邂逅•田山家と竜胆家④
お久しぶりです。 書いてたら楽しくなってきて長めになってしまいました(ちょっと反省)
ーーなんというかもっとこう、堅苦しくて重々しい雰囲気の下で話し合いが行われると思ってたのに、良い意味で裏切られたよなあ••••••
竜胆家の皆さんのどこか田山家を思わせるやりとりを見ながら、俺がそんなふうに思い始めた時、 応接間の端っこのほう(実際あまりにも広いので端っこという表現は正しい気がする)から、 聴き慣れた声が飛んできた。
「••••••あの〜、ご歓談のとこ申し訳ないんですが、一個だけ! よろしいですかね?」
「親父? 母さんと二人で無意味にニヤニヤすんのはやめたのか」
「言い方よ」
「こちらは全く問題ありませんよ。 というかお二人とも、何故そんな端のほうに••••••?」
「いや、今日は完全に付き添いですし、この雰囲気に慣れるのには時間がかかりそうだったもので••••••な?」
「う、うん。 ちょっと場違い感といいますか」
いつもよりだいぶ緊張ぎみ&控えめな二人。 うーむ••••••
「莉亜さん莉亜さん」
「どうしました?」
「俺、今ちょっと思ったんですけど」
「何がですか?」
「俺ももうちょっと緊張したほうがよかったですかね??」
「••••••緊張って意図的にするものでしたっけ」
「いや、よく考えたら俺のこの態度ヤバイんじゃないかなって」
ちらっと見てみると、親父と母さんは2人してうなずきまくっていた。
どうやら大人目線から見てもアウトらしい••••••
が、肝心の二人は可笑しそうに笑っていた。
「はははっ! ずいぶん今更じゃないか柚斗くん。 なあ、香奈?」
「ええ。 何度も言うことだけれど、私たちは貴方たちに感謝してもしきれない立場にいるの。
私達がどれほどの財を持っていようが人を動かせようが、そこは変わらない。そうでしょう?」
その言葉を受けて、今度は俺の隣の莉亜さんが思いきり頷いていた。
「香奈の言うとおりです。 ご両親も、遠慮は無用ですよ?」
「••••••んじゃ、お言葉に甘えます」
二人の言葉を終始呆気に取られながら聞いていた親父は、 幸輝さんと香奈さんの正面に位置どり、 ゆっくりと質問を口にした。
◇
「ふむ。 なぜ莉亜と田山家の皆様との関係を把握していたか、ですか」
「正確には柚斗との、ですけども。 そちらから初めてお電話頂いた日にはそりゃあ驚いたもんです」
俺と莉亜さんも、同意を込めて頷いた。
やっぱりここは聞かなきゃいけないよな?
さて、どんな答えが飛びだすやら••••••
「一言で言うと、人海戦術の成果、でしょうか」
『はい???』
俺•親父•莉亜さんの三人の声が重なった。
いや人海戦術て。 どう考えてもこのタイミングで出てくる言葉じゃなくないか••••••?
「こちらとしてはね、すぐ帰ってくると思っていたんですよ。 あの時『無駄使い』の反省を促すため外に送り出しましたが、 1日2日で帰ってくるだろうと」
「な、なるほど••••••?」
まだうまく話が飲み込めない様子の親父。 そしてそれは俺も、ちょっとムッとした表情で耳を傾ける莉亜さんも同じだった。
「ところが1週間、2週間たっても音沙汰なかったもので。
そこで初めて、どこかに転がり込んで誰かの世話にでもなっているんじゃなかろうかと思ったわけです」
「なるほど。 そこまでは筋が通ってる様に思います」
ここまでは親父も納得したらしい。 実際正解だし。
「ただ、そうなったらそうなったで、マズいと思いましてね? どこの馬の骨とも知れない輩と一つ屋根の下など言語道断だと」
「いや、追い出したのはそっちなのにそこ心配しますかー!」
途端に横から莉亜さんの声が飛んだ。 これは••••••
「あの、莉亜さん••••••?」
「なんですか!」
「実は怒ってます••••••?」
「怒ってないですー! 勝手だとかぜんぜん思ってないですー!」
なるほど、怒ってるし思ってるな••••••
そんな莉亜さんの様子を見つつ、幸輝さんは苦笑混じりに言う。
「追い出したとはいえ、たった1人の娘だ。 まさかどうでもいいとは思えないよ。 莉亜にもそのくらいは許してほしいところだね?」
「むぅ•••••• 父様はいっつもそうやって言う••••••」
「まあまあ莉亜さん、まだ話続いてますから。 とりあえずひと通り聞いときましょう。 ね?」
「•••••• 続きをどうぞ」
数秒の沈黙のあと、莉亜さんは絞り出すような声で言った。
うん。 たぶん納得はしてないけど、ここで言い合いになるのは避けられたらしい。 そのへん莉亜さんも大人だ(実際立派な大人だけど)。
一連のやりとりを見た幸輝さんは一瞬驚くような表情を見せたが、 すぐまた続きを話し始めた。
「それでですね? 誰かの世話になっている状態であれば、探しだそう、と思いまして」
『はい??』
俺と親父の声が重なった。
「••••••? ですから、莉亜がどこで、誰と暮らしているのかくらいははっきりさせたいと••••••」
「そ、それで••••••?」
問い返す親父。 その顔には『この人ちょっと怖い•••••••」と書いてある気がする。 というかきっと俺の顔にも書いてある。
「ええ。 探偵その他、何人くらいですかね•••••• まあ50には満たないでしょう。 そのくらい雇って探させたんです。
いや〜 茨城県とは多少予想外でしたが、 無事莉亜とあなた方が見つかって良かった•••••• あれ、皆様? どうされました?」
うん、やっぱお金持ち怖いな!!!!!
ーーその後、 幸輝さんの発言を機に堪忍袋の尾が切れかけた莉亜さんをなんとかなだめたり、 今後についてこれまた長いこと話し込むかと思いきや、 双方『そちらにならうちの子を任せられる』とあまりにもあっさり結論が出てしまったり(本題だったはずなんだけどな••••••?)しつつも、 田山家と竜胆家の顔合わせは平和に(?)終了した。
結局のところ、今回の顔合わせで俺と莉亜さんとの関係に変化は生じなかったわけだ。
母さんに「これからは両親公認の仲ってことじゃん!」とか言われたときはひっぱたいてやろうかと思ったが、返り討ちにされて死にかけるだけなのでやめておいた。
あ、でも変わったところがないわけじゃない。
具体的には、俺の通帳の残高が3億4万2百円になったり、メイドさんがついてきたりとか、な。
ここまで読んでくださった貴方に最大の感謝を。
ラスト数行で「は?」となった方もたくさんいることでしょうが、これにて『田山家と竜胆家』偏は終了となります。
『3億? なんのこっちゃ••••••』となったかたは、ぜひプロローグを読み返してみてくださいね。
次回は顔合わせ直後の場面から。 お楽しみに。




