システム化魔術を使いましょう
戸惑うグリムを尻目に、私は目の前の庭へと意識を集中させる。
百聞は一見に如かず。
グリムにも言って説明するよりも、実際になにができるのかを示した方が早いだろう。
私は魔本から得た【魔術固定化】の知識と前世の経験を融合させて、頭の中で【組み上げ】る作業へと移る。
――【Hello, Systematic Magic】
――魔力パスの確認、地表へと接続……完了。
――【庭】の座標を定義……完了。
――【鎌】、【箒】、【台車】のアクションを定義……完了
――メインロジックの構築中……。
――……………………。
――……………………。
――……………………メインロジックの構築完了。
――すべての定義・ロジックの【固定化】完了。
――【Success!】
「よし、完成したわ」
時間にしておよそ数分の工程だっだ。
物事を論理立てて組み合わせる作業は大得意とするところ。
実は前世では【プログラマー】として働いていた過去があったりしたからね。
「じゃあさっそく、【スタート】」
私がそう宣言すると、地面に置いてあった草刈り鎌と箒がフワフワとひとりでに浮き上がり、動き始める。
「えぇっ⁉ これは……っ⁉」
グリムが目を見張る。まるでそれが現実か夢かを疑うように、口を開きっぱなしにして目の前の光景に見入っていた。
「どうして勝手に草刈りが……っ! それも鎌も箒も台車も、ぜんぶが一度に動いて……?」
通常、無属性魔術は人が意識して操作するものだから、必然的に自分の思うように動かせる物体は2つが良いところだ。
にもかかわらず、目の前では空中に浮き上がった鎌が刈り、箒は刈られた草を掃いて台車の元へと運び、草は勝手に持ち上げられて台車に載せられて、台車が自動で焼却場へと向かい、そして草だけを置いて元の位置へと帰ってくる。しかも完全自動で、だ。
グリムが驚くのも無理はなかった。
――ぜんぶ【魔術固定化】の方法を知れたからこそね。本当にグリムが魔本を拾ってくれてよかったわ。
決して私が天才だから複数の魔術を同時に使えているわけではない。
1度使った魔術を固定化することで同じ動きをもう1度再現できる【魔術固定化】を複数の魔術に対して行い、さらにその固定化した魔術たちを順番に呼び出す魔術を作り上げることであたかも複数の魔術が同時に動いているように見えているのだ。
「これが私が作り出した【システム化魔術】よ」
「しすてむか、魔術……?」
意味が理解できないとばかりに、グリムが首を傾げた。
そっか、そういえばシステムって言葉はこの世界には無かったはず。
「そうねぇ、システムっていうのはつまり、ある目的を達成するために必要な物事と動きをまとめたもの、ってところかしら」
「は、はぁ……」
分かったような分からないような、そんな生返事がグリムから返ってくる。
むむ……いざ説明するとなると難しいわね。
私は生前こういったシステム構築の仕事もひと通り経験していたので馴染み深いものだけど、そういったものを作ったことはおろか、触れたことすらないグリムにとってはもしかすると理解しがたい概念なのかもしれない。
「まあ、自分のやりたいと思ったことを全部自動でやってくれる魔術だと思えばいいわ」
とりあえず雑にまとめにかかる。
「そ、それはものすごいことなのでは……っ?」
まるで万能みたいな言い方になってしまってグリムは驚くが、まあ実際ちゃんとシステム化できればなんでもできるわけだし、間違ってはいないよね?
さて、いちおうこれで【システム化魔術】のすごさは分かってもらえたかな。
――それじゃあ、もう1つの本題の方に話を持っていこうかしら。
「グリムはこの草刈りの仕事は確か週に1回やってるのよね?」
「え? はい。そうですけど……」
「これからもう少しこの魔術を調整して週1で草刈りを自動でやってくれるようにするから、もうこの仕事はしなくていいわよ」
「……え? えぇっ⁉」
「あと、他にグリムが持っている仕事ってなにがあるか教えてくれないかしら?」
そう訊くと、グリムは手持ちの仕事を教えてくれる。
だいたいはいつも一緒にいるから知っている仕事だったが、しかし改めて聞くと酷いものだった。
休みなく毎日なにかしらの仕事が入っている。
まったく、とんだブラック企業もあったものだ。
「じゃ、この仕事たちもぜんぶ自動化するから」
「えぇっ⁉」
グリムは目玉が飛び出そうなくらいにまん丸に目を見開く。
「そ、それはとても嬉しいです。シャル様、ありがとうございます……!」
「いいのいいの。私もグリムの存在に救われてたしね」
その純真さは私の唯一の心のオアシスと言ってもいい。
「?」首を傾げるグリム。
自覚なしか。うん、やっぱり可愛いわね、ヨシヨシしたい。
ただしかし、喜びの表情は束の間、グリムはなにかを考え込むように表情を暗くした。
「でも、シャル様。そうすると僕はやることがなくなってしまうのですが……」
「ああ、そんなこと」
まったく真面目だこと。
私だったら仕事しなくていいよと言われたら、素直に喜びの万歳三唱をして毎日ゴロゴロするに違いないのに。
まあ、それはいまは置いておいて。
「グリム。私と一緒に力をつけましょう?」
「へ……?」
「腕力、知力、そして魔術の力。そのすべてが、この世界で生きていくために必要なものよ」
唐突な私の言葉に、グリムは戸惑ったように目をぱちくりとさせている。
それも仕方ない。
でも、私のやることは1年前から決まっている。
――こんな生活の中に、私もグリムも居続けちゃいけないんだ。
そのために私はこの1年、無属性魔術の練習を重ね、本を読み漁って知識をつけて、筋トレもして、自己研鑽を続けてきたのだから。
私はグリムの手を取り、そしてまっすぐにその瞳を見つめ、
「グリム。あなたはこれから誰にも負けない力をその身につけて、そして私と共にこの家から出るの」
そう告げた。
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「2人は今後どうなるのっ……!」
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