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討伐依頼を受けてみましょう

 ランク5への昇格を果たして数日後、私たちは再び掃除者ギルドへと足を運んでいた。

 今日まではスドに町の案内や、生活必需品などを買っていて潰れてしまっていた。

 でもさすがにそろそろ稼がなきゃねということで、さっそくランク5の仕事を受けてみようということになったのだ。


「ランク5の掃除者の方はランク6までの仕事を受けることができます。とは言っても、最初でしたら無難にランク5の難易度の低い仕事から受けて次第に戦闘に慣れていくのが良いかと思いますよ。ほとんどの方がそうなさっています」


 ギルド受付のイレーネさんの説明を受けつつ差し出された依頼書を見る。

 

【西の森の泉近く、ラッカルの巣らしきほら穴の実態調査】

【隣町までの薬草の運搬作業(森を抜けるのでモンスターとの戦闘経験必須)】

【リッシェル村の警備(近くでエンシェントウルフの群れの討伐を行うので落ち延びた個体の討伐)】


 それらはほとんどが直接モンスターを討伐するような依頼ではなく、どちらかといえばそのための準備や補助のようなものだった。


「フン、なんじゃそれは。つまらんぞ」


 字の読めないスドへと書かれている内容を教えてあげると、不満げに鼻を鳴らした。


「もっとこう、大型モンスターとかの討伐はないのか! こんな依頼だけじゃと腕が錆びついて動かなくなってしまうぞ!」

「いやいや、さすがにランク5に上がっていきなりそんな強そうなのとは戦えないでしょう」

「うむぅ……それにしたってこれはひどいぞ。我はせめてもっとまともに戦えるような依頼がよいぞ」


 ――私としてはこういう依頼でもいいと思うのだけれど……。私たちってまだこの世界の平均的なモンスターとのまともな戦闘経験が無いわけだし。


「グリムはどう思う?」

「僕はシャル様の考えに従いたいと思いますが……でもスドさんの言うことも分かりますね。ちょっといま挙げていただいた依頼では物足りないかなって」

「そう……」


 どうやらグリムもスドに賛成のようだ。

 うーん、私が慎重すぎるのかしら。

 とりあえずランク6の内容も教えてもらおうと、イレーネさんにお願いした。


【東の森奥の岩切場に出現したガーゴイルの討伐】

【ワイバーンの巣から卵の採取】

【北の森湿地のスピネルワームの討伐(討伐個体数に応じた報酬)】


 渡されたものを読むに、ランク6までになるともう討伐依頼がほとんどになるようだ。

 

「シャル様、これなんてどうでしょうか……?」


 横からグリムが指で差したのは【南東の採石場跡地を住処にするアルガルドの群れの討伐】というものだった。


「うーん……アルガルドって?」

「以前図鑑で読んだことがあるのですが、二足歩行で人並みの大きさのトカゲのような見た目をしていました。飛び掛かってきて鋭い爪で攻撃するらしいです」

「へぇ、よく知ってるわね。それにしても図鑑なんていつ読んだの? ラングロの書斎には無かったと思うけれど……」

「実は、この町に来てから空いた時間に本屋に通っておりまして……」


 グリムが照れたように頭をかく。

 そういえばグリムがときおり1人でどこかに出かけているなとは思っていたけれど、まさか本屋で勉強をしていたとは。

 

 ――私なんて久々の自由に浮かれて宿でゴロゴロしてばっかりだったのに……。なんだかちょっと反省だわ。

 

 それにしてもグリムは昇格試験も早くから受けたがっていたし、よっぽどモンスターとの戦闘経験というものを積みたいのかしら。

 2か月前は私がそれを却下しちゃったから、その欲をモンスターの知識を収集するという勉強面で解消していたのかも。

 

 ――だとしたら、これ以上押しとどめるのもかわいそうよね。


「スド、あなたもこれの依頼でいいかしら?」

「うむ。我は戦えるならひとまずはなんでもよいぞ」

「じゃあグリムが選んでくれたコレを受けましょう」


 私がそう言うやいなや、グリムの表情がパーッと明るくなった。

 分かりやすくて可愛いなぁ。

 ほっこりとしつつ、イレーネさんに依頼を受ける旨を伝える。

 

「えっ? えぇっ⁉ これを受けるんですかっ⁉ これはランク6の中でも難易度の高い依頼ですよっ⁉ 最初でコレは無謀です! さ、最悪死んじゃいますよっ?」

「えーっと……たぶん大丈夫ですので、お願いします」

「えぇ……っ」


 ものすごく渋られたが、しかし最後にはイレーネさんが折れる形で許可してくれる。

 ギルドの受付は上からの命令などがある場合を除いて、掃除者の仕事の受注の邪魔をしてはいけないんだそうだ。

 ただずっと険しい表情で「無理だと感じたらすぐに引き返してくださいねっ? 絶対ですよっ?」と私たちがギルドを出るまでずっと心配してくれた。


「……大丈夫よね?」

「なにをいまさらじゃ。お主らはすでに我とまともに戦えておったではないか」


 そうは言われても、あのままやっていたら負けていたけれどね。

 まあそれでもスドが保証してくれるなら大丈夫でしょうと、とりあえず自分を納得させることにする。

 

「……?」


 そういえばグリムが隣にいないなと思い振り返ると、どうしたのだろうか、グリムは私たちの後ろで押し黙るようにして口を真一文字に結んでいた。


「……グリム?」


 その顔はなにかを決意したように力強く引き締められていて、私はそのグリムを、いつもの少年のグリムとはまるで別人のように感じてしまった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「シャルロットは今後どうなるのっ……!」


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