仲良くなるのはいいけれど
俺は学校帰り、週3日•1日3時間ほどの短時間だがバイトをしている。
バイト先は莉亜さんと買い物に行ったあのショッピングモール内の書店で、 カフェが併設されているので本を読みながらくつろげるという素晴らしい空間だ。
俺もしょっちゅう利用していて、どうせ働くならと初めてのバイト先にここを選んだ。
最初はお金がもらえればそれで、という感じだったが意外と楽しく、もう半年は続けられているし今後も辞める予定はない。
•••••• そんなバイト先でコーヒーを注文した二人の客を見て、俺は目を疑った。
「ほら莉亜ちゃん。あそこあそこ」
「あ、いました! なんというか雰囲気が少し違います...!」
「あ、あの、お客様 ••••••? なぜここに••••••」
「なぜって、私たちはここでくつろいでるだけだよ?
ね、莉亜ちゃん」
「あ、あはは••••••」
さすがに仕事中、お客様にタメ口というわけにはいかない。
それでも俺は仲良く一緒に来店した雅と莉亜さんを見て、
「なんでここにいるわけ!!?」
と叫ぶのを抑えるのに必死だった。
◇
莉亜さんのことが雅とマッキーにバレたあの日以降、
(とりあえず口止めはしたけど不安だよ不安で仕方ないよ...!!)
といった感じだった俺をよそに、二人と莉亜さんはどんどん仲を深めていった。
あれからは以前のように二人が家に遊びにくる回数も増え、莉亜さんも最初は落ち着かない様子だったが、今では俺を含め四人でゲームに興じれるくらいまでには仲良くなった。
特に雅とは気が合ったらしく、敬語を使うのは変わらないが(多分誰に対してもそうなんだろう)
「莉亜ちゃん」 「雅ちゃん」 と呼び合う仲にまでなり、連絡先も交換しあったらしい。
もはや完全に同い年の女の子どうしである。
3つ年上とはいったい何だったんだろうとか思わなくもないが、まあ気軽に話せる人ができたのはいいことだな。
そんなふうに考えていたが••••••
「いや、どう考えてもわからないですお客様。なんでここにいるんですかお客様」
なんで二人していきなり俺のバイト先に現れてんの? ?
俺はバイト先については雅には言ってなかったはず••••••
「わたしがここのこと信くんから聞いて、莉亜ちゃんに教えたの♪」
マッキーかよ••••••
確かにあいつは一度ここに来店し、しかも俺の接客を受けている。
「でも別に、柚くんが働いてる場所を探してたわけじゃないんだよ? 信くんには普通に、 莉亜ちゃんと二人で行くのにいいお店ないかなって聞いただけ。ほんとだよ?」
そんな風に聞かれてこの店の名前を出すあたり、あいつ完全にこの状況を狙ってやがったな!?
◇
「とにかく、俺のことは気になさらずに、ごゆっくり」
前半の部分を思いっきり強調し、仕事に戻ることにする。
当然他にもお客様はいるし、やることもあるしな。
「これがアルバイトですか。学校が終わってから働くなんて、皆さん大変ですねえ••••••」
「ん? 莉亜ちゃんバイトしたことないの?」
「え? まあ私は賃金をもらう側というより払う側••• あ、いえ!なんでもないですっ!」
ーーな、なんて心臓に悪い会話してんだ••••••
今のはギリギリ踏みとどまれたけど、あっという間に色々バレちゃうんじゃないのこれ...?
ダメだ。気になりすぎる。
全然仕事が手につかないぞおい•••!
「それにしてもここ、落ち着きますねえ....」
「ね。 信くんに感謝して、今度は一緒に来ようかな〜」
「雅ちゃん、それはデートというやつなのでは••••••!?」
「あっはは! 何言ってるの莉亜ちゃん! ちょっとお茶するだけだよ〜!」
「そ、そうですよね! 私ったら何を..! 」
「莉亜ちゃんも、今度は柚くんとお茶したりしてみたら〜?」
「わ、私ですか!?」
ーーいや、別の意味で心臓に悪いよ!!!!
というか、男女二人でカフェとか俺でもデートだと思うよ!
それを「お茶するだけ」みたいに言える雅がすごい。
あと最後! この流れで莉亜さんにカフェに誘われたりしたらどうすんだよ! 正直どう対応していいかわかんないぞ!!
嬉しいけど。
と、内心叫んでいると、二人は店を出る様子。
「ん、結構暗くなってきてる。莉亜ちゃん、そろそろ帰ろ?」
「あ、はい!今日は楽しかったです!!」
「私も! じゃあ柚くん、また明日ね〜」
「お家で待ってますので!」
帰り際に俺に声をかけてくる二人。
「ま、またのご来店を••••••」
これからも何度も来店するであろう二人を、俺は引きつった笑顔で見送った。
ここまで読んでくださった貴方に最大の感謝を。
すまないマッキー...! 前回のあとがきではああ書いたけど、ほとんど登場させてやれなかった...ごめんな..!
と、そんなわけで男そっちのけの仲良し女の子の回でした。21歳を女の子と呼んで良いかどうかは各自にお任せします。
書いてて超楽しかったです。
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