急に昔のものが出てきたりすると無性に見たくなる
日間ランキングの影響力の高さに震えました。
「ただいま••••••」
「あ、柚斗さんおかえりなさい!」
「へっ? あ、莉亜さんか...びっくりした••••••」
そうだった。 俺はもう一人暮らしではなくなったんだった。 昨日は一緒に買い物も行ったし、これがまだ出会って3日目だっていうんだから、俺も莉亜さんも適応力のあるほうだと思う。 凄まじくある方だと思う。
「あ、 柚斗さんちょっと顔色悪くないですか? 何かありました..?」
俺の顔を覗き込むなり、心配そうに言う莉亜さん。
よく気付くな... 一応俺も悟られまいとはしていたが無駄だったか。
「あの〜 昨日俺と莉亜さんで買い物行ったじゃないですか? その時のことを俺と同じ学校のそこそこ親しいやつらに見られてたっぽくて... その、説明とかいろいろ手間取りまして...」
そう。あのショッピングモールは同じ学校のやつらもたくさん利用しているのだ。あまりにもうかつだった...
詳細はまた今度、ということにするが、なかなか帰してもらえなくて大変だった... 許すまじ。
「それは大変でしたね。 というかすみません....」
「いやいや、莉亜さんが謝ることじゃないっすよ。 それより莉亜さん、昨日買ったものは届きました?」
「はい! 電気屋さんで買ったものはまだですけど、ベッドとかのほうは無事に! 届けてくれたかたに私の部屋のところまで運んでもらいました!」
それはずいぶんな重労働をさせてしまった。感謝せねば。
「それなら問題ないっすね。 今日こそ莉亜さんの部屋作りといきますか」
「そうしましょうそうしましょう!!」
これまでよりテンション高めな様子の莉亜さん。
だがそのテンションをいつまで保てるか....
「と、その前に莉亜さん、部屋作りの前に俺たちはある強敵を打ち破らなきゃいけないんすよ」
俺のその言葉を聞いて、莉亜さんが途端に顔を強張らせる。
「きょ、強敵?」
その反応が面白かったので、ちょっとからかってみる。
「あの『魔窟』を攻略しなきゃならないんすよ。覚悟できてますかねえ....?」
ニヤリと笑って言う。「悪い顔」ってやつだ。ある友達に見せたら「悪そうすぎる」とガチでビビられてちょっと悲しくなったやつだ。
それを見た莉亜さんはさらに顔を強張らせ、なにやら考えこみ
「柚斗さん、茨城県にそんな場所ありましたっけ??」
「ごめんなさい俺が悪かったですそんな純粋な目で見ないで!!」
適当につけた名前本気にしないで! 恥ずか死する!!
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「おお••••••. これが••••••」
「そう。我が家の『魔窟』です。俺が適当につけた名前です」
そこは一言で言うと「ダンボールと紙袋の山」だ。
いや、正確にはその二つ「しかない」。他の物を置くスペースなど今は皆無。
「これ、何が入ってるんですか?」
「そりゃもういろいろとしか.... 」
「全部柚斗さんのものなんですか?」
「そうっす。 もともとこれ全部家族と住んでた頃の家に置いてあったんすけど、一人暮らし始めるときに『俺に関するものすべて』 持って出ることになりまして...」
そう。文字通り「すべて」だ。
かなり前に着てた服や小さい頃読んだ本なんかも当然あるし、 なんなら幼稚園にいた頃描いた絵なんかもダンボールにぶち込まれてる可能性はある。 母さんならやりかねない。
うちの母さんには「物を捨てる」という概念はないんだろう。どれだけ前のものであっても保管されている。
そういう意味でもここは「魔窟」なのだ。見られたくないもののオンパレードなのだ。
しかし今回だけはここを使うしかない。 莉亜さんに雑魚寝なんぞさせるわけには...!
「いいですか莉亜さん。 これからここのダンボールとかを移動させていって、なんとかスペースを確保するわけですけど、ダンボールの中身見たら今日の夜はまたビジネスホテルの砂みたいなベッドで寝ることになりますからね? 絶ッッッッッ対に見ないでください。分かりました?」
「ふええっ!?全部見たらだめなんですか!?」
「ダメです。分かりましたか???」
「は.. はい... 見ませんよぉ.... なんか気になりますけど」
「気になっちゃダメです」
「それすらもダメ!?」
莉亜さんに念入りに伝えてから作業を開始し、『魔窟』の整理とベッドの設置 合わせて2時間以上かかった。
途中莉亜さんがやたら微笑ましいものを見る目でこっちを見ていた気がするが、まあ気のせいだろう。 気のせいであってくれ。
••••••••ちなみにやはりというべきか、俺が運んだダンボールの中のひとつには、明らかに幼稚園にいた頃に書いたであろう絵が入っていた。 頼むから捨ててくれよ母さん..!
ここまで読んでくださったあなたに最大の感謝を。
次回は閑話、莉亜さんとの買い物を目撃されてた柚斗の学校でのエピソードの予定。
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