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フィーバー・オブ・レブルス  作者: がらぱごす
Past story
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ある家族の日常 3

 両親の馴れ初めを聞いてほっこりしていたが、本題には全く触れられていない。


「えーと、結局何で母さんは宝のことを喋ってないって分かるの?」

「ああ、そんな話してたな。うーん…」


 開けた窓から涼しい風が流れ込んでくる。


「俺と母さんはカッファ村に一緒に戻って、俺の親父に結婚報告することになったわけ。あの時の親父の顔は面白かったな。」

「息子が学校を卒業して嫁を連れてきたら驚くわよ。」

「実のところ、親父は俺たちの結婚に賛成しなかった。言い方は悪いが、余所者が村に、しかも次期村長の家庭に入る。家族に宝のことを隠し通すことは難しいし、最悪情報が漏れる恐れがある。」


 ろうそくが溶けてとろりと滑り落ちる。


「しかし王都から遠路遥々やってきた女を追い返すのも気が咎めるし、何より俺がマリアにべた惚れだったからな…へへ。」


 口には出さなかったが、自分で言って自分で照れないで欲しい。

 しかし、次の言葉を選んでいるのか、シザーはなかなか続きを話さない。代わりにマリアが引き継いだ。


「そこで折衷案として結婚することを許す代わりに、婚約指輪に細工を施したの。絶対抜けない、そして、宝について他言したら色が変わる指輪。」

「え」


 そんな不思議な道具があったことにも驚いたが、それ以上に抜けない指輪に驚いた。それではまるで…


「まるで、呪いじゃないか…」


 思わずもらした言葉に、シグルドはハッとしてマリアの方を見る。しかしマリアは気にした様子もなく話を続ける。


「まあ、普通そう思うわよね。でも私は嬉しかったの。絶対抜けないだなんて何だか素敵で…シグルドにはまだ早いかしら。それにこの人ったら、自分もつけるって言い出したの。お前だけにつけさせるのは不公平だって…変なところで律儀なのよね。」


 父は顔を明後日の方へ向けて頭を掻いている。


「私の指輪についた宝石の色は、指輪を贈られたその日から変わらない白色。これが、約束を守り続けている証拠なの。」


 長く喋りすぎたわね、マリアは恥ずかしそうに笑った。

 シグルドはついでに気になったことを聞いてみる。


「ねえ、父さんの指輪にも、何か仕掛けがあるの?」


 シグルドの問いに、シザーとマリアは顔を見合わせて同時に笑いだした。


「ああ、俺の指輪も約束を破ったら変色するぞ。」

「浮気したらね。」


 …お似合いの夫婦かもしれない。いや確かにお似合いなのだが。


 卓上から皿がなくなった。

 マリアは食器を洗い、シグルドとシザーはゆったりと椅子に座って食後の時間を過ごしていた。

 シザーとマリアを除いて村の人々は宝のことを知らず、マリアは宝のことを他言していないことが判明したものの事態は全く好転していない。どうやって、あの行商人が宝の存在を知ったのかはわからないままだ。


「練気媒体だっけ。どこにあるの?」

「…知りたい?」

「知りたい!」

「ちょっと耳貸せ」


 ちょいちょいと手で招かれたので顔をシザーに近づける。


「まだガキだから教えねーよ」

「ふざけんな!」


 父親のことが少し嫌いになりそうだ。


「ほら、もうガキは寝る時間だ。さっさ行け。」


 しっしと手で追い払われる。これ以上はこの場にいても仕方がないので、不承不承寝室に向かった。


 ***


 寝室にて。


(くそ、馬鹿にしやがって。俺だってもう8歳になるってのに!)


 苛立ちが収まらなかったこともあったが練気媒体のことも気になって寝付けない。

 リビングの灯りが寝室の暗がりの中で扉を縁取る。 

 両親のことを実は今までよく知らなかったのだと、思い知らされた。


(そういえば俺も王都に行けんのかな。だったら楽しみだ。)


 一番の目的は勉学のはずだが、頭の中には夜でも眠らない街と、酒屋なるものを冷やかしがてら通りを練り歩く自身の姿を想像する。


(…行きてー)


 緊張が治まってきて、シグルドの意識はいつの間にか睡魔に飲み込まれた。


 ***


 シグルドが眠った頃。


「………」

「浮かない顔ね。」


 シザーは子供の頃からなんとなく将来村長になる自分を想像していた。村長になる以外の選択肢を父から教えてもらわなかったのだから無理もない。

 いざ父親として息子に接してみて思う。


(俺は、あいつの将来を狭めてしまったのか。まあ実際狭めたよなあ。)


 すっと背後から手が回され、背中に重みを感じた。


「大丈夫よ、きっと。あの子は賢いもの。きっと理解してくれるわ。」


 奥歯が軋む。


「それは、大人の都合だろう。」

「そうね。なら、冒険者になって危険な目にあって欲しくないのは親の都合かしら。」


 王都にはギルドがあった。ただし冒険者ギルドではなく傭兵ギルドだが。そこで体の一部をなくした傭兵を見たこともある。

 物語には華々しさしかいらない。たとえ危険や困難、苦労や苦悩があったとしてもそれは話を盛り上げるスパイスであって、主人公が乗り越えられることが大前提だ。

 憧れだけでは生きていけない。冒険者は血を浴びるし防具の手入れも必要だ。

 人々を危険にさらす怪獣を必殺技で血も残らないほどに消しとばし、皆から讃えられ、仲間と酒を飲み交わすだけではない。

 現実は非情だ。そのことに気づくのは少年期が終わった時である。


(落とし穴の見えない草原を気の向くまま歩く子供、道を整備して誘導する大人、か。)

「…歳はとりたくねえな。」

「ふふ。同感。」

「かっこいい父親になるつもりだったんだがな。」

「十分よくやってるわよ。きっと、シグルドだってあなたからいろんなことを学んでいるわ。」


 顔が火照っている。酒のまわりが早い。


「…だといいなあ。」

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