グリムを救出しましょう
浅いながらもいくつもの通路があった採石場、行き止まりの道の1つに隠し扉を発見した私とスドは、その先の階段を走り降りた。
そして何十、何百メートル降りたか分からない先の階層で、なにかが思い切り地面に叩きつけられるような轟音が響いたので、とにかく急いでスドの狼由来の嗅覚を頼りにグリムの居場所を探し当てた。
「はぁ……っ、はぁ……っ! なに、この扉……っ!」
突然目の前に現れた鋼鉄製の扉。しかしノブを掴んで引っ張っても扉はビクともしない。
「うむ……開かぬようじゃの。この先にグリムがいるのは間違いなさそうじゃが……しかしこの硬さはいまの人の姿の我の攻撃では開きそうにないのぉ……」
「分かった……じゃあ、どいて……っ‼」
走りっぱなしで荒くなった呼吸を無理やりに整えて、目の前に意識を集中させる。
――集中、集中、集中……ッ!
バチバチと、空気がひび割れる音が響き始める。
「シャ、シャル……? お主いまなにをしとるんじゃ……?」
「スドは離れてて。この魔術、制御ロジックが未完成なの。辺り一帯吹き飛ぶかもしれないわ」
「ばか! ちょっと待て! お主、またここが洞窟だと忘れてないかっ⁉」
「大丈夫、なるべく噴射先を正面に集約させるようにするから……」
私の目の前に、火の入れられた鉄のようなオレンジ色に光る、ビー玉ほどの小さな球が出来上がる。それはさらにどんどんそのサイズを縮めていき、その度に空気が軋む音がした。
「もう一度言うわ、スド。離れてて」
「わ、分かった! 分かったからちょっと待てっ‼」
私はスドの足音が充分に後ろに下がったことを確認すると、その球を目の前の扉の中心へとかざし、頭の中のスイッチを入れる。
――【システム:超圧縮球】、解放。
直後、高温の熱風が扉へと爆発的な威力で叩きつけられた。
いや、正確には正面の壁にむけて爆風が起こったのだ。
扉は壁もろとも吹き飛んで、その先があらわとなった。
――……よし。洞窟は崩落もしてないし、道は開けた! 結果オーライよっ!
「グリムーーーッ!」
扉があったその先の場所、洞窟内にしてはずいぶんと明るい空間へと足を踏み入れる。
「シャル、様……っ」
かすれ声の聞こえた方、グリムが地面に座り込むようにしてこちらを見ていた。
――いたっ! 生きてる! グリムはちゃんと生きていた!
しかし、その喜びも束の間だった。
「グリムッ‼ グリム、ケガがッ‼」
グリムのその顔は血で赤く染まっていた。
いままでそんなケガをしたグリムなんて見たことがない。
――とにかく、いまは早くグリムの元へ……っ!
「シャル様っ! 危ないですっ!」
「え……?」
グリムの声が耳を打ち、同時にこちらに振り返るような動きを見せた岩のようななにかが目に入る。
――なんだ、あれは。人形? 手に持っているのは……棍棒?
そこで私はこの空間に入ってから初めてグリムから目を離し、辺りを見渡した。
破壊された床、物々しい棍棒、血を流して倒れているグリムとそちらに向けて歩いていたような巨大な岩の人形。
おいおい。
ねぇ、それってつまりさ、
「グリムを傷つけたのはお前かーーーッ‼」
ブチギレちまっちゃいましたよ、私は。
――圧縮球×100、全力投球!
壊滅的な音を立ててその岩の巨像が転がっていく。
が、それでもなお私は容赦する気などサラサラない。
「許――さーーーんッ‼」
怒りに任せ、さらに追加で圧縮球をぶち当てて岩の巨像を粉々に砕く。
しかし、
「な……っ? 再生してる……?」
砕いてただの石の山になったはずのその巨像は、再びその形を取り戻し始める。
「シャル様……そいつにはダメージが与えられないみたいなんです……」
「えぇっ⁉」
――つまり、足止めをするくらいしかできないということ?
またたく間に元の姿に戻った巨像に向けて舌打ちしていると、
「シャル! それは【ゴーレム】じゃ!」
入り口の方から声が響く。
「正面から戦っても再生を繰り返すだけじゃ! そいつは土属性魔術で動いておるから、身体のどこかにあるはずの魔石を壊さん限り魔力が切れるまで動き続けるぞ!」
私が扉を開けるにあたって退避していたスドがようやく駆け付けてくれたらしい。
しかし、なるほど。
「土属性魔術なのね……! それなら話はもっと簡単よ!」
私は目の前に立ちはだかるそのゴーレムとかいう岩の巨像に向けて、システム化魔術のスイッチを入れる。
――【システム:土属性魔術無効】、起動。
相手の正体が土の集まりであるならば、私が普段から自分の身を守るために使っている土属性魔術無効化用の魔術を使えばいいだけの話。
それだけでゴーレムは砂のようになって、一瞬にしてその姿を崩した。
そしてその砂の中、黒曜石のようにきらめくなにかを発見する。
おそらく、それが魔石。
「これで終わりよ!」
――【システム:カマイタチ】、起動。
作り出した風の刃でその魔石を真っ二つに割ってしまう。
すると、ゴーレムはそれ以上の再生の動きを見せなくなった。
――よし、これで他にもう邪魔者はいないわね?
辺りにその他の危険がないことを確認しつつ、グリムへと駆け寄る。
「グリムッ!」
「シャ、シャル様……」
「ケガ! グリム、ケガっ! 大丈夫、痛くない? ううん、痛いよね?」
「あ、あの、シャル様、僕は」
「いいの! 喋らなくていいの! ああ、それにしても無事でよかった……いや、無事じゃないわね、ケガっ!」
「いえ、はい、その、たぶんそんなに大したことは」
「大したことはあるわよ! こんなに血が出てるんだもの! ほら早く傷口を見せて……」
片手でグリムの髪を上げて、血の流れ出る額の傷を見る。
「深……くはないわね。うん、頭の傷は派手に見えるって聞いたことがあるわ。よかった……。これならとりあえずは消毒と止血の応急処置だけで大丈夫そうね」
医療用の道具はひと通り町でそろえてきたのだ。
まずは水で傷口を綺麗に洗い流す。
それから清潔な布に消毒用に購入した度数の強い蒸留酒を濡らす程度に染み込ませ、傷口に当てる。
最後に少しキツめに包帯を巻いて終わりだ。
「これで良し。あとは町に戻ってから医者に見せましょう」
「ありがとうございます、シャル様……」
「ううん、私こそごめんね。私が採石場で力任せに圧縮球を撃ったせいでこんな目に……」
「そんなこと、ありません。全部僕の……」
グリムは言いかけて、口を噤む。
僕の、なんだろう?
訊き返そうかと思っていたそのとき。
「おーい、シャル、グリム! この部屋の奥になにかあるようじゃぞ!」
いつの間にかスドが部屋の奥にいて、こちらに向かって手招きをしている。
「グリム、立てる?」
「……はい。大丈夫です」
それから一緒にスドが呼んでいる場所へと向かって。
「……なに、これ?」
そこにあったのは、厳かな棺に横たわるミイラ化した死体と手紙だった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
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