お姉様、復讐の時間ですわよ
「あははっ! ワンパターンねシャルロット」
さて、私の放った目には見えぬはずの圧縮球を、エリーデはやはり軽快なステップで避けていく。
隙無く、風魔術の応用技を展開していたようだ。
「悪いけど貴女の遊びに付き合うつもりは無いのよ。黙ってノビでおきなさい」
エリーデの指先が白く輝いたかと思うと、そこから音速を超えた電撃が私に向かって伸びてくる。
それは2週間前に私とグリムを叩きのめした雷属性魔術。
人間の反応速度では避けられぬ一撃。
だが、しかし。
「……あら?」
エリーデが首を傾げる。
それもそのはず、電撃は私を貫きはしなかった。それは蛇がうねるように弧を描き、私とは全く別方向の地面へと突き刺さったのだ。
「【避雷針】って知っているかしら、エリーデ姉様?」
「ひらい、しん……?」
――知らないわよね、まだきっとこの世界には無いに違いないのだから。
雷は通常、より尖ったものに落ちる性質を持つ。
避雷針とはその名の通り針のように細い鉄製の器具であり、雷避けに使われるものだ。
と、いうわけで私はこの2週間の間に、避雷針を形成するためのシステム化魔術を組み上げて準備していたというわけ。
「つまるところ、姉様の雷属性魔術はもう私に届かないわ」
「あっそう。そうなのね……残念」
エリーデはそれほど驚いた様子もなく肩を竦めて、それから残酷な笑みを浮かべる。
「本当に残念だわ。雷魔術は他の私の【オリジナル】に比べたらずいぶんと優しい部類だったのだけれどねぇ……」
「他の……オリジナル?」
「ええ。いま見せて上げるわ」
エリーデが手を上空へと掲げた、その先で。
大きな音を立て、広範囲に爆発が起こった。
「これは水属性魔術と火属性魔術の応用、【爆発魔術】よ。身体はバラバラにしないように威力は抑えるけれど、全身の火傷は仕方ないと諦めてね?」
躊躇なく、エリーデの手がこちらに向けられる。
私を中心とした空気が変わった。
そしてまたたく間に私とグリム、2人を巻き込む爆風が――。
「……え?」
――起こらなかった。
「な、なんで……? どういうこと……っ?」
エリーデが恐らくは同じ魔術を何度も繰り返しているが、しかし一向に私は吹き飛んだりしない。
まあそれもそのはずだ。
「エリーデ姉様。全部あなたのおかげですよ」
「な、なにがよ……?」
「姉様が私を叩きのめしてくれたおかげで、私は思い上がりを捨てることができました。私は決して強くなんかない。ただの幼女なんだって思い直すことができたんです」
「訳が分からないわ。だいいち、貴女のおしゃべりに付き合ってあげる義理なんてない!」
エリーデが地面へと手を向けると、今度は黒い煙のようなものが舞い上がり私を囲うような帯となった。
「これは雷属性魔術と土属性魔術の応用【鉄】属性魔術よ! これで倒れなさいっ」
「なるほど。【砂鉄】ですか……」
雷属性魔術の磁力を使用して地面から砂鉄を吸い寄せ、それを土属性魔術で操っているのだろう。
黒い帯が私を締め付けようと私に迫ってくるが、しかし。
「残念ですけれど……」
私に触れる手前数メートルの位置で、黒い帯はただの砂鉄となって風に飛ばされていく。
とうとう、エリーデの表情からいっさいの余裕が消えた。
「どうして……」
「……さあ、なんででしょうかね」
この2週間、私は思い上がりをすべて捨てて入念な準備をした。
それは主に家出に必要なことが多かったがそれだけじゃない。
エリーデに喰らった雷属性魔術の対策、そしてエリーデなら作り上げていてもおかしくはない他の未知の魔術についての対策もだ。
――例えば私は、水素と酸素、それに火があれば爆発を起こせることを知っていた。
――例えば私は、磁石があれば砂鉄を集められることを知っていた。
もしそれをエリーデも気づいたならば、新しい魔術体系に昇華させている可能性は充分にある。
だからこそ私は私の考えうる可能性すべてへの対策をシステム化魔術に落とし込んだのだ。
――エリーデへと教えてやる気なんてさらさら無いけれどね。
「ならっ! 植物属性魔術はっ!」
「効きませんよ」
「氷属性魔術――っ!」
「なんの問題もありません」
「熱属性魔術は――っ」
「それもダメですね」
エリーデのオリジナル魔術が次々に私の前で立ち消えていく。
――やっぱり、準備って大切ね……。
火と水に土、そして風。
その4属性でできるであろう魔術にできる限りの対策を施してきた。
その努力がまさにいま目の前で実っている。
「さて、エリーデ姉様。それではそろそろ私も反撃しますよ」
圧縮球×100。
しかしやはりそれらは簡単に避けられていく。
「フン……ッ! 予想外だったわ、シャルロット。でもね、貴女の攻撃も当たらなければ私も負けはしないわ!」
「確かに、そうですね」
「なら、引き分けかしらね。まさかキッチンまで運んできたはずの七面鳥を逃がす羽目になるとは思わなかったわ」
いい運動ができたとばかりに、エリーデは髪をかき上げる。
ああ、もうこれでエリーデは終わった気でいるのね。
「引き分け? なにを言ってるのですか?」
「……え?」
「言ったでしょう? 復讐の時間だと」
――圧縮球×1000。
私はさらにシステム化魔術を起動させた。
「エリーデ姉様に1つ教えてあげましょう――1度始めた復讐に引き分けなんて存在しないんですよッ!」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャルロットは今後どうなるのっ……!」
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