7月: それはとある戦争の季節③
期末テストまであと1週間。そこからはさらにギアを上げ、これまでにないほどの時間を学校で過ごした。
莉亜さんを心配させるのも嫌だったので相変わらず夜8時ごろまでには帰るようにしていたが、朝6時に学校に到着するようにした。これはさすがに初めてである。
雅とマッキーも本気を出し始めたらしく、3人一緒に6時に登校した。
そうして実に14時間近くを学校で過ごし、疲れ切った俺を癒してくれるのはやはり莉亜さんの手料理だった。
「今日も遅くまでお疲れ様ですっ! 美味しいですか〜?」
「••••••泣いていいっすか??」
「そんなに!?」
••••••このやりとり、最近毎日やってる気がするな。
ーーそんな調子で、間違いなくこれまでで一番勉強したと言い切れる1週間は思いのほかあっという間に過ぎ去り、 とうとうその日はやってきた。
期末テスト、当日だ。
◇
その日の朝は普段通り、昨日までより2時間は遅く到着した。
8時ともなると教室にも生徒が揃いつつあり、 今回も上位をと意気込み、直前まで教科書を貪るように読むやつ• 自分には特に関係ないという様子で、いつも通り友達と喋っているやつなど様々だった。
そんなクラスの様子を把握しつつ、俺も席に着く。
「俺はやれる俺は負けない俺は無敵だ俺は俺は俺は......」
お分かりいただけただろうか••••••
そう。今俺は過去類を見ないくらい緊張している。
昨日まではそうでもなかったのに、当日を迎えた途端凄まじい緊張が俺を襲ったのだ。
ちくしょう、ペンを持つ手が震えやがるぜッ....!!
必死に自己暗示を唱え精神の安定を保とうとしていると、
「よう柚斗! 今回もなんとかなりそうか〜?」
「おはよ。柚くん」
雅とマッキーの二人が、いつも通りの挨拶を投げかけてきた。
「お、おう。ととと当然だろうが今の俺にかかりゃテストなんざ赤子の手を捻るようなもんよッ....!」
ーーどんだけ声震えてんだよ俺。 我ながら悲しくなる••••••
「おいおい、もしかして緊張してんのか?」
「柚くんがそんなになってるの初めて見たかも」
「お、俺が緊張? ば、バカかよ二人して。前回だって切り抜けたんだ。今回もなんとかするさ。 それより二人はどうなんだよ?」
「俺はまあ、ヤマが当たればなんとかなる」
「私も似たようなものかな〜?」
「雅のそれは嘘だろ! 俺は知ってんだぞ!」
ーーそのとき、テスト開始十分前•着席を促すチャイムが鳴った。
「じゃあ柚斗、また後でな!!」
「お互いがんばろ。 柚くん」
「おう」
自分の席に戻っていく二人を見送りつつ、俺は静かに集中しなおす。
ーー莉亜さんの存在がここまでの緊張を招くとは。 我ながら驚いたが、 もはや腹は括った。
「それでは、始め」
試験監督の声とともに、全員が一斉に問題用紙を裏返す。
一時限目は化学。
一問一答•記述問題に作図まで。多様な問題が並んでいる。
しかも難易度は高めで、前回より平均点はかなり下がると見た。
だがーー これなら正直、なんとかなりそうだ。
やはり費やした時間は裏切らない。 俺はシャーペンと言う名の武器を片手に、設問どもを蹴散らすことに成功した。
◇
「そこまで。 問題用紙を後ろから回収するように」
最終日の最終科目•世界史のテストを終え、全8科目の期末テスト全日程が終了した。
「終わったああ......!」
「お疲れさま。 出来はどんな感じ?」
斜め後ろの席の雅が聞いてくる。
「正直、過去1の出来な気がする。全科目八割超えは間違いないと思うぞ」
「柚くんがそんな風に言うの初めてじゃない? 自信あるんだ?」
「雅には勝てなさそうだけどな」
穏やかに笑う雅。 こいつ、今回満点の科目ありそうだな•••
そしてその近くでは、マッキーが青い顔をしていた。
やらかしちまったかマッキー••••••
そして1週間後。
全てのテストが返却され、各教室の前に成績上位者•上位10%に食い込んだ者たちの名前が張り出される。
この表に名前が載っていなければ一巻の終わりだ。
各テストの点数は、予想通り全科目80点を超えていた。
が、90点以上の科目は一つもなく、順位的には不安が残っている。
ーーそして放課後。とうとうその時がやってきた。
すでに教室の前で多くの生徒が人だかりを作っていて、 俺や雅もその中に加わった。
張り出された紙を凝視し、一心不乱に自分の名前を探していく。
「田山.....田山のた.... おああっ!?」
見つけた!! なんと14位。文句なしに過去最高の順位だ。
「あったぞおおおおおおお!!! 」
高校の合格発表で自分の番号を見つけた時以上にに喜びを爆発させる俺に周りが面食らっていたが、俺の目には入らなかった。
「やったじゃん柚くん!! あーよかった...!」
安堵した様子で言う雅。
俺の結果次第では莉亜さんと会えなくなる可能性もあった以上、安心する気持ちも大いにわかる。
「雅はどうだったんだよ?」
「私はほら、あそこ」
雅の指差す方向を見てみると、確かに表の中に雅の名前を見つけた。
「さ•••••• 3位••••••!?」
相変わらずとんでもないやつだ。しかもよく見てみると、一位との差は5点もなかった。
「これは莉亜ちゃんも連れてお祝いしなきゃだね!」
「マッキーの奢りでな」
教室の中から、マッキーの悔しがる声が聞こえた気がした。
ここまで読んでくださった貴方に最大の感謝を。
これにて「7月:それはとある戦争の季節」 は終了です。
次回からは打ち上げ、そして夏休みへと続いていきます。
これから夏休みの話を書こうっていうのに世間はもう夏休み終わりの時期になっててびっくりしました。
よろしければ今回もブックマークなどよろしくお願い致します!特に感想を...!!!!