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フィーバー・オブ・レブルス  作者: がらぱごす
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第6話別視点 野営地から

 目の前には赤色の惨劇があった。元あった芝生は現在進行形で火に舐められるように燃え、今しがた男が斬り伏せた人体からしとどに漏れる血が地面を染めている。

 男は無言のままに辺りを眺めた。

「……………」

 この光景は男一人で作り上げたものではないが、他の一般兵と比べると指揮官である男の罪はより大きいだろう。軍上層部から下された命令に従った作戦行動であるのだから罪が云々と語るのはおかしいかもしれない。男の祖国である『帝国』の利益になる行為は須く賞賛されるべき行いのはずだから。そもそも、殺人者の罪が殺した人数で決まるほど、倫理とは単純にできていない。

「くそ、ああっ」

 納得など到底できるはずがない。

 如何なる大義であれば、無抵抗の人々を一人残らず殺戮したことを肯定できるというのだろうか。

 胸の内でわだかまる、何に向けたのか定かでない怒りを抑え込んでいると、部下の一人が巡回を終えた旨を伝えに来た。

「隊長…生存者0名です。」

「そうか、ご苦労」

 はっと気づいた時には、既に言葉を発した後だった。

 ご苦労様だって?何が?

 堪えるように唇を噛む部下の顔が雄弁に語っている。

「すまない」

「いえ…」

 すっと息を吸い込んだ。

「撤収だ。皆に伝えてくれ。」

 まだ任務は達成されていない。本題は『媒体』を入手することだ。

「なあにやってんだろうな。」

 部下たちには絶対聞こえないように呟いた。

 雲が出始めた。じきに雨が降る。

 事態が動くとすればもう少し後だ。村の生存者がいないとも限らない。村の何処かに『媒体』があるのなら捜索は雨が止んでからでよかろう。

 とりあえず今は休みたい。ただし、必ず『媒体』は入手してやる。そうでなければ…

「いや、媒体が見つからないと死者が報われないなんて、どの口が言うんだ。」

 掠れた自嘲は風に紛れた。



 野営地に戻った時には兵士は誰一人として口を開かなかった。

 今回対象となったカッファ村は現在交戦中の『王国』領に属する。本作戦は明確な敵対行為だが、戦時中の頻繁に書き換わる国境線に衛兵を配置する余裕はどの国にも無いので辺鄙な山村への奇襲が王国に察知されることはない。

「俺はこんなことをするために軍に入ったんじゃない!」

 涙を流しながら、部隊の新米兵士の一人が叫び、部隊を覆う重たい空気を引き裂かれる。他の兵士たちが煩わしそうに、殺気すら込めて発言者を睨んだ。

「黙れ新入り」

「なんだと!」

 予想外の否定的な返答に出鼻を挫かれながらも新米兵士は言葉を止めない。

「じゃあ先輩方はこれでいいと言うんですか!?俺は無理だ。こんな、盗賊まがいの犯罪をやるために軍に入ったんじゃない!俺は国民を守るために…」

「うるせえんだよ!」

 年配兵士の一人が新米兵士を突き飛ばした。

「もう黙ってろ、頼むから…」

 消沈した老兵を見て、新兵は二の句を告げなくなった。

 虚ろな顔をしている者や、自らの両手を凝然と見つめる者、或いは両手を組んで祈りを捧げる者。

 隊長である男が急に話し始めた。

「すまねえな、お前たちにこんなことさせちまって。」

 隊長の突然の謝罪に驚き、兵士たちが顔を向ける。

「無抵抗の人間を襲うなんて、とてもじゃないが国民を守るために軍に入ったやつには堪え難いことだろう。」

 新米兵士は決まり悪そうに顔を背けた。

「だが、これが軍だ。組織は個人の思惑なんて斟酌してくれない。これからも受け入れられない命令は下されて、その度に理想と現実の乖離に悩まされることになる。心が耐えかねて軍を辞める者も出るかもしれない。軍はそういうものだ。敵国と戦って相手兵士を殺したとしても、手を汚していることに違いはない。自分に守るべき家族がいるように、相手にもそいつの帰りを待つ家族がいる。」

 一度言葉を選んでから。

「多分、俺らは選ばないといけない。何か一つ、数多ある正義や道徳、倫理観の中から。全てを満たすことは到底できないから。自己矛盾は日常茶飯事だし、葛藤なんてない時の方が珍しい。それでも俺は、家族を一番大事にするって決めている。国のために戦うことが正しいから、俺の考えは裏切りなのかもしれんが、国を守ることが家族の安全な暮らしに繋がると信じている。」

 しん、と空気が静まり返った。兵士の一人が問うた。

「ま、まるでお別れのような言い方をして、どうしたんですか?」

「お別れか、そんなつもりはないんだがな。まあ早く任務を終わらせて帰ろう…ひとまず休憩にするが。」



 雨が降っている。パッと空が光った後、程なくして雷鳴が轟いた。

 休憩中、隊長であるグレイは度々右手に付けた指輪を見ている。任務にあたり、軍から超常の力の計測器として支給されたものだ。強力な力場の発生源を示すもので、検知すると光が放たれる。光の明るさで力場の強さが分かり、光線の方向で発生源のおおよその見当がつくという優れものだが、今日一日村を歩いて一度も反応しなかったので、内心その性能を疑っていた。

 早く反応してくれと願う。さっき部下の前でつい熱くなって喋ったが、とにかく今日の非道が本当に不要なものになって欲しくない。許されざる行いであったとしても、このままでは任務のためという言い訳すらできない。

 また空が光った、と思ったのと同時に耳が雷鳴を捉えた。

 結構近い、と思ったら村に落ちたようだ

 雷が落ちたことに呆然としていたが、指輪が光っているのを見て仰天した。指輪から純白の光が漏れた。雷が落ちた瞬間に光り始めたのだ。十中八九雷の落下点に媒体がある。

 機を逃すわけにはいかない。

「休憩終了、今すぐ村に直行するぞ!全兵士に告ぐ、行軍開始だ!」

読んでいただきありがとうございます。

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