邂逅•田山家と莉亜さん②
お久しぶりです。 体調ある程度回復しました。
久しぶりの更新は大ボリューム。 いつもの倍くらいの文字数でお届けします。
「っていうか2人はずっと名字で呼び合ってるのか? 初々しいなあ」
「新婚さんみたいだ••••••!!」
「し、新婚••••••!!?」
「それ今言うことか!? 莉亜さんも間に受けなくていいっすからほんとに••••••」
ーーさっきから、というか最初からもうずっとこの調子だ。
実家に到着して2時間ほど経って、 今の時刻は午後3時といったところだけど、 未だに取り止めのない話題で会話が盛り上がりまくってて本題のほの字もない。
つくづくウチの親たちのマシンガントークは恐ろしい。
楽しいのは間違いないんだけどな? ほっとくと一日中喋り倒すからなこの2人は••••••
そう。 誰かが本題へ向けて軌道修正しなきゃならないわけだ。そしてそれができるのは俺しかいないッ••••••!!
少しトーンを落とした声で、目の前の2人に話を振ってみる。
「あのなあ、2人とも?」
「んー?」
「どした息子よ」
「••••••親父って俺のこと呼ぶ時ほぼ『息子』だよな」
「この流れで言うことか? それ」
「そ、そだな。 危なかったわ••••••」
俺が脱線させてどうすんだよ••••••
俺にも、 雑談大好き田山家の血はバッチリ流れてることを再確認することになってしまった。
「で、今度はなんの話?」
どこか好奇心をのぞかせた顔で母さんが言う。
「これ以上エピソード掘り起こそうとするのやめてもらってだな? そろそろ本題入っても良くないかと思ってさ」
「やっぱりその話はしないとですよね••••••」
隣に座っている莉亜さんは小さくため息をつきつつそう言った。
その様子を見て、親父と母さんの態度も変化する。
「こりゃ真面目なやつだな? なら真面目に聞くとするか。なあ菜月よ」
「そうしよっか。 言ってみ柚斗」
「••••••相変わらずオンオフの切り替え速度がヤバいな2人とも」
「大人だからな」
「柚斗もこういう大人になりなよ〜?」
隣の莉亜さんがちょっとビビってるけど、これは慣れて欲しいとこだ。
「で、本題ってのはだな。 明日に向けての話だよ」
俺がそう切り出すと、親父がすかさず言葉を返した。
「明日ってのはアレか? 竜胆さんの家との顔合わせの件だな?」
「そう。 ぶっちゃけ今日はそのために集まったようなもんだろ?」
「まーそうだね。 顔も名前も知らないままってのは流石にマズいかなって。 でも会ってみたらいい子で安心したよホント〜! ね、 莉亜ちゃん」
「えへへへ•••••• ありがとうございますっ」
控えめに照れて見せる莉亜さん。
だけど顔はめちゃくちゃ嬉しそうなんだよな〜?
「でだ。 今日来た甲斐もあって2人と莉亜さんも打ち解けた上で顔合わせに向かえるのは良かったんだけど••••••
ぶっちゃけ、まだ話してないことがあってだな」
「ほうほう」
「なるほど?」
そこまで言ったところで、一度莉亜さんの方に視線を移す。
ここを隠したままではいられないだろうって事で、2人とも納得した上で話すことに決めた。
それをもう一度確認する。
視線の先の莉亜さんは、こっちを向いて小さく頷いてくれた。
よし。
「まあ、ざっくりまとめて話すと••••••」
そこから俺は、要点だけを短く伝えた。
莉亜さんは家を追い出されて俺の所に転がり込む形で一緒に暮らすことになったこと。
そんなわけで、 そもそも莉亜さんの親御さんが田山家のことを知っていること自体不自然なこと。
一番大事なのはこの二つだ。
俺が一通り話し終わると、 まず口を開いたのは母さんだった。
「••••••ねえ柚斗、それってさ、 今回の結果によっては結構今後に関わってこない?」
「さすが真面目モードの母さん。 そこに気づいてくれればオールオッケーよ」
「ん? どういうことだ?」
一方で、まだ今ひとつ理解しきれていない様子の親父。
「浩司だって父親だろー? 親の立場で考えてみなよ。
一度は家追い出すことにまでなった1人娘が、『いつの間にか』知らない男と一緒に暮らしてたって状況をさ」
「母さんよ、その言い方だと俺、超ろくでもないやつじゃない?」
「ほぼ間違いないんだからしょうがないでしょ? ろくでなし男」
「ろくでなし男はやめてもらっていい!?」
そんなふうに言い合っていると、 ようやく思考がまとまったらしい親父の声。
「••••••なるほど。 ほぼ全部あちらさんの態度次第、ってことだな?」
「そういうこと」
「はあ•••••• 気が重いです••••••」
莉亜さんが大きめのため息をついた。
そう。 結局全ては竜胆家の皆さんが決めることなのだ。
ここにいるウチの両親と莉亜さんとはすでにお互いだいぶ打ち解けたみたいだし、 『今後ともよろしく』という流れになっても問題ないと思う。
ただ、莉亜さんのご両親が『この度はご迷惑おかけしました』と、莉亜さんともども即実家に帰ってそれっきり、 という展開も十分あり得る。
というかそっちの可能性の方が高い気がするんだよな••••••
「まあ、ぶっちゃけ父親としては、俺もそっち寄りで考えると思うぞ? 何しろ親交も何もあったもんじゃないからな」
「珍しく参考になる意見じゃん親父」
「常にだ常に。 ただまあ、そのへんは莉亜ちゃんの意思も大事だとも思う」
親父はちら、と莉亜さんのほうに視線を向ける。
「私は•••••• 帰るのはいいですけど、 うちにいる時より柚斗さんといる時のほうが楽しかったです」
莉亜さんがはっきりそう告げた。
「••••••そんなストレートに言われるとは思ってなかったっす」
「いや〜、ちょっとびっくり!」
「な。 2人とも思った以上に仲良くやれてるみたいで何よりだ」
三者三様のリアクション。 しかし全員が一様に驚いていた。 もちろん俺も。
「••••••まあ、まとめるとだな?」
「親父がまとめんのか。 めっちゃ不安」
「柚斗はちょっとくらい親父を信頼してくれてもいいと思うぞ!?」
『いつも通り』のやり取りを経て再び親父の声。
莉亜さんも改めて親父の方を見た。
「明日に関しちゃ、まあ臨機応変に行くしかないだろうよ。
で、 莉亜ちゃんはさっき自分で言ってくれた言葉を頭に入れて動いてくれればいいと思うぞ?」
莉亜さんは力強く頷く。
「は、はい! そうさせていただきます••••••!」
ーー そんなこんなで、とりあえず田山家での顔合わせは上手くいった•••••• と思いたい!
◇
「じゃ、今日はまあとりあえずそんなとこか。 2人とも、今日は一旦帰るんだろ?」
「流石に泊まったりする準備もないし、そうなるな」
「さよか。 んじゃまあ、明日は莉亜ちゃんもウチの車に乗って向かうことになるから、その辺よろしく頼むな」
「了解しました!」
「おお、いい返事。 それとな? 莉亜ちゃん」
「何でしょう?」
「一回くらい、お義父さんって呼んでもいいんだぞ?」
「いきなり何言ってんだアホ親父ィ!!」
しかし、俺の全力ツッコミには目もくれず、莉亜さんは ぱあっと目を輝かせている。
「お義父様••••••!」
「いや呼んじゃうの!?」
しかもなんでそんな嬉しそうなの!?
「あ、浩司ばっかりずるいじゃん!」
「母さんまで悪ノリすんなって!」
明日はこの4人で莉亜さんの実家に行かにゃならんのか••••••
だめだ、いろんな意味で不安すぎる••••••!
ここまで読んでくださったあなたに最大の感謝を。
次回より竜胆家顔合わせ編。 いよいよ完結も近づいています。
しばらくは体調と相談しながらになるので遅めの更新ペースになるかもですが、最後まで楽しんでいただければ幸いです。




