温泉旅行は温泉だけじゃない
俺と莉亜さんはバスターミナル前で10分ほど足湯を楽しみ、 満を持してターミナル内一階の観光案内所 ーー 正確には観光協会というらしいーー の中で、様々なパンフレットや地図を二人掛かりで見まくっていた。
「莉亜さんどうします? 今日いきなり温泉入っちゃいます?」
「でもでも柚斗さん、 今は荷物もいっぱい持ってますし、ちょっと行きづらくないですか? 明日とかのほうが••••••」
「ふむ.... そりゃ確かにそうっすね。 となると、今日はやっぱり観光メインって感じになりそうっす」
「私はそれもすっごい楽しみだったんですよ! で、見たところ最初に行くならここなんかいいんじゃないかなと!」
莉亜さんは自分の持っていたパンフレットを俺に渡してくれる。
そこには『湯畑』の二文字がでかでかと書かれていた。
「お。 俺もそこのこと考えてました」
「ほんとですかっ! 以心伝心というやつなのでは••••••!?」
「莉亜さん難しい言葉知ってるっすね〜」
「わ、わたし柚斗さんより年上なんですからね!」
「あ、そういえばそうだったっすね」
「そういえば!!?」
「冗談っすよ。 肝に銘じてるに決まってるじゃないすか」
「うぅ... 柚斗さんがいじわるします〜.... ふええっ!?」
むくれた様子でいう莉亜さんの髪を、俺はわしゃわしゃと撫でた。
何度か聞いた素っ頓狂な声をあげる莉亜さん。
「あ、あのあのあの•••••• 柚斗さん...?」
俺のほうからこういうことをするのは初めてだ。 莉亜さんは耳まで真っ赤にしながらこっちを見ている。
「ん? 俺の顔になんか付いてます?」
が、 ここはあえてしらばっくれることにしてみた。
「〜ッ! びっくりしたじゃないですか〜!!」
俺の肩をポカポカ叩いてくる莉亜さん。
ーーちなみにやり取りの一部始終を、案内所のスタッフ2人に思いっきり見られていたことは、後ほど気づくことになる。
◇
「湯畑•••••• やっぱりまずはここっすかね」
しばらくしていつもの調子に戻った莉亜さんに、再びパンフレットを見つつ声をかける。
草津の観光名所の中でも特に有名と言える 『湯畑』。
日本一の温泉湧出量を誇る草津温泉の中心部に位置し、
そこでもものすごい量の温泉が湧き出ているとか。
その眺めもさぞや良いんだろうけど、 もう一つーー 立地が素晴らしい。
いろんなパンフレットを見ても、『湯畑から徒歩〜分』と書いてある場所がめちゃくちゃ多いんだよな••••••
しかも全部近い。
そんなわけで、最初に向かうには最適な場所なんじゃなかろうかと俺も思う。
「それがいいと思います......!!」
そう答えてくれた莉亜さんだったが、顔がいまだに真っ赤だった。 ちょっと反省。
「じゃ、 最初の目的地も決まったし、 行きますか! 」
「はい!!」
と、案内所を出ようとしたところ、 スタッフさんの1人に声をかけられた。 俺の母さんと近い年齢な気がする。
「温泉旅行、 どうか満喫してくださいな。 ••••••でも、あんまり人の多いところでイチャイチャしないようにね?」
『そ、そんなことしません!!』
莉亜さんと俺、2人の声が重なり、そこでようやくさっきのアレを見られていたことに気づくのだった。
◇
「わーお。 こりゃ凄い」
「私も初めて見ました••••••!!」
バスターミナルから徒歩5分ほどで 『湯畑』に到着し、2人して足湯に浸かりながら、目の前の景色に圧倒された。
湧き出した超大量の温泉が、ごうごうと音を立て一気に流れていくこの迫力。 さすが温泉街のシンボルとまで言われるだけのことはある。
「この硫黄の匂いとか、なんか『温泉街きたなあ』って感じしません?」
「たしかに。 来ちゃいましたね〜 ! 温泉!!」
そのまましばらく、 足湯と湯畑の景色を満喫した。
◇
「さて、 『温泉きた』感も高めたことですし、次行くっすよ!」
「お〜!!」
案内所にて、今日は暗くなる前には旅館に到着しよう、ということに決めた。
旅館までの送迎バスの時間もあるし、そんなに多くは回れないんじゃなかろうか。
そんな話を2人で した結果、『とりあえずお互い行きたい場所一つずつは行こう』となったわけだ。
「案内所で決めたとおり、今日の予定は『射的』と『食べ歩き』で! 」
「どっちも初めてなので、すごい楽しみです!!」
ここまで読んでくださった貴方に最大の感謝を。
最近小説書いてることが妹にバレました。
ラインで、この小説がランキングに載った時のスクショとともに「結構おもしろかった」って送られてきたときは頭真っ白になりましたが、自分は元気です。
今回もブクマ感想お待ちしております!!




