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《オットー視点》エリーデという少女

 この【センドルク王国】の王都において最も高い建築物である王宮、その高層部の一画にある私の部屋から眺める景色は、毎朝私に自らのステータスの高さを実感させててくれる。

 王宮専属のシェフが用意した朝食をとり、食後には国産の高級ブランド茶葉を使った一杯で至福の時を過ごす。

 時間になったら私の付き人が用意した1つのシワもないローブを羽織って日々の業務を片付けに向かうのだ。

 

 ――ああ、なんて理想的な人生だろうか。

 

 みな、王宮内を歩けば私が通る道を自然に開け、そうして壁際に寄った人々が代わるがわるにあいさつをしてくる。

 その瞳に宿るのは敬意と畏怖。

 この私を【王宮第三席次魔術師】である、オットー・ダリヒシュタインと認めての羨望と嫉妬の混ざったまなざしを向けてくるのだ。

 

 ――分かるよ、手に取るように分かるとも。その感情の由来が分かる。

 

 史上最年少の32歳でこの王宮内で3番手の魔術師となった私は良い意味でも悪い意味でも目立つ存在だった。

 私が第三席次の座に着くにあたっては大議論が巻き起こったとも聞いている。

 曰く、『こんな若造に王族や大公に次いだ権力を持つことになる王宮魔術師の席次を与えてよいのか』と。

 しかし、その結論として私はこの席次の座、それも上から3番目に着くことになったわけだ。

 

 ――おかげさまで、この数年は天にも昇る思いさ。

 

 私は生まれこそ男爵家で恵まれなかったとはいえ、飛びぬけた魔術の才覚があった。

 それを自覚してからは人生の全てを魔術の修練に費やし、そうしてここまで昇りつめたのだ。

 いまでは類まれなる魔術師としての実力と深い知見を買われて、片田舎の貴族から王宮魔術研究所の副所長へと転身し、充実した日々を送っている。

 

 ――誰の目から見ても順風満帆な人生だ。そうだろう?

 

 ゆくゆくはこの私こそが王宮主席魔術師を拝命することになるに違いない。

 そのように確信に近い思いをこの胸に抱いていた。

 

 ――今日、この夜までは。

 

「ダリヒシュタイン第三席次。今夜の実技試験なのだが、第八席次に代わって君が担当してくれんかね?」


 私の働く研究所にやってきた王宮主席魔術師ヴェルファリア・オールダイムが言ったその言葉が始まりだった。

 この時、意味ありげに笑っていた彼の忠告を良く聞いておけばよかったと、心底そう思う。


「――ゆめゆめ、油断するでないぞ? 【食われ】たくなければな」


 そうして、運命の夜がやってきた。

 王宮内部、普段は開かれることのない広間。

 

「ごきげん麗しく、ダリヒシュタイン第三席次様。わたくし、エリーデ・ディルマーニと申します」


 私の前に立ったのは、私の身体の半分ほどの背丈の可憐な少女だった。

 

 ――おいおい、おいおいおい。

 

 エリーデと名乗った少女のあいさつへと気もそぞろに答えて、私の視線は当然のごとく主席へと向く。

 

 ――どういうことだ? まさかこの年端もゆかぬ少女が栄えある王宮席次魔術師の候補者とでも言うのか?

 

 ヴェルファリアはアゴに蓄えた長い白ひげを手指で梳きながらニヤニヤとこちらを見るばかり。

 

「それでは、実技試験を開始いたします。ダリヒシュタイン第三席次、そしてエリーデ・ディルマーニ様、お2人ともご用意は?」


 どうにも納得がいかなかったが、この場に至っては口を挟むのも野暮だ。

 試験の審査員のひとりの言葉へと、無言で頷いた。

 

「では、始めてくださいっ!」


 ――さて、それじゃあ軽く1発水魔術でも当てて様子をみるとしよう。

 

 魔術の高速起動に関しては主席魔術師のヴェルファリアや次席魔術師を含めても、この王宮内で私の右に出る者はいない。

 その自信は、しかし、私の身体とともにやすやすと吹き飛ばされる。

 

「――かはっ⁉」


 突然、視界が回ったと思ったら、違う。

 回転しながら飛んでいるのは私の身体の方だった。

 

 ――なにが起こったのだっ⁉

 

 とっさに空中で体勢を立て直し正面を見れば、そこには私へ向けて手を掲げ、多重の術式を展開する少女、エリーデの姿がある。

 まさか……彼女がっ? 風魔術でっ⁉

 言葉に出して疑問を挟む余地もなかった。

 絶え間なく火属性、水属性、風属性、土属性の魔術がその時の状況に最適な形で私を襲いくる。

 

 ――まさか私以外に4属性すべての魔術適性を持つ人間がいるとは……ッ‼。

 

 ひとつひとつの攻撃をかわし、さばきながら私の肝が冷える。

 私と同格の魔術の才覚を私より3回りも年下の少女が持ち、そして使いこなしているなんて、そんなことがあっていいのか?

 そして、それだけじゃない。

 その少女はすべての魔術を私よりも速く、そして効果的に使用してくるのだ。

 私が水魔術を出そうとすればそれよりも速く起動できる風魔術でこちらの動きを封じ、火属性魔術を使用しようとすれば水属性魔術で対抗され優位性を取られる。

 

 ――なんていう合理性の塊。なんという戦闘センス。

 

 気持ちでも圧倒されつつあった私を最後にくじいたのは、王宮魔術研究所で働く私をもってしても見たことのない【輝きの魔術】だった。

 バリィッ! と耳をつんざくような音が響いたかと思うと、私の身体をその白光りする魔術が突き抜ける。

 

「――ッ⁉」

 

 …………。

 …………。

 ……気づけば私は、うつ伏せで倒れ込んでいた。

 意識が飛んでいたのだ。


 ――いや、本当にそれだけか?


 手足の先が異様に冷たい。

 だが、起きなくては。いまはまだ、試験の途中だったはず……。

 なぜか痺れたように感覚の鈍い身体に鞭を打って起き上がる。

 私のすぐ目の前に、その少女は薄い笑みを表情に浮かべて立っていた。

 いつでも次の攻撃ができますよ、とばかりにこちらに手を掲げて。

 ルビーのように紅いその瞳はゾッとするほど無感情だった。

 

 ――このまま戦えば、殺される。

 

 私の中の第六感が、確実に訪れる未来を私に告げた瞬間だった。

 

「まだ、力を示す必要はございますでしょうか?」

「……いや、ない」


 少女の言葉に対して、私の口からこぼれ出たのはそんな力ない返事だけ。

 

 ――こうして、エリーデ・ディルマーニの王宮席次魔術師への内々定が決まったわけだ。

 

 私が第三席次を拝命するときのような議論もなく、このまま内定が決まれば史上最年少記録を20歳も塗り替えることになる。

 ただしかし、貴族の当主以外の席次任命と女性の席次任命は前例がないということで内々定止まり。

 正式な王宮席次魔術師への内定はエリーデがディルマーニ家の家督を継承できた後、という条件付きになった。 

 

 ――できたら家督は継承せずに、このまま伯爵家に生まれた凄腕魔術師という立場で一生を終えてくれまいか。

 

 そう願わずにはいられない。

 エリーデという少女への私の印象は【化け物】。

 おそらくこの王国随一の魔術の才能と徹底した合理性を持ち合わせた手の付けられない【化け物】だ。

 彼女はきっと、私の願いとはうらはらに、近い将来に家督を継いで席次を拝命し、そして主席へと昇り詰めるだろう。

 そうしてこの王国内での権力までをも思うがままにしたエリーデはなにを望むのか。

 

 ――私はその答えを知るのが、なぜかひどく恐ろしいのだ。

 

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