迫とか」
――はぁ? 脅迫?
ポカンとしているとギルバートが先を続ける。
「貴女たちは依頼に行く先々でそこの村の人々を脅迫しているのではありませんか? 次からは自分たちに指名依頼を出すようにと」
「なにをバカなことを……」
「実は証人もいるのですよっ! ほら、ご覧なさい!」
するとギルバートの後ろから、みすぼらしい上着を羽織った青年が現れた。
ちなみにまったく面識はない。確実に初対面の青年だ。
「誰ですかこの人」
「しらばっくれるのはよしなさい、シャル殿。この人は貴女が討伐依頼に向かった先の村の青年です。彼は貴女方に実際に脅迫を受けたと言っている!」
「はぁ、どんな?」
「言って差し上げなさい」
青年はギルバートに背中を押されるとなんとも臭い演技で語り始めた。
曰く、次から指名依頼にしなければ村にモンスターをけしかける。
曰く、報酬を倍にしなければギルドからの他の掃除者の派遣を差し止める。
曰く、脅迫の事実をバラしたら家族を皆殺しにする。
なんともてんこ盛りだった。
「どうです! これが貴女たちマリオネットの悪事です! どうです町のみなさん! これがマリオネットの正体なのだ!」
なるほどね。
町の人々の前で私たちの評判を貶めることが狙いだったわけか。
――ただ、ねぇ……。それは悪手なんじゃないかしら。
「ひっこめギルバート!」
私の予想通り、周りの群衆から上がったのは私への批判ではない。
「この大ウソつき野郎めっ!」
「横暴貴族っ!」
「どクソ守銭奴がっ!」
それは耳鳴りがするかと思うほどの、ギルバートへの非難のオンパレードだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルロットは今後どうなるのっ……!」
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