7_異世界の騒乱
ピラミッド型の簡易的な小屋の中に入った僕らは切り株の上に置かれた板のテーブルの周りにすわる
「よしっ」
神ミカエルちゃんはそう言うと祖母の顔をじっとながめながらはなし始めた
「しかし ラミスちゃん よく帰って来れたね 天界では本来開くはずのないドアがいきなり開いたってんでそりゃおおさわぎだったんだからぁ それでさ 一応どういうふうに帰ってきたのか聞きに来たってわけ この世界からラミスちゃんを永久追放したの私だしね」
「ああ そうだったのぅ 昔のことですっかり忘れておったわ リストの世界では普通に年をとっていたからの ・・・・・・ということは妾はこの世界にとってイレギュラーな存在であり神にとって邪魔な存在ということかのぅ」
ミカエルちゃんと祖母ラミスの間に一瞬冷ややかな時間が過ぎた
そして祖母の体からなにやら黒い靄のようなものが立ち登ろうかとしたときミカエルちゃんが焦って口を開く
「ラミスちゃん ちょっとまって 本来ならそうあるべきなんだろうけど今回このバックドアが開いてしまったのはこの世界の摂理が働いているように感じて仕方ないの 私はこの世界の摂理を守るだけ それが神の仕事なんだから」
「なぜじゃ ミカエルちゃん ここでどう考えても摂理を曲げようとしているのは妾のほうではないのかの」
祖母の疑問にミカエルちゃんは少し視線を落として話を続けた
「今 この世界では新しい魔王が数年前に誕生してるの 前魔王アガレスはこの魔王によって王城を追われ今は行方不明になってるみたい ラミスちゃんも知っての通りこの世界では魔王が変わることはよくある話なんだけどね けれどこの魔王はこの世界の摂理の根源に関わる重大な違反をしているようなの」
「摂理の根源の基幹を揺るがす程の大罪とはなんじゃ」
「・・・・・・触鬼の魔獣化」
ミカエルちゃんは力なく声を発した
「だからね」
「だから 天界ではあなたたち古の魔王が2人もこの世界に復活したのは世界の摂理に沿っているのではないかという話になったの」
「ほほう それでは妾は神の制限なしでこの世界を大手を振って歩いても良いということなのじゃな しかしそれが本当のことなら神の軍勢を持ってして現魔王をほろぼせばよいことではないのか?」
「ラミスちゃんはまた数千年にも及ぶ混沌の時代を繰り返せというの? 神が新しい魔王と迂闊に戦うことはできないの あと・・・・・・神が勇者に与える触鬼をあるべき姿に戻す加護 触洗を魔獣に試したのだけど効かなかったわ」
ミカエルちゃんは少し泣きそうな顔で祖母を見た
「今の所 この件は魔族同士の内部抗争って形で神たちはノータッチってことになってるのよ もし現時点でこちらから先に手を出せば確実に戦争になるでしょうね」
「ミカエルちゃん 一つ聞いていいかのぅ 触鬼が魔獣化するとなにが悪いのじゃ神は何を恐れておるのじゃ」
「ラミスちゃんは知っての通り触鬼はこの世界で死んだすべての命の業の浄化のためにいるの 死してなお業が残っていればそれを触鬼となって消化し新しい魂として転生するのがこの世界の理 けど魔獣化してしまった触鬼は業を残したままでさえ消滅してしまうのそしてその魂は永遠の間に落ち二度と転生できない これは摂理の重大な違反にあたるの」
「そうであろうな」
そして少し考えた後祖母は言った
「やっぱりこれは 神案件じゃの ミカエルちゃん 後はまかした」
(軽いぞばあちゃん)
「ああ ミカエルちゃん ぶぶ漬け食うていかはります?」
祖母は急に神にご飯を勧めている
(どこかで聞いたことがある これは遠回しにお引取りをお願いする日本語の高等技術だったはずだ)
「むー わかったわよ かえるわよ 帰ればいいんでしょ ラミスちゃんのいけずぅ」
そして神ミカエルはピラミッド型の小屋から出ると天空から階段を出現させた
そして階段の途中で振り向きざまにこういった
「ラミスちゃん 現魔王はきっともうあなた達の存在に気づいているはずよ くれぐれも刺客には気をつけて あっあー」
(ミカエルちゃんまた羽衣の裾ふんだー 今は刺客よりあんたの羽衣の裾だよ)
ゴロゴロとしたまで転げ落ちたミカエルちゃんは階段を消し逃げるように飛びさっていった
(あ そういえばミカエルちゃん僕たちがどうやってきたのかを聞きに来たんじゃなかったっけ?まぁいいか)
僕らは静かにミカエルちゃんを見送ったあと小屋に入り休むこととなった