不労所得で美味しいお肉を食べましょう
時間が経つのは早いもので、ガラムの町にやってきてから2か月が経っていた。
さてさて、日々は順調に過ぎていくのだけれど、心なしか6歳の頃から身体のサイズがほとんど変わらない気がする。
いったいどういうことかしら。私はできれば前世の肉の薄い日本人体型からおさらばしたボンキュッボン(古い?)でナイスバディ(死語?)な女性になりたいというのに。
やっぱりあれか、栄養のある動物性たんぱく質が成長には不可欠なのかしら。
「ねぇ、グリム。今日はお肉を食べに行きましょう?」
「え? どうしたんですか急に」
宿の同室で鍛錬をしていたグリムが腕立て伏せを止めて、きょとんとした目を向けてくる。
「いや、特別な意味はないけれど? なんだか無性に食べたくなっちゃって」
「はぁ……そうですか。僕はぜんぜんいいですよ。それで、どこのお店に行くんですか?」
「【モスティーニ】で!」
「えぇっ? 今日ってなにかの記念日だったりしましたっけ?」
「ううん、なんにもないよ? まあとにかく決定ね!」
よしよし善は急げよ。
さぁ行こう、いますぐ行こうと、戸惑うグリムを急かし外行きの服へと着替えさせる。
私も今日はこの前買った新しいカジュアルドレスでも着ることにしよう。
なんといってもモスティーニはガラムでも指折りに美味しい高級志向のレストランなのだから、いちおう暗黙的なドレスコードがあるようだし。
――うん? そんなに贅沢して大丈夫かって? お金の使い方が荒くなってないかって?
それが、大丈夫なのよ。
私たちはいま、ちょっとした小金持ちになっているので。
やっぱりシステム化魔術って便利だなーと思ったわよね。
なんていったってそのおかげで【不労所得】がたんまりと懐に入るのだから。
もう最高の気分である。
――不労所得の正体。それは、単純作業の内容の依頼の仕事を自動化することによって得られる依頼報酬だ。
掃除者ギルドで継続的に受けられる低ランクの仕事を自動化し、それが自動で行われている間に別の仕事を受け、それもまた自動化する。
そうすると私が直接手を付けずとも勝手に終わっていく仕事が増え、1日にもらえる報酬もまたどんどん増えていくというわけ。
まあそんなわけで、いまの私とグリムの所得は前世の日本の高度経済成長期のオジサマたちもびっくりなほどのウナギ登りというわけ。
「はぁー、いっぱい食べたわねー!」
「美味しかったですね~」
今日の夕食はガラム1番のレストランで取り扱っている高級肉のステーキ。
満足感たっぷりの帰路をグリムと2人で歩く。
――しかし、つい数か月前まで自分で狩猟して捌いた肉を食べていたとは思えない成り上がり方ねぇ……。
ちょっと上手く行き過ぎかな? なんて思ってしまう。
まあたいていそういうのはお約束のフラグってやつなわけで。
「おう! お前か、近ごろ仕事を独占して荒稼ぎしてるガキは!」
宿の前まで戻ったところで、なにやら厳つい男どもに囲まれてしまう。
「……はい?」
「お前らが俺たちの仕事を奪ってるんだろうって聞いてんだ!」
「仕事を奪う? いや、身に覚えはありませんね」
まあ、ただの男どもに囲まれたぐらいで動じるレベルはもう過ぎているので普通に応じた。
私たちはディルマーニ家の護衛くらいなら何人でも倒せるほどには実力があるのだから。
グリムもまた、いざとなればどうにかできるという自信があるからだろう、特別なそぶりは見せないでいる。
「しらばっくれてんじゃねぇぞっ!」
男たちは私たちが微塵も動揺していない様子になおさら腹を立てたようで、早口でいろいろとまくし立ててくる。
あっちこっちから飛んでくる乱暴な言葉のオンパレードを、それでもなんとか丁寧に整理して箇条書きにまとめると、
・あなたがた幼女ご一行殿におかれましては、掃除者ギルドにおいて最近ますますのご活躍を聞き及ぶところ。
・しかしながらそれが原因で我々の仕事が無くなっている次第でございます。
・つきましてはその責任をご一行殿に取っていただければと存じます。草々。
とまぁ、こんな感じかしらね。
いわゆる既存業者と新規参入業者の間に生じる摩擦というやつ。
うん、言い分は分からなくないわ。
いままで受けられていた仕事が受けられなくなったら困るというのは分かる。
「ですが私たちは仲良しごっこをしているわけではありませんよ? より速く業務をこなせる人間ほど仕事を多くこなせるのは必然。私たちとしては文句を言われる筋合いなどないのですが」
そう言ってみたのだけれど、うん、ダメみたいね。
男たちの怒りのボルテージがどんどん上がっていくのが肌で分かる。
「はぁっ⁉ ふざけんじゃねーぞ! テメェらの都合のいいように動かれちゃこっちが迷惑するって言ってんだ! 新参なら新参らしく古参の俺らへの配慮をしろってんだ!」
――まったく。どこの世界でも理不尽な人間ってのは一定数いるものね……。
「シャル様、どうしますか? 返り討ちにしてしまいましょうか?」
グリムが実力行使全開のアグレッシブな提案をしてくれるが、うーんどうしましょう。
向こうから暴力を振るってきているわけじゃないしなぁ……なんて考えていた時だった。
「テメェがそういう上から目線の態度を取り続けるってならこっちも容赦はしねぇぞッ! 明日から覚えておくんだなぁッ!」
男どもはそうとだけ言い残して、意外にもあっさりと引き下がっていくではないの。
この場でリンチでも始めるのではないかというほどの怒り方に見えたのに、どういう心境の変化だろうとこちらとしては首を傾げてしまう。
――それが分かるのは男どもの言う通り、その翌日のことだった。
その日、私とグリムはいつも通りギルドへと出かけ、いつも通り受付のイレーネさんへと受けたい仕事を伝えに行く。
しかし、その後のイレーネさんの反応だけがいつもと違った。
「も、申し訳ございません、シャル様。実はガラム掃除者ギルドにおいては低ランクのお仕事をシャル様たちにお任せできなくなってしまいました……」
「……はい?」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルロットは今後どうなるのっ……!」
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