二、雨が嫌いな尾多さん
僕は否定が怖い。否定することで、相手が遠ざかってしまうことを恐れているからだ。気にしすぎと思われるかもしれないが、そういう性格なのだから仕方がない。一人称が「僕」なのと同じだ。生まれ育ち学ぶなかで、僕は自然とそういう人間になったのだ。
実際僕は、本音を言う事で人と…好きだった人と疎遠になってしまったことがある。しかも二度、更に言うとそれは両方女性だった。だから人…特に嫌われたくない女の子には否定的な言葉を避けている。しかしそれは労力を伴うので、気が消耗する。雨音はそれを、微量かき消してくれるものだった。どれだけ気疲れしていても、BGMとしてその場を緩和してくれるのだ。だから僕は雨が好きだ。
今、共に雨宿りをしている彼女…尾多さんにも嫌われたくない。別に深い仲ではないし、同じクラスなのに話さない日もあるぐらいだが…それでも嫌われたくないと思う。何故かって、それはわからない。別に全員と仲良くなりたい訳では無い。性善説論者では無いので、誰にでも好かれるなんて無理だし、無意味だと僕は心得ている。だから浅い関係の彼女に嫌われるのは、そこまで苦ではないはずなのだが…。
「あ…。」
尾多さんはそう呟くと、一秒前まで地面に向けていた彼女の視線を、透き通った白い空…青よりもずっと潔白な、曇り空に向けた。向けた後すぐに、今度はこちらに視線をやったので、目が合った…合っただけだった、のだが。
"時"が止まった。
実際、客観的に見れば十秒ほどの沈黙だったのだろう。しかし、その時間を測るのに適切な道具は時計ではないし、それを表すのに適当な単位は"秒"ではなかった。
「ど…どうかしたの?」
「あっ、いや…。雨が止んだなって。」
取り繕うようなその会話で、僕は雨が止んだことを初めて識った。識って、そして気が付いた。僕はこの空間で、雨音なんかには一寸も意識を向けていなかったことに。
もしかしたら続くかも