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とにかく逃げましょう

 テルマはリュックから松明を取り出して焚き火の火を移す。


「走ることになるが、シャルにグリム。2人は体力はある方か?」

「あります」

「じゃあ、武器以外の荷物は置いて、走るぞ」


 ――ええっ、荷物を⁉︎ それはイヤだ!


 迷うが、しかし断腸の思いでリュックサックを置き棄てる。

 さっき3人の言う通りにしようって決めたばかりだし、仕方ない。

 あーあ。あのリュックはディルマーニ家からの家出のときにも使った自作のもので、ちょっと愛着があったのに……。残念極まりないわ……。

 

「さっきの音……遠吠え? の主はそんなにマズいモンスターなんですか?」


 月明りだけが頼りの夜中の道を走りながらテルマに問いかける。


「ああ……マズいな。戦闘になったらまず勝ち目がない」

「襲って来るんですか?」

「自分から人間を襲いに来るなんて話は聞かないが、それでも直接遭遇したらそれも分からん。俺たちは1度見かけたことがあるけど……その時も一目散に逃げたさ。そうしたら追ってくることはなかった」

「……なんていうモンスターなんですか」

「【ホロウ】と呼ばれている。言ってしまえば、エンシェント・ウルフたちの長で、1つの地域に1体いると言われてる。ただ単純に強い狼だとかそういう話じゃなくてな……めちゃくちゃデカいんだよ。もうスケール感が違う」


 テルマがヤケになったようにして鼻で笑う。


「俺たちの10倍以上のサイズがあるんだぜっ? 魔術師のいないチームじゃとうてい太刀打ちできっこない。人間とネズミが正面からケンカするようなもんさ。それにホロウは知能も高くてな、個体によっては魔術を使える者もいるって話を聞いたことがある」

「物理的にも人が敵うレベルではないうえ、魔術も使えるんですか……ちなみに使える魔術の種類とかは?」

「そんなもん知らんし、知りたくもないねっ! というかそろそろ走ることに集中するんだ、さもなきゃ今日が俺たちの命日になるかもしれないぞっ!」

 

 それからはただただ無言で走り続ける時間が続いた。

 結構なスピードで、振り向くこともなく元来た道を辿っていく。

 しかし、走り続けて10分ばかり経った頃だろうか。

 むわり、と生ぬるい風が私たちを包む。それはどことなく生臭さを含んでいて、つい顔をしかめてしまう。

 まるで【ナニカの吐いた息】の中に居るようだ。


「――チクショウ! 全力で走ってるってのにッ!」


 テルマが叫ぶ。

 息も荒く、後ろから見たその姿は絶望に背中を無理やり押されているかのように乱暴な走り方になっていた。

 事実、絶望の象徴がいままさに、私たちの真後ろに居るのだろう。

 もう、その吐息の音が間近で聞こえていた。

 

「全員ッ! 聞けッ!」

 

 テルマは、それでも狼殺しの掃除者としての誇りが最後まで彼を奮い立たせたのだろう。

 

「いっせいに武器を手に振り返るぞッ! 合図は3!」


 最期まで諦めるものかと意地を見せる。


「――1、2……」


 キューレも、ラックスも各々の武器を手に取った。私とグリムもまた彼らにならう。

 そして、

 

「――3ッ! いくぞ――ッ‼」


 息ぴったりの反転。

 そしてテルマが斬り込み、キューレが矢を放ち、ラックスが体当たりを仕掛けた。

 しかし、そのすべてがことごとく空を切る。


「な……っ?」


 振り返った先には夜の闇があるだけで、確かにその絶望的な存在感を示していたはずのナニカはそこにいなかった。

 

〔どこか懐かしき匂いに誘われ来てみれば……ずいぶんとノロマだな。我が眷属をほふりし者どもよ〕


 その声が聞こえたのは私たちの真後ろ。

 先ほどまで私たちが走っていた方向から。


〔逃がしはせぬ。抵抗も許さぬ。貴様らに許されしはただ我がにえとなることだけよ〕


 そして私たちは改めて後ろを振り返る。

 そこにいたのは燃えるような赤い毛並みをした、それはもう大きな狼だった。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「シャルロットは今後どうなるのっ……!」


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