掃除者ギルドに行きましょう
――子供でも働ける場所はありませんか?
町に着いた翌日から、私とグリムは宿屋の主人を始め、外食店で働く人、路商、いろいろな人に聞いてはみたものの、身元も不確かな私たちが働ける選択肢はたったの1つだけだった。
それが、【掃除者ギルド】。
元々は家や仕事場の掃除をしてくれる人たちの募集と応募を管理するために結成されたその組織だが、時が経つにつれ、簡単なお使いや迷い猫の捜索、そして果てはモンスターの討伐なんかの仕事まで幅広く取り扱う万事屋的な組織になっていたらしい。
そこへ登録した人は自分のランクに応じた難易度の仕事を受けることができる仕組みだ。
登録自体は誰でもできて、小遣い稼ぎのために加入している町の子供も多いんだとか。
「冒険者っていう職業は無いみたいねぇ……まあRPGとかの冒険者ってそもそもモンスター討伐ばっかしてるし、冒険者って名前になること自体不自然なんだけれど……。この世界ではルーツがある分、掃除者って名前になるのが自然なのかしら……いやでも冒険者って響きはかっこいいからちょっと憧れちゃうわよね……」
「……?」
私がブツブツ呟いていると、グリムがなんのことやらと首を傾げる。
いや、別にわざわざ解説するまでのこともないわよ?
というか私の前世での創作物の中での話なわけで、解説したところでグリムを余計に混乱させてしまうだけでしょうし。
――まあとにかく、どうやら私たちは掃除者ギルドでしか働けないみたいだし、登録してしまいましょう。
ガラム掃除者ギルドと書かれた看板が下げられているその建物は外観も内観も、前世で言うところの市役所のような場所だった。
差はコンクリ製か木造かというところくらい。
私はさっそく受付にいた綺麗なお姉さんに登録したいと話す。
その職員のお姉さんの名前はイレーネさんというらしい。
その彼女から私はいろいろと質問を受けることになったので順々に答えていく。
Q.文字の読み書きは?
A.できます!
Q.力作業は?
A.無属性魔術があるので大得意!
Q.なにか特別な技術は持っていますか?
A.無属性魔術を高いレベルで使えます!
あと動物の狩猟経験があり、ログハウスを自分で作ったこともあります!
他にもいろいろと聞かれたが、特に身元などは問題視されないみたい。
どうやらこの王国には戸籍のようなシステムはないようだ、よかった。
そして5分ほどでひと通りの質問への受け答えが終わる。
「なるほど……。これだけできることがあれば、いろんな種類のお仕事を斡旋できると思いますよ」イレーネが言う。
「ホントですかっ⁉」
「ええ、本当です。しばらくお待ちくださいね」
そう言ってイレーネは受付の奥へと引っ込み、そして数分後になにかを手にして戻ってくる。
「はい。こちら掃除者ギルドの会員証です」
手渡されたのは薄いプラスチックのような材質の2枚のカードだった。
そのカードには掃除者ギルドのマーク、そしてその横に【シャル】という名前が刻まれていた。
――あ、そうそう。私はこれを機に名前を変えることにしたのよ。
シャルロット、なんていういかにもお嬢様然とした名前だと人目につくだろうし、そうしたらディルマーニ家にバレるかもしれない。
念には念を、ということでグリムが呼んでくれてる愛称をそのまま名前として登録したのだ。
「その会員証を見せれば、この王国内にある掃除者ギルドのどこでも仕事を受けることができます。決して無くさないように気をつけてくださいね。あとその会員証に書いてある数字があなたたちのランクとなります」
会員証を見れば、私とグリムの会員証には【2】という数字が刻まれていた。
「ランクは1~10まであって、そのランクに応じた仕事を受けることができ、また仕事の実績に応じてランクは上がっていきます」
イレーネさんはそう説明をしたあと、私たちのランクに合わせた仕事が書かれている依頼書の束を渡してくれたので目を通す。
「ふむふむ……」
確かに、イレーネさんが言った通りいろんな種類の仕事があった。
しかし、その内容は『行方不明のペットの捜索』、『木材と石材の調達』、『引っ越しの手伝い』などなど、生活に密着したものがほとんど。
そしてそのどれも報酬が安い。1日の生活費をまかうなうのでやっとというレベルだ。
「あの、報酬額はこれくらいが相場なんですか?」
「う~ん、ランク2だとこれくらいですね。ランク3の依頼も見てみますか?」
そうしてランク3の方も見てみたが似たり寄ったりの内容だ。金額もお察し。
顔をしかめる私に、イレーネは困ったように笑いかける。
「高い報酬の依頼は危険度も難易度も比例して高くなるものが多いので……」
「はぁ……」私はあいまいに頷く。
「モンスター討伐とか、魔の森の近くで採集をするとか、そんな仕事ばかりなんです」
「――モンスター討伐っ?」
イレーネさんの言葉に、意外にもグリムが食いついた。
どうしてか分からないがキラキラと無垢な眼を輝かせている。
「しかしそういったモンスター討伐の依頼などは特別な試験を突破することで昇格することができるランク5以上の掃除者でしか受けられないんです」
「特別な試験?」食い気味にグリムが訊く。
「はい。高位のランクの掃除者の方の付き添いのもと、モンスター討伐の仕事を実際に受けてもらうんです。そこでの実力を見て合否を判断します」
「おおっ! その試験には誰でも挑戦できるんでしょうかっ?」グリムが身を乗り出す。
「はい、誰でも受けられますよ」
ちなみに報酬はこれくらいですと、イレーネさんにランク5の仕事の相場を教えてもらう。
なんとだいたいどれもランク2でもらえる報酬額の3~4倍で、だいぶ気前がいい。
「どうしましょう、シャル様。さっそくその試験に挑みますかっ? 僕はいつでも……っ」
「いや、やめておくわ。もうちょっと様子見がしたいし」
首を横に振る私に向けて、グリムはしょんぼりとした表情を向けた。
――さっきからの反応を見るに、よっぽど高ランクの仕事が受けたかったのかしら……?
ちょっと可哀想だけれど、私としてはいまの段階でハイリスクハイリターンの仕事へと安易に飛び込んでしまうのは避けたい。
それに低ランクの依頼だけしか受けられないとしても、私には充分に稼げそうなアイディアはあった。
であれば、わざわざ生き急ぐ理由もないでしょう。
「イレーネさん、単純作業系の仕事で、なおかつ継続的な仕事ってありませんか?」
「単純作業で継続的? え~っと、そうですね……これなんかどうでしょう?」
イレーネさんは、『公園の草刈り(週1回)』、『町道の整備(週3回)』、『議事堂前の掃除(毎日)』など、こちらの求めた通り、高い頻度で繰り返しの単純作業が必要な仕事を10件ほど見繕ってくれた。
「ありがとうございます。それじゃあこの仕事を受けさせてください」
「ああ、はい。承知いたしました。それで、どの仕事を?」
「全部です」
「全部っ⁉」
さすがにそれは無理でしょうイレーネさんに断られる。
いやでも本当にできますからと食い下がって、とりあえず半分の5件だけ受けさせてもらえることになった。
ただそれでもやはり無茶だと思われているようで、
「そんな仕事量、成人男性でも疲れ切ってしまいますよ……? 身体を壊さないように、充分に気を付けてくださいね……?」
なんて最後まで心配してもらってしまった。
良識のあるいい人みたいね、イレーネさん。
まあでもぜんぜん大丈夫なんだけれども。
残念そうな表情をしたままのグリムを引き連れて掃除者ギルドを後にする。
――さて、宿に帰ったらさっそくシステム化魔術の構築を行うとしましょうか。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルロットは今後どうなるのっ……!」
と思ったら
この画面の下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
なにとぞ、よろしくお願いいたします。




