真剣に悩んでることほど既に結論は出てたりする
「ど、どうしますこれ」
「うーん••••••」
混浴。
まさかの混浴である。 しかも『混浴もできますよ』とかいう強制力の緩いものではなく、 『金曜は混浴の日!』と定められてるらしい••••••
「と、とりあえず確認しますよ莉亜さん」
「あ、はいっ」
「『ココやめて他に行こう』って言う選択肢、どう思います?」
とりあえずは莉亜さんの意見を聞いてみないと始まらない。
「あ、 私はいいですよ? ここで」
「えっ」
いやいや、 軽っ!
混浴だよ!?
最初のあの悩んでた感じなんだったんだ••••••
完全に予想外の反応。 俺より莉亜さんのほうがよっぽどビビってると思ってたのに......!!
何を言ったものかと悩んでいると、 先に莉亜さんが口を開いた。
「今から他のところ探すのもけっこう大変ですし、 私は柚斗さんとならいいかなって思ってますよ?」
「••••••莉亜さん、 サラッとそういうこと言うのはマズイっす。 俺が死にます」
「死!?」
隣でびっくりしている莉亜さんだが、 俺のほうがよっぽどびっくりである。
ーーサラッと『俺となら混浴でもいい』みたいなことを言われなんとも思わない奴がいるだろうか。 いやいないだろう(反語)
莉亜さん、 いつの間にそんな恐ろしい女になった••••••!!
「そんなわけで、 柚斗さんさえ嫌じゃなければ、という感じなんですがどうでしょう••••••?」
どうでしょうって、 そんな訴えかけてくるような目で見られたら断れないだろうよ••••••! 拒否権なしだろうよ••••••!
「ま、まあ•••••• 嫌ではないっすけど••••••」
よし、 この台詞が俺に出せる精一杯だ••••••
よくやった俺。
「じゃ、 じゃあすぐ受付し直してきますね!!」
そう言って、 元気いっぱいに受付へ向かっていく莉亜さん。
初の旅行でいきなりの混浴というとんでもイベントが、今ここに確定したのだった。
◇
木製の引き戸を開け、男性浴場へ。
『混浴の日』は男性浴場内に別の扉を設置することで、
女性でも脱衣所を経由せずに男性浴場に出入りできる、と言う仕組みらしい。 それにしても。
「こりゃ癒されるわ••••••」
そこは、なるほど露天風呂の代表格と呼ばれるにふさわしいものだった。
まず驚くべきはその開放感とスケール。
楕円形の浴槽はこれまで入ったどれよりも広く、浴槽底面に敷きつめられた石板の感触がお湯と相まって足に心地良い。
湯気の向こうに見える自然もこれまた絶景。
秋だったら紅葉とかも見られたな〜
あと、こんなに広いわりには人が少ない。というか周りにはほぼいない。
混浴効果かな•••••• そりゃビビるよな••••••
そんな風に考えていると、 ガララ 、と言う扉の開閉音が耳に入った。
「ふぅ•••••• お待たせしましたっ」
温泉の熱気とともに、そんな声が俺の背後に届く。
水音も立てずに、優雅ともいえる動作で浴槽に入ってくる莉亜さん。
「あの莉亜さん、近くないすか••••••?」
「いいじゃないですか! 『短くない付き合い』でしょう?」
ちょ、 背中くっついてるって••••••!
「むむ••••••」
「柚斗さん、恥ずかしがってますね〜?」
「そ、そりゃそうでしょ。 むしろなんで莉亜さんは平気なんすか••••••」
かつては頭なでられるだけで狼狽えてたのに、ホントなにがあった••••••?
それにしても、 互いに背中を向けておけば大丈夫かなとか思ってたのに、こんな感じになるとは••••••
いや、 こうなったらもう慣れるしかない!!
「いや〜、それにしても癒されますねぇ••••••」
「そうっすねぇ••••••」
「明日には全部終わっちゃうかと思うと、ちょっと寂しいです••••••」
「明日••••••? ああそっか。 もう明日で3日目なんすね」
そっか•••••• もう最終日かあ••••••
「ふふっ。 もしかして忘れてたんですかー?」
「だって、終わる時のこととか考えたくないじゃないすか」
「たしかに〜」
「それに、まだまだ時間ありますって。 今日の夜も、明日の朝だってあるっすよ」
明日は午前10時には旅館を出る予定だが、まだまだ時間はある。 最後まで楽しんでこそ、だ。
「そうですね! 今日の夜こそは柚斗さんの隣で寝ようと思います!」
「いや、それもうやってますよね!? 実行済みですよね!?」
「えっ」
俺の記憶にはこの上ないくらいバッチリ刻み込まれてるっつーのに、 なにそのリアクション! ホントに覚えてない?
◇
「さて莉亜さん、 そろそろ上がります?」
「そうしましょう!」
互いに背中合わせで、 他愛もない話をしながら温泉に浸かること30分くらい。 そろそろ頃合いだろう。
温泉の余韻を楽しみつつ、互いに着替えを済ませ部屋へと戻る。
『今日の夜はトランプ』と言うことになったのでロビーに寄り道して借りておいた。
トランプはとにかくいろんな遊び方がある。
2人でやるババ抜きとか案外楽しいんだよな。
結局、 夜は莉亜さんとババ抜きしたり、夕飯食べたり、七並べやったり、ここでしか映らないテレビ見てみたり、夜中は『スピード』で本気の勝負してみたりした。
そして、翌朝。
「結局2日連続か〜」
今日は浴衣をはだけさせずに、 俺の隣で気持ちよさそうに眠る莉亜さん。
起こさないように気をつけつつ、 俺の旅行最終日が幕を開けたのだった。
ここまで読んでくださったあなたに最大の感謝を。
温泉旅行編もそろそろ終了が近いです。
そして温泉旅行編が終わると、物語としても完結に近づいていきます。
最後まで楽しんで読んでいただければ幸いです。




