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落ち着いて考えましょう

 ――地盤の崩落。


 それが目の前で起こっていた。

 グリムを飲み込んだ穴は目の前に大きく広がっていく。

 アルガルドの群れの死骸が転がっていた部分の地面全体が、まるで腐っていた木の床が抜けるように一気に崩れ落ちた。


「――グリムーーーッ‼」


 私は瞬間的にその穴へと駆け寄ろうとして、しかしスドに肩を掴まれる。


「シャル! 近づくな!」

「なんでッ⁉ グリムが――ッ!」

「まだ崩れるっ‼ 洞窟から抜けるぞッ‼」


 スドの言う通り、崩落はグリムのいた箇所だけではなく徐々にその範囲を広げていき、アルガルドの死骸もなにもかもすべてを飲み込んでいく。

 私はスドの小脇に抱えられて運ばれそうになるが。


「待って! スド! 待ってッ!」

「待てるかッ! 巻き込まれたいのかお主はッ!」

「違うのっ! 止まったから! 崩落が止まったからっ!」

「……なにっ?」


 言葉通り、採石場の最奥の空間の床を丸のみにしたところで崩落が止まったのだ。

 少し走り出すのが遅れていたら私たちも飲み込まれていただろうがしかし、ちょうど最奥の空間とそこに繋がる道を境にして穴が空いている。

 穴の中、そこにはランプの灯の明かりが届かない深い闇が広がっていた。


「グリムーーーッ‼」


 穴底に向けて大きく叫ぶ。

 しかし、しばらく待ってもその音が反響して返ってくるばかりで、下からはなんの反応もない。

 声が届かぬほど深い場所にグリムがいるのか、それともまさかこの崩落に巻き込まれて意識を失っているか、あるいは――。

 そう考えると、全身の血の気が引くようだった。

 

「どうしよう……スド、私どうしよう……っ! 私のせいよね、私が力加減もせずに圧縮球を何発も撃ったから! だから地面が崩れたのよね……っ? 私のせいで……っ!」

「お、落ち着けシャル!」

「落ち着いてなんかいられないわよ……っ! 早くグリムを迎えに行かないと……! 穴を下りる方法を考えなきゃ……! そうだ、システム化魔術でなんとか……どうしよう、ベクトル変換? 落下速度の反転? それとも浮力調整? ああどうしよう、私どうしたら……っ!」

「だから落ち着けと言っておるのじゃッ‼」


 パチンっとスドの両手が私の頬を挟む。


「いいか、よく聞くのじゃ。下へと向かう道は必ずある!」

「ふぇえ……っ⁉」

「よく観察すれば分かるのじゃ。この穴は人工的に作られておる。だいたい、お主の攻撃程度で地面に大穴が空くなんぞありえん。もともとこの最奥の部屋の地面だけ、薄い地面だったというだけじゃ」

「う、薄い地面……?」

「そうじゃ。この下に広がる空間を隠すための地面、といったところかのぉ。隠してあったということはつまり誰かによる発見を防いでいたということじゃ。シャルよ、それがどういうことかを考えるのじゃ……」


 ――この下に広がる空間。それを隠すための地面。発見を防ぐ……?

 

 それらの言葉は徐々に私の頭に染みわたっていき、そこでようやくスドがなにを言いたいのかに合点が言った。

 

「発見を防いだってことは、つまり、その存在さえ知ってしまえば私たちでも探せる場所にあの穴の中へと侵入できる方法があるっていうこと……?」

「その通りじゃ。ようやく落ち着いてきたようじゃのぉ」


 確かにスドの言う通りだ。

 地面に空けられた穴が人工的なものだとするならば、それをなにかの目的に利用していた誰かがいたハズ。

 そして穴を利用していたのだとすれば、その奥へと降りるための手段だって当然あるハズなのだ。


「ごめん、それにありがとう、スド。私、頭に血が上っていたみたい」

「まあ仕方ないじゃろ。目の前でグリムが落ちたんじゃからの」

「グリム、無事よね……? 生きてるわよね……?」


 その問いに、スドは笑って応えた。


「我の一撃でも倒れなかった男ぞ、やつは。身体強化魔術も持っておるし、穴に落っこちる程度で死ぬようなタマでは無かろうよ」

「そ、そうよね……」


 そうだ、きっとそうに違いない。

 いまはそう信じる他ない。

 

「早く探しましょう、下へと繋がる道を。きっとグリムも待っているわ……!」

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「グリムは今後どうなるのっ……!」


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