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コルク銃で無双してみた



「それで柚斗さん、しゃてきっていったい••••••」


「そりゃまあ、読んで字のごとくってやつですよ。

的に向かって射る! と書いて射的っす」


「••••••弓矢で?」


「弓矢!?」


うん。今回は実際に見てもらったほうが早そう。



ーー 湯畑を出てすぐのところには、 『射的本舗』という店があるらしい。


それを観光案内所で知って、お互いに行きたいところ一つずつ行ってみようという話になったとき、俺は真っ先にここを挙げた。


温泉娯楽といえばコレだろ。 射的だろう。


温泉旅行ってものは、 基本的に『美味しいもの』と 『癒やし』。 これらは全く事欠かないと思ってる。

でも、純粋な『娯楽』はたくさんあるかと言われると微妙なんじゃなかろうか。


そんな中で温泉娯楽の王道と言えるのが射的。

夏祭りの屋台でだけ楽しめる代物じゃないのだ。



そんなわけで『射的本舗』へ向かおうという徒歩数分の道中、 莉亜さんに射的とは何かを説明しようとしたが断念。そのまま目的地にたどり着いた。



「柚斗さん••••••?」


「はい」


「ここ、娯楽施設って言ってませんでした?」


「言ったっすよ?」


「私の目には銃が見えてるんですけど••••••? 」


「ええ」


「幻覚ですか? 私のぼせちゃったんですか?」


「まだ温泉入ってないっすよ目を覚ましてください」




射的についての説明を一切なしに 『射的本舗』に到着すると、 莉亜さんはその光景に絶句していた。


入ってすぐのところに並ぶ、合計12丁ものコルク銃。


何も知らない状態で、何の説明もないとこんなリアクションになるんだな......


すでに目の前に広がる光景を幻覚と勘違いするところまで来てしまった莉亜さん。 とりあえず説明しなきゃなるまい。


「いいですか莉亜さん。 あそこにあるのは銃だけじゃないっす。 その奥に小さい人形とかが見えるでしょ?」


「は、はい」


「あの銃で狙うのは人の命じゃなくてアレっす。 あと銃の弾はコルクで できてます」


「なるほど•••••• 」


とりあえずは理解してもらえたか?


「ま、何事も体験して覚えるのが早いっすよ。

すいませーん。 2人分、まず20発ずつお願いします」



俺が女性の店員さんに声をかけると、気さくな声が帰ってきた。


「はあい。 2人で20発ずつね。 一人が君で、もう1人はそこのお姉さん?」


「は、はいっ」


急に呼ばれて向けられてびっくりしたのか、 莉亜さんの声がちょっと上ずった。 店員さんはそのまま俺にここのルールを話してくる。



「分かりました。 ここの射的は『ポイント制』になってます。 2人の合計でもOKですよ〜」


「ん? ポイント?」


「ええ。 ここでは撃ち落としたものをそのままとるんじゃ無くて、落とした的に書かれたポイントの合計で景品が選べるようになってるんですよ」


「へえ••••••!」


そりゃ面白そうで良心的なルールだ。


よく見ると確かにそれぞれの的には 1点から3点まで得点が書かれていた。

大きさなど落とすための難易度ででランク分けされてるとみて間違いないだろう。


「じゃ、まず俺から。 さっそくやってみますかね」


「頑張ってくださいね!」


横から莉亜さんの声援を受けつつ、コルク銃のサイドレバーを引き、 銃口に弾を詰めていく。


ーー誰にでも特技の一つ二つあるもんだ。たとえそれがどんなにくだらないことであっても。


今回俺が射的を選んだもう一つの理由は特技(そこ)にある。


引き金を引き放たれたコルク弾は、狂いなく最もサイズの大きい三点の的のひとつ、恐竜フィギュアに命中した。

フィギュアが棚から落ちる。



今回は、たとえ俺が撃ってるのを見るだけでも、 莉亜さんを楽しませられる自信があったからこそ 俺はこの場所を選んだ。



「•••••• 私でも初めて見たかもしれない」


20発中10発を撃ち終わり、最初に口を開いたのは店員さんのほうだった。



「きっと忘れてるだけだと思いますよ」


俺は射的が得意だとは自負してるけどそこまで人間離れしてるわけじゃ断じてない。


ーーコツさえつかめば10発全部命中させる人なんていくらでもいるだろう。俺だけじゃなく。


「••••••すごい」


ようやく莉亜さんの声が聞こえた。


「すごいです!」


「あ、 ストレートに褒められるとすごい嬉しいっすね」


「すごくすごいです!!」


あ、語彙力消し飛んでる••••••



「どうもどうも。 それより莉亜さんもやるでしょ? 慣れると楽しいもんすよ」


そもそも俺1人でも楽しませられるなんてイキッてみたりしたけど、 そんな状況にはならないしするつもりもないからな。


「あ、はい! それじゃあ••••••」



ーー結論から言うと、 莉亜さんはめちゃくちゃ飲み込みが早かった。

俺が基本的なことだけ伝えて、 20発撃ちつくすころには命中させた数のほうが多くなっている。


「私これハマっちゃいそうです...!!」


うんうん。思った以上に楽しんでもらえたようで何より。


「すいませーん。 もう20発ずつお願いしまーす」


「は、はあい。 追加で20発ね....」


店員さんの笑顔がちょっと引きつってる気がするけど、きっと気のせいだろう。


そこから食べ歩きに行くのに頃合いの、正午近くになるまで二人で撃ちまくった。


あと、 自分の放った銃声にびっくりして、「ひゃっ!」ってなってる莉亜さんはめちゃくちゃ可愛かった。



















ここまで読んでくださった貴方に最大の感謝を。

最後の2行が書きたくて射的編書きました。

ちなみに『射的本舗』も作者は実際に行ったことがあります。

次回食べ歩き編。


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