家より楽しい場所はあるけど、家より落ち着く場所はない
オフボーカルの音楽聴きながら執筆するのにハマりました。
最高にはかどる。
「柚斗さん、お茶が入りましたよ〜」
使い古された銀色の鉄製ポットで、同じ柄の2人分のコップに湯を注いで、莉亜さんが言う。
「あ〜、ホントありがたいっす」
そして2人して目の前のコップに入った緑茶を飲み、ふう、と一つ息をついた。
「帰ってきたっすねえ••••••」
「帰ってきましたねえ••••••」
草津から4時間弱の帰路を経ての、実に3日ぶりの我が家。
いや〜やっぱり落ち着くわ••••••
「って、今は落ち着いてる場合じゃないんすよ!」
ハッと意識を覚醒させて俺がそう言うと、 もう温泉地でもないのにぬるま湯に浸かったような表情で莉亜さんが言葉を返す。
「え〜、いいじゃないですか〜•••••• もうちょっとだけ余韻を楽しみましょうよ••••••」
だ、ダメだこりゃ。 莉亜さん完全にフヌケちゃってるよ!
たしかに、一つ大きなイベントが終わると数日間何もしたくなくなる現象はめっちゃ分かるけど、今はマズい!
「俺も余韻楽しみたいのはやまやまなんすけど、今後のこととか考えとかないとっすよ••••••」
親父からの電話によると、竜胆グループの代表•つまり莉亜さんのお父さんは、 竜胆邸にて俺を含めた田山家全員との顔合わせを希望しているらしい。
そして、親父がそれに都合の良い日付として挙げたのが1週間後なわけだ。
「••••••っていうとこまでは帰りの道中で説明したっすよね?」
「柚斗さんの説明はバッチリ理解しましたけど、 どうしてこうなったのかは全く理解できないですね••••••」
「いやホント、説明しといてなんですけど俺も欠片ほども理解できてないっすから•••••••」
2人して途方に暮れながら、ひたすらお茶を飲むしかないこの状況。
いったいどうしたもんか•••••••
◇
「あれ〜••••••? これってよく考えたらおかしくないですか〜? ねえ柚斗さん」
何杯目かの緑茶を飲み干したのち、そう言いながら俺に視線を向けてくる莉亜さん。
ちなみに向けたのは本当に視線だけで、 体は、部屋の真ん中に無造作に置かれたテーブルに突っ伏し気味にぐで〜っとさせている。
ひと目でわかる。
莉亜さん、完全なお疲れモードである。 というか本気で疲れるとこんな感じになるんだな••••••?
まあ、莉亜さんにとっては初めてづくしの旅行だったみたいだし無理もないとは思う。
このタイミングで初めて知った莉亜さんの一面に若干驚きつつ、 言葉の続きを待つ。
「私、 柚斗さんのご実家に伺うことになるのかと思ってたんですけど〜••••••?」
「あ、 やっぱ気付きました? 話が早くて助かるっすよ」
そう。 俺は旅行最終日のあの時、『俺の実家に行くことになりそう』と言ってある。
それと今の説明とは確かに食い違うけど、 嘘じゃないんだこれが••••••
「正しくは『莉亜さんの実家に行く前の日』に俺の実家へ。って感じらしいっす」
「••••••••••••」
たっぷり数秒間の沈黙。 待ってなんか怖いわ。
「••••••つまり?」
「あ〜 えっと、 要するにハシゴっすね。実家ハシゴ」
「そんなハシゴ聞いたことないです〜!!」
「いやちょ、 俺に怒んないで下さいって! 俺が決めたんじゃないっすウチのアホ親父のせいっす!」
肩ゆするのやめて! 思ったより力強いな莉亜さん!?
「そもそも父様はなんでココのことまで知ってるの〜!!」
「それも俺に言われても困るやつっすよ!?」
いや、それに関してはホントに気になるけどな?
実の娘に関することとはいえどこから知ったのやら••••••
「お互い親には苦労しますね、柚斗さん••••••」
「ホントっすね••••••」
と、そんなふうに互いにため息をつくのだった。
「あ、でも柚斗さんのご実家は楽しみです♡」
「えっ」
「ご両親になんて挨拶しましょう••••••?」
「いろいろと不安!!」
ここまで読んでくださった貴方に最大の感謝を。
次回、田山家勢揃い予定。 柚斗母のモデルはリアル母ではありません(完全に不要な情報)
執筆中BGM
虎視眈々(オフボーカル)




