8_ナベちゃん邸
「さあ 見よ梨花 ラスト キッチン王国じゃ」
キッチン王国西の山から眼下に広がっている城下町を眺める僕らに静かに風が吹き抜けた
僕たちは祖母の元家臣であるナベちゃんことプチコーン・K・ナベンナ3世という人を訪ねてこの街の城下にある宿屋、ナベちゃん邸をめざしている
祖母の話によるとこの人物には僕の父や母も大変お世話になっているらしく母は出発前に父が狩ったレベルの高い触鬼のドロップ品を僕に持たせた
山を下り街の入口に入ったが日暮れ近くだったせいか人気もまばらでこの世界では少しめずらしい格好をしていた僕と妹も目立たず移動することができた
「ああ確かここじゃったはずじゃ」
祖母が玄関にぶら下げてあるベルを鳴らすと少ししてはーいといいながらパタパタと音がして玄関の扉が開いた
そして・・・・・・ すぐに扉は閉まった
しばらくするとゆっくり扉が開いたかと思うといきなりムチが飛んできた
「ラスト 梨花 下がっておれ!」
祖母は僕たちを片手を使って突き飛ばしたあと戦闘態勢にはいった
「あなた 何者ですの なぜゆえに我が主ラミス様に擬態しているのでございますか?」
その長身の周りにヒュンヒュンと音を鳴らしながらハチの字にムチの軌跡が光っている
「おお ナベちゃん 久しぶりじゃのう元気にしておったか?」
「そんな・・・・・・ もう一度聞きますわ あなた 何者ですの 我が主ラミス様はもうこの世界にはいないのですよ もしや新手の魔獣ですの?」
「答えなさい!」
「答えるのです!」
ナベちゃんと呼ばれる眼鏡の女性はかなり動揺しているようでムチを何度も床に叩きつけ威嚇していいる
「いたいたしいわ 主を魔獣呼ばわりとはいいかげんにー セイッ」
祖母の右手からなにか黒色のボールのようなものが出たかと思うとそのボールはナベちゃんの顔の部分だけを残し体を覆ったのだった
そして黒色のボールはその形をいびつにかえながらグニグニと動いている
「うりゃうりゃ どうじゃ ナベちゃん 久しぶりの愛と快楽のめくるめくせっかんじゃ」
ナベちゃんの顔がみるみるうちに赤くなっていく
「こ この おしおきはラミスさ・・・ましかできないはず なぜ ああ ダメでございます これ以上は わ わかりました ああ もう はあ はあっ」
ドサッ
「ナベちゃん 孫がおるでの 今日はこのくらいにしておくのじゃ」
術を解かれ力なくその場にへたり込んだナベちゃんに祖母が近づく
「ほ 本当に ラミス様なのでございますか?」
「うむ 帰ってきたのじゃ ほら ラスト 梨花 こっちに来るのじゃ」
祖母に呼ばれた僕たちはおずおずと祖母に近づいた
「リストちゃん? らみ?」
「ん?」
「ああ そうか よく似ておるじゃろ ナベちゃん 妾の孫 ラミとアスモディウスの子 ラストと梨花じゃ」
「うわあああん ラミス様 ラミス様 本物ですの? ラミス様」
ナベちゃんはその風貌に似合わず突然大声で泣き始めてしまった
その後祖母はナベちゃんの頭を抱えると優しく撫で始めた
しばらくたって鳴き声も落ち着くとナベちゃんはスックと立ち上がり眼鏡を直しふたたび祖母にひざまずいた
「おかえりなさいませ わが主 ラミス様」
「うむ」
「ラミス様申し訳ございません すぐにお菓子を用意いたしますわ」
祖母をラミス本人だと確認したナベちゃんは僕たちを2階の部屋に案内した後もてなしの準備をすべく台所へと降りていった
しばらくしてお菓子を持ってきたナベちゃんは僕たちと同じテーブルを囲み祖母と話をしている
・・・・・・
「んまぁ そうでございましたの それでカンナを探す為にここに来たのでございますのね けれどラミス様、カンナは今ここにはいませんの ミカエルちゃんに会ったのであればお聞きになっているのかもしれませんが新しい魔王は魔獣化した触鬼を使い武力によってアガレス様の玉座をうばってしまいましたの。その後精細はわかりませんがアガレス様は行方不明、魔王城から逃げる際カンナは敵に顔を見られてしまった為 身を隠していますの」
そしてナベちゃんは小さな声で祖母に伝える
「ラミス様 カンナは今サキちゃんのところにいますわ」
「うむ」
「ラミス ラミス リストから伝言ミュー」
突然妹の肩口から飛び出したミューと呼ばれるぬいぐるみは目を光らせながら声を発した
「あら いやですわ ミューちゃん久しぶりですわ 一緒に来ていたのでございますね」
ナベちゃんは突然飛び出したミューを知っていたようだった