表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/88

《村長視点》嵐の夜の人形劇

 それは、嵐のような夜だった。


「逃げろぉーッ‼ 備蓄庫だ! 備蓄庫まで走るんだッ‼」


 かがり火だけが照らす薄暗い村の中。

 いつもなら誰もが寝静まっている時間帯にそれは起こっていた。

 叫び、走りながら後ろを向く。

 

 ――エンシェント・ウルフにガーゴイル、ワイバーンまでッ⁉

 

 いったいなにがキッカケだったとでもいうのか。

 なんの前触れもなく山から多種多様なモンスターたちが下りてきて、村民たちを追いかけまわしている。

 

 ――くそっ! どうしてこんなことが……!

 

 これまで生きてきた40年でこんなことはなかった。

 モンスターが村の中に入り込むことはあったが、多くて3体というところだった。

 それがいまはどうだ、10体? いや20体は村の中を荒らしまわっているではないか。

 

「あっ!」


 俺の後を追って逃げてきていた村の少女が転ぶ。

 すかさず、その小さな背中めがけてガーゴイルが滑空してきた。

 

「させるかっ‼」


 ガーゴイルに渾身の体当たりをかましてやる。

 だがしかし、さほどのダメージも与えられはしなかった。

 むしろ……。

 

「ぐぁっ! チクショウが……っ!」

「そ、村長……っ!」

 

 肩から腕にかけて、ガーゴイルの爪でザックリと切り裂かれていた。

 その爪には痺れる毒がある。

 奴らはそうやって獲物を無力化して巣に持ち帰るのだ。


「に、逃げろ……っ! 俺のことはいい! お前は備蓄庫に走るんだ!」

「でも、でも……っ」

「いいから早く!」

 

 もう毒が回って足が動かなかった。

 このままじゃ俺もこの子もまとめてガーゴイルに喰われてしまう。

 しかし、モンスターは一刻の猶予もこちらに与えてくれはしない。

 ガーゴイルがこちらめがけて勢いよく突進してくる。

 

 ――ここまでか……!

 

 そう思った、その時。

 

「ガーゴイルね。村に降りて来るなんて珍しい」


 絶望に閉じそうになっていた耳へと聞こえたのは鈴を鳴らしたような高い声。

 そして同時になにかがひしゃげるような音。

 目を開けると、頭の先が潰れたガーゴイルが地面に落ちるところだった。

 

「大丈夫かしら?」

 

 その声に後ろを振り返れば、そこにいたのは1人の子供。

 女の子。少女。いや、それよりももっと小さい……。

 

「……幼、女?」

「はい? 私は幼女だけれど、それがなにか?」


 こちらに振り返ったその顔に見覚えは無い、ということは村の子ではない。

 少しクセのありそうな綺麗な金髪を肩口まで伸ばし、どこか気品にあふれていて、月明りに照らされるその姿はあとは羽さえ生えていれば完璧。

 それはそんな天使のような幼女だった。

 

「まるでモンスターの見本市じゃな」


 幼女の後ろに、いつの間にか赤毛の女が立っていた。

 まばたきの合間に突然現れたかのような唐突さだ。


「ここって山が近いんだったっけ?」

「近いか遠いかで言えば近いがのぅ……だからといってこれは異常発生が過ぎる」

 

 そんな2人向かって、今度は別のイノシシ型のモンスターが突進を仕掛けてきていたが、しかし。


「シャル様、スドさん。遅くなりました」


 横合いから滑り込むようにしてやってきた少年が振るった剣によって真っ二つにされる。


「グリム、村の周りはどうじゃった?」

「ちらほらとモンスターがいましたが、ぜんぶ斬ってきました」

「うむ、ご苦労」


 赤毛の女は大仰に頷いた。

 

「ならばあとはこの村の中にいる奴らだけじゃ。シャル、グリム。お主らで狩り尽くしてこい」


 その言葉と同時に、剣士の少年と天使のような幼女はその場から一瞬にして立ち消えた。

 いや、人の身ではあり得ないほどの脚力で移動したのだと理解できたのは、村の四方八方で戦闘音とモンスターの悲鳴が聞こえてきてからだ。

 なんにせよ人間技ではなかった。

 

「あ、あんたたちはいったい……?」


 赤毛の女は、その声を聞いてようやく俺たちのことに気づいたかのように振り返った。


「なんじゃ貴様は?」

「俺はこの村の村長をやっている者だ……」

「ふむ、そうか。我らは掃除者。掃除者チーム【マリオネット】じゃ」

「マリオネット……っ?」


 その掃除者チームの名前は聞いたことがあった。

 俺は村長という役割で、ときたま町のギルドに依頼をしに行くことがあるからだ。

 

 ――確か、マリオネットと言ったらいまガラムの町で1番話題の掃除者チームじゃなかったか……?

 

 ギルド加入から3か月でランク8に到達した凄腕であり、そしてチームのリーダーである【人形使い】の女は剣士である少年と魔術師である幼女の人形を操ってモンスターを倒すとかいう噂だった。

 貴族でもなく、しかし平民としての素性も分からず、すべてが謎に包まれている掃除者チームだ。

 ただ1つ確かなのはどんな困難な討伐依頼にも首を振らず、そして報酬の上乗せを要求してくることもない、そんな実力も人徳も兼ね備えた人たちだということだ。

 そんなことを考えている間に村の中の戦闘音が止み、少年と幼女がゆっくりと歩いて戻ってくる。


「お、終わったのか……?」

「うむ? 当然じゃ」

「報酬は、いくらほど払えば……」

「報酬? そんなもんは要らんわ。別の依頼の帰りに偶然立ち寄っただけじゃからな。そんなことより貴様を含めたケガ人の心配をするがよい」


 赤毛の女はそれだけ言うと、少年と幼女を引き連れて去っていく。

 

「あれが……ガラムの町1番の掃除者チームか……」


 有名な掃除者チームなんていうのは大体が貴族の次男や三男坊の魔術師が幅を利かせる気に食わないものだと思っていた。

 人徳のあるチームなんてただの噂。信用に足るものかと思っていたこれまでの自分を張り倒したい。

 次にもしも討伐依頼が必要になったら、そのときは必ずマリオネットへの指名依頼にしようと、このとき俺は固く誓ったのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


この画面の下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


なにとぞ、よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★投票のお願い

↓下記リンクをクリックしていただけるだけで、別サイト【小説家になろう勝手にランキング】においてこの作品にご投票いただけます。
1日1回のみ投票が可能ですので、クリックしていただけると作者が嬉しいです!
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ