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邂逅•田山家と莉亜さん①

「親父も母さんも、迎えにくるぐらいしてもいいだろーに」



「まあまあ柚斗さん、無事辿り着けたし良しとしましょう?」


「いやまあ、莉亜さんが納得してるならいいんすけど」


莉亜さんに言われてしまったらそこまでだ。納得するしかない。


とにかく、着いた。



バスで三十分程度の移動を経て辿り着いた、 目の前の真っ白な外観の二階建て住宅は間違いなく俺の実家である。 


莉亜さんはといえば、さっきからずっと何やら神妙な面持ちだ。


「ここが柚斗さんのご実家ですか••••••!!」


「そんなに緊張するような場所じゃないっすよ••••••?」


「柚斗さんにはそうでも私はドキドキなんです!」


「そういうもんですかね」


「ええ! 失礼のないようにしないとですから••••••!」


「そんな気負わなくてもいいっすよホントに。 それ言ったらウチの家族なんて常に失礼かましてますから。特に親父」


「柚斗さんてお父さんに容赦無いですよね!?」


「いいんすよそんな感じで。 んじゃポチッと」



と、自然な流れでインターホンのボタンを押す。


“ピーンポーン”



「ちょ、ちょっと柚斗さん! まだ心の準備が••••••!!」


「莉亜さん、ウチをお化け屋敷かなんかと勘違いしてません?」


「こっちはお化け屋敷の100倍ドキドキしてるんです!」


「そんなに!!?」




そんなふうに騒がしく言い合っていると、 不意にドアの開く音。


そして、懐かしい姿が見えた。



「はいは〜い。 お! 柚斗久しぶり〜!! 背ぇ伸びたかー?」


「あいにく2ミリしか伸びてねーよ。 母さんも変わりないみたいで何より」


『えっ』



そこで唐突に聞こえた声に、俺と母さん、2人の意識がそちらへ向いた。


そうだ、それが本題だったわ。

莉亜さんのこと話さねば••••••!


俺がどう切り出したものかと迷っていると、 母さんのほうが先に口を開いた。


「あ、もしかしてあなたが話に聞いてた••••••?」



「あ•••••• は、はい。 竜胆莉亜と申します! 柚斗さんにはいつもお世話になっております••••••!」


戸惑いながらもそう言う理亜さんを見て、 母さんは明るく笑う。


「これはこれはご丁寧に。 柚斗の母の 菜月(なつき)と言います。こちらこそ、息子が世話になってるみたいで」


「い、いえいえそんなとんでもないです••••••!!」


「ふふっ どんな子かと思ってたけど、ちょっと安心したな。 とりあえず立ち話もなんだから2人とも中へ。ね?」


そう言って、先んじて家の中へ入っていく母さんと、取り残され気味の俺たち2人。


母さんから若干離れたところで、莉亜さんが俺にそっと声をかけた。


「あの、 柚斗さん••••••?」


「ん? 何すか?」



「あのかた、お姉さんじゃないんですか••••••!?」


「••••••よく言われるっすよ」


そのタイミングでこっちに振り向いた母さんは、物凄く楽しそうに笑っていた。


いや、思いっきり聞こえちゃってるよ!!


莉亜さん完全に気に入られたなあ、これ••••••



「いや、ホントに私と同い年くらいかなって••••••」


「あははは! 私が莉亜ちゃんくらいの歳の頃は、もう柚斗生まれてるよー?」


「ホントですか!?」




「なあ、親父よ」


「どうした息子よ」


「仲良くなんの早すぎじゃない? この2人」


「••••••嫁取られて悲しいわ」


「やかましい」


入ってすぐリビングにて、親父も交えてなんともなしに会話が始まり、 いつの間にか打ち解けるというなんとも我が家らしい光景。


真っ白いテーブルと四つの椅子を用意し、それぞれ俺と莉亜さん、親父と母さんが隣同士という配置だ。


それにしてもほんとどうなってんだ、 ウチの親たちのコミュ力の高さは••••••


特に母さんは『慎ましさ』みたいなものとは完全に無縁の男勝りな性格も相まって、一度会話が始まると双方止まらなくなる。 身をもって何度も経験済みだ。



「慎ましさぐらい持ってるっての」


「いやモノローグに入ってこないでくれる!?」


何ナチュラルに心読んでんだよ! こわっ!



「それにしても柚斗はほんとにさあ、 数ヶ月ぶりにあった母親に対しての挨拶が『変わらないみたいで何より』だよ?

もうちょっと愛のある挨拶とかさあ••••••」


「そういうのは親父に言ってもらいな」


「そうだそうだ。 愛してるぞ菜月」


「浩司のはもう飽きた」


「飽きられたんだが!?」


そりゃどうせ毎日のように言ってんだろうからな••••••



「柚斗さん、 私にはしょっちゅう可愛いとか言ってからかうのに〜」


「ぶふっ!?」


そこで、あまりにいきなりの発言に口に含んだ水を吹きかけた。


「ちょ、 莉亜さん、いきなり何言い出すんすか!」


「え、 何その反応。 ホントにそんなやりとりしてるの!? 柚斗が!?」



ほら、こういう話題にはす〜ぐ食いついてくるんだようちの母さんは••••••!


仕方ない。ここは黙秘を貫く。


「••••••••••••」


「ここでの沈黙はほぼ肯定だけど〜? 」


「••••••否定も肯定もせん」


「だからそれはもう肯定だって」


「う••••••」


「諦めろ柚斗。 こういう時の菜月には勝てん」


「うぬぬぬ••••••」



「••••••ふっ あはははっ••••••!」


唇を噛んで悔しがる俺の隣で、 小さく笑い声をもらす莉亜さん。


「••••••どうかしたっすか?」


「いえ、なんというかこういう雰囲気は久しぶりだったので、つい•••••!」


「ごめんね〜莉亜ちゃん、 騒がしい家庭で」


「いえ、私は全然楽しんでますので!」


それを聞いた母さんの頬が、ふっと緩んだ。


「••••••そう。 田山家(ウチ)のことも柚斗のことも、気に入ってもらえたなら何よりだよ。 今後とも、何卒よろしくね?」


母さんの隣で、親父はうんうん、と頷いている。


「こちらこそ、よろしくお願い致します••••••!!」



ーーとりあえず、話はうまいことまとまったみたいだ。

まだ聞きたいことは山ほどあるわけだが。


話してるうちにヒートアップして、何が本題かを見失いがち。


それもまた、ウチの家族の特徴であるらしかった。






























ここまで読んでくださった貴方に最大の感謝を。

ということで、田山家の面々がひたすらしゃべり倒す回でした。 名前で呼び合う夫婦っていいと思うんですよね。


まだほとんど本題入ってないので、田山家顔合わせ編もう一話続きます。

ほんとよく喋る家族ですね(書いた本人)


執筆中BGM インフェルノ

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