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父さん

そして、リビング。


ゆいと陸はお互い向き合うように椅子に腰を掛け、食事をしている。


陸の横にいる母さんは椅子に腰を下ろしていて、笑みを浮かべながら陸達二人をじっと見つめている。


「さあ、ゆいちゃん、たくさんあるから遠慮せずに沢山食べてね」


ゆいは恐る恐る自分の目の前に盛り付けられ、サクサクの衣で覆われたオリーブオイルの香ばしい香りが漂い、食欲そそぐ茶色い色をしたエビフライを口に運ぶ。口に入った瞬間、サクッと言う音と共に、噛めば噛むほど、プリプリで新鮮なエビの甘味が口いっぱいに広がる。


ゆいはあまりの美味しさで、ほっぺたがリンゴのように真っ赤になり、思わず笑みを浮かべる。


「このエビフライすごい美味しいです」


「ゆい、やっと笑顔になってくれたな」


ゆいは何か気になる事でもあるようで辺りをキョロキョロと見渡し始める。


「そう言えば、お父さんはまだお仕事から帰ってきてないんですか?」


陸と母さんは突然顔色が雨雲のように薄暗くなり、黙り込む。すると、なぜだか分からないが、妙で嫌な空気が流れ始める。


しばらくすると、陸が重い口を開く。


「実は、父さんは、俺が小学4生の時に、家事に巻き込まれて死んだんだ。父さんはとても優しい人だった」


「そうなんですか。変な事聞いてすみません」


「まあ、そんなに謝らなくてもいいわよ。もう昔の話だから」


そして、その日の昼の一時過ぎ。


陸の部屋。


ベットで幸せそうな笑みを浮かべながら大の字になって、深い眠りに落ちている陸の隣。


眠りについているゆいは悪夢にうなされているようで、熱があると勘違いするぐらいのすごい量の冷や汗をかいている。ゆいの顔色がまるでリンゴのように真っ赤で、とても苦しそうな声を上げている。


ゆいの悪夢の中。


ゆいは真っ暗な空間にあるベッドの上で手足を拘束され、2万ボルトの強い電流を流されている。


ゆいはあまりの苦しさで聞き苦しい断末魔を上げている。


苦しむゆいの姿をまるで何かのショーヨを見ているかのように、悪意ある笑みを浮かべながら観察している白衣姿の7、8人の研究員達。


ゆいはあまりの恐怖と痛みで目を覚ますが、パニック状態で我を失ってしまっている。


「嫌だ! やめて・・・、痛い、痛いよ!」


陸は騒ぎに気づき、目を覚ます。


「どうした? ゆい」


陸は咄嗟に、怖がるゆいを優しくぎゅと抱きしめ、安心させようとする。


「ゆい、大丈夫だ、怖くない。お前はただ嫌な夢を見ていただけだ」


ゆいはやっと我に戻り、大きく息を吐く。


「陸君」


「真昼間だけど、何か暖かい物でも飲んで落ち着くか?」


そして、少し時間が経ち。


陸の部屋。


ゆいと陸はベッドに腰をかけている。


二人は、湯気と共にチョコレートのような香りが漂っていて、まるで泡立て器で何百回もかき混ぜたと勘違いするぐらい白い泡がよく立ったココアを飲みながら会話をしている。


「こんな遅くに起こして、すみません。嫌な夢を見ていました」


「まあ、悪夢なんて誰でも見るよ。俺だって、クラスの担任で、稲垣って言う血者のうざい先生がいるんだけど、こいつに無限に説教される夢をよく見るし。あと俺と年があんまり離れてないんだから別に敬語使わなくても良いよ」


ゆいは陸の話を聞いてるうちにだんだんと笑顔になっていく。


「陸君は本当に優しいんだね。好きになっちゃいそう」


それを聞いた陸はほっぺたがリンゴのように真っ赤になり、恥ずかしさと照れで言葉が片言になってしまう。


「でも、最初はゆいを警察に通報しようとしたし」


「でも、陸君が助けてくれなかったら、私は今頃研究所に戻されて、また、すごい酷い事いっぱいされてた」


「でも、俺が小4の時まではすごい悪ガキで、俺が悪さする度に父さんにめっちゃ怒られたんだ。万引きとかして」


ゆいはあまりの驚きで眠気が一気になくなり、目を見開き、声を張り上げる。


「え!? 陸君って、昔はそんなに悪い子だったの?」


陸は自分が小学4年生だった時の事を語り始める。


薄暗く、商品が入ったダンボールなどで散らかっているとあるスーパーの狭い部屋。


黄色いエプロン姿で、40代ぐらいの店長と思わしき人物と陸と30代後半ぐらいで、雰囲気が陸とよく似ている男性が椅子に腰をかけている。


なんとも落ち着かない気持ち悪い雰囲気が流れる中で、3人は会話をしている。


店長は手にしているスナック菓子を二人に見せつけている。


「いったいあたなはどんな教育してるんですか? まだ小学四年生なのに万引きをするなんて」


父さんは謝罪の気持ちを込め、深く頭を下げる。


「本当に、この度はうちの陸は申し訳ございませんでした。帰宅したらきつく指導しますので。陸も店長さんにちゃんと謝りなさい」


そう言われても、陸は申し訳なさそうな暗い表情を浮かべているが何も口にしない。


「陸、黙ってないで早く謝れ!」


「まあ、まだ小学4年生なので、今回の事を本人が深く反省するなら、今回だけは特別に、警察には通報しないでおきます」


そして、その日の朝の8時前。


自宅のリビング。


父さんと母さんはテーブルの前にある椅子に腰をかけている。


二人はまるで実の我が子が重大な罪を犯してしまったかのような暗い雰囲気が流れる中で、会話をしている。


「まさかうちの陸が万引きをするなんて、信じられないわ。前々から悪さばかりしてたけど。あと朝ご飯の時間になっても、陸は自分の部屋でずっと閉じこもっているの」


父さんは突然、まるで愛くるしい子猫を見ているかのような笑みを浮かべ始める。


「きっとあの悪ガキも言葉に出さないだけで、心の底では、万引きした事を深く後悔してるんだ。俺、陸の部屋に行って、ちょっと陸の様子見てくる」


そして、2階の陸の部屋の前。


父さんはドアを軽く2回ノックする。


「お前腹減っただろ? そろそろ朝飯食べないか?」


そう父さんが言っても、当然の事のように返事が何一つも返ってこない。


「確かに、お前が今日やった事は悪いだ。でも、だからと言って、いつまでも部屋に閉じこもるな。言いたい事があるならちゃんと口で言え。おい、聞いてるのか?」


父さんは陸の許可を取らず、デカイ音を立て、強引にドアを開ける。


そこで、父さんが目にした光景は、ベッドで横になって、ゲラゲラ笑い声を上げながら呑気にゲーム楽しむ陸の姿。


父さんは完全に頭に血が上り、顔色がまるで唐辛子のように真っ赤になってしまう。すると、父さんはゆっくりと陸に近づき、陸の耳元で目一杯声を張り上げる。


「陸! 俺が折角お前みたいな悪ガキを心配して、見に来てやってるのに、反省もせずに呑気にゲームとは何を考えているんだ?」


陸はまったく聞く耳を持たず、ゲームを続ける。


「やったー、5面クリア。次はボーナスステージだ」


「陸、聞いてるのか? とにかくゲームやめろ!」


「うるさいな。もう終わった事だから別にいいじゃん。今ゲーム良いところだから邪魔しないで。やったー、10万ポイントゲット」


陸のまったく反省してないような言動に対して、父さんの怒りがますます加速する。


「いい加減にしろ! このクソガキ!」


その次の瞬間、父さんの片手がまるでオーロラのような虹色の輝きを放ち、そのまま陸が手にしているゲーム機に触れる。すると、陸のゲーム機が見る見る間に、塵になって消えていく。


しばらくすると、リビングの机の上に、ゲーム機が一瞬虹色にピカッと光り、現れる。


陸は突然ゲーム機が手元から消えた事に驚きを隠せず、ショックで頭の中が真っ白になってしまう。


「俺のニセテンドESだ! ゲームいい所だったのに。どこに移動されたの? 教えてよ」


父さんは、ショックを受けている陸の姿がたまらなく好きなようで笑いが止まらない。


「お前みたいな悪ガキには、ゲームなんて勿体ない。本当にちゃんと反省するまでゲームは没収だ。あと俺は血者だ。半径一キロ以内で、ある程度の物なら触れただけで自由自在に好きな移動させれる。ただし、自分自身を移動させるのは無理だけどな。俺はこの能力を「ワープハンド」と名づけている」


「そんな説明はいいから、早くES返してよ」


「ダメだ。早く返して欲しかったら、ちゃんと反省しろ」


そして、次の日の深夜一時前。


学校の4年1組では、休み時間のようで、児童達の賑やかな笑い声が聞こえてくる。


陸と幼いカイトは、暗闇の空に浮かぶ、電球のように黄色い光を放っている満月がはっきりと見える所で、今日もいつものようにくだらない会話をしている。


「なあ、カイト聞いてくれよ。一昨日の夜に、あのちょっとした事ですぐにキレる大島のクソジジイの家の窓ガラスを、俺の鎖で割ってやったんだ。カイトも学校終わったら、一緒にガラス割りに行かないか? 楽しいぞ」


カイトは陸のくだらない話を聞いているうちにだんだんと眉毛が下に下がり、一度大きくため息を吐く。


「お前は相変わらず悪さばかりしてるのか。俺も少し前までは、お前みたいにガラスを割ったり、色んな事していたけど、もうやめたんだ。悪さなんてしてもただ自分が怒られるだけながらな」


「なんだよ。面白くないな」


陸達の近くで、とある女子が自分の手元にある本を、ニコニコ笑みを浮かべながら、目線の先にいる女子2人に見せつけている。


「ねぇねぇ、愛ちゃん、みほちゃん、見てよ。こないだの国語のテストで100点取ったから、お母さんに(弱者のフットボール)を買ってもらったの」


みほと愛はその本をまるで宝石のようにキラキラさせた目でじっと見つめ、なんだか自分まで嬉しくなり、思わず笑みを溢す。


「千佳ちゃん良いな。(弱者のフットボール)面白いもんね。特にヒロインのリリカちゃん可愛いよね」


「確かにりりかちゃん可愛いけど、主人公の流斗(りゅうと)君もかっこいいよね」


そこに、陸が表情を何一つも変えずに、無表情で現れる。


「お前、(弱者のフットボール)の最新刊を買ってもらったのか。俺はまだ最新刊を持ってないんだ。怪我をしたくなかったら、さっさと(弱者のフットボール)をよこせ」


千佳はよっぽどその本が大切なようで強く抱きしめる。しかし、血者である陸に恐れているようで、体がガタガタと震え、ぎこちない片言の発音になってしまう。


「この本は私が頑張って、国語のテストで100点取って、買ってもらった本だもん。それにまだ全然読んでないもん」


「そうだよ、千佳ちゃんの言う通りよ。どうしても欲しいなら自分でなんとかしないよ」


陸には、千佳達の声がまったく響いてないようで、両手の手のひらから瞬間的にサファイアのように青く輝いている鎖を出す。


「そんなもん知るか。さっさとよこせ」


「だから言ってるじゃん。私が頑張・・・」


陸は完全に頭に血が上り、我慢出来なくなってしまう。


陸は怒りに任せ、鎖をまるでムチでも扱うかのように振り回し、千佳の腹を勢いよくめいいっぱい叩く。そして、陸が声を張り上げる。


「俺を怒らした罰だ! 俺の鎖を食らえ!」


そのあまりの衝撃で、千佳は椅子や机などをなぎ飛ばしながら何メートルも吹き飛ばされる。


「千佳ちゃん!」


教室に流れていた優雅で楽しい雰囲気が一気に皆無になってしまった。


児童達は突然の出来事で驚きを隠せずにざわつき始める。


陸は、そんな児童達をよそに、何の罪悪感もないようで呑気に千佳が落とした本を拾い、悪意ある笑みを浮かべる。


「だから言っただろ。怪我しないうちにさっさとよこせって」


千佳はそのまま倒れ、腹を押さえながら生々しい血を吐き散らし、あまりの激痛に耐えきれず、泣き叫ぶ。


「うあー、痛い、痛いよ!」


児童達は一斉に千佳のそばに駆け寄り、まるで自分の大切な家族のように必死に声をかける。


「千佳ちゃん大丈夫?」


「ヤバイよ! 千佳ちゃんのあばらの骨折れてるよ!」


「痛いよ」


「僕、職員室に行って、先生呼んでくる」


カイトは無の表情を浮かべ、まるで虎のような鋭い眼光で、陸に強い憎しみを込めて睨み付ける。


「お前の事は前々から悪さばかりする奴って思っていたけど、それでもお前と仲良くしていた。でも、今日で友達の縁を切る。女子に暴力振って、ケガさせるなんて、本当に最低だ。見損なったよ」


陸はやっと自分が犯してしまった事の重大さに気づき、顔色が一気に真っ青になり、頭の中が罪悪感でいっぱいになってしまう。


「違う、怪我をさせるつもりなんてなかった。俺はただ(弱者のフットボール)が欲しかっただけなんだ」


陸は怖くなり、本を投げ捨てると、急いで教室から立ち去る。


そして、時間が経ち。


深夜の3時半過ぎ。


病院の館内アナウンスが僅かに聞こえてくるぐらいで、入院中の患者や白衣姿の医者がまたに通りすぎるぐらいの静まった廊下。


陸の両親達と30代前半ぐらいの千佳の両親達は、不穏な雰囲気が流れる中で、会話をしている。


「この度はうちの陸が、お宅のお子さんに怪我を負わせてしまい、本当に申し訳ございませんでした」


陸の両親達は謝罪の気持ちを込め、深く頭を下げる。


「どんなに謝られても困ります。千佳はお宅のお子さんのせいで、あばらの骨が折れて大怪我したんですよ。この責任はどう償ってくれるんですか? それに、千佳にこれだけの怪我を負わせといて、なぜ本人が来てないんですか?」









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