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フィーバー・オブ・レブルス  作者: がらぱごす
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死が降り注ぐ戦場で

初めまして、ガラパゴスと申します。ペンネームに深い意味はなく、何と無く最近聞いた言葉を使っただけです。

よろしくお願いします。

 青年は小高い丘から怒声と銃声の止まない平野を眺めていた。


「………」


 大小様々な銃弾が飛びかい、運悪く被弾した兵士たちはたった一人の例外もなく地に倒れていく。

 その光景はまさしく地獄絵図で、お世辞にも平和とは言いがたかった。


 まるで死神が戦場を無造作に歩いているようである。くつで踏みつけられた雑草が折れ、二度と起き上がることはないのと同じく。


 そんな理不尽な戦場において、果たして彼らは何のために戦うのだろうか。

 自らの命を懸けるほど譲れないものがあるというのか。


 愛国心、自らの祖国が蛮族の手で汚されることを拒むこころ。

 忠義、己とおのれの家族を身体的、金銭的に満たしてくれる国家への感謝。

 承認欲求、武功を挙げ、昇進し他人からの尊敬を得たいもの。


 悪鬼のように顔をゆがめて敵兵をにらむ戦士たちが求めるものとは、はたして。



 ***



 狂騒の渦からは外れた小高い丘にて。

 青年の周囲には数えきれるほどの人がいた。彼ら彼女らはみな練気士見習いという肩書きをもつ。そもそも練気士とは、人間であれば誰もがもつ"生命エネルギー"とでも言うべきものに処理や変換を加えて魔法を行使するもののことを指し、一般兵との一騎討ちであれば百に一つの敗北すらあり得ない彼、または彼女らは、戦局にさえ影響を与えうるほどの力を有する。

 その強大さゆえに不可欠な存在であり、重用され、厚遇される。


 つまるところ練気士見習いとは練気士の後進のことであり、言うなれば金の卵だ。間違っても流れ弾で失ってはならない。周りには優秀な護衛がついている。


 今日は授業の一環、社会見学で戦場を視察しに来たのだった。


「は、ははっ…。これは、なんだよ」


 誰かが独り言を発した。あるものはえづいている。またあるものは目に焼き付けようと凝視している。

 なるほど確かに衝撃的な光景だ。人によっては今日の体験がトラウマになって心が折れ、兵隊の道を諦めるかもしれない。

 もし人を初めて殺すのが戦場であったら、たとえ魔道士でも一般兵に敗北しうるだろう。心なくして技と体は役に立たない。

 これは心を麻痺させる通過儀礼、すなわち人間としての倫理を侵し、壊し、殺す訓練なのだろう。


 俺が、私が殺すのは、人間ではなく、敵国の敵兵(けもの)だ、と自分に言い聞かせる周りの生徒。そうでもしないと、これだけ距離が離れていても赤を赤として認識できる光景は耐えがたい。


 その中にあって、戦場と周囲の生徒を眺める青年がひとり。


(殺すことに拒否感情はない。仮にあったとしてもそれはまやかしでなければ…そうでなくては、俺の10年が、人生が、無駄になってしまう。)


 青年は小高い丘から怒声と銃声が止まないそこを眺めていた。


「………」


 遠くに見える光景はお世辞にも平和とは言いがたい。大小様々な銃弾が飛びかい、運悪く被弾した人間がたった一人の例外もなく地に倒れていく。


 まるで死神が戦場を無造作に歩いているようである。くつで踏みつけられた雑草が折れ、二度と起き上がることはないのと同じく。


 そんな理不尽な戦場において、果たして自分は何のために戦うのだろうか。

 自らの命を懸けるほど譲れないものはあるか。


 答。戦場にはない。が、人生にはある。


(やっとここまできた。だがこれも通過点に過ぎない。)


 目を閉じると、まぶたの裏で戦場の光景が自らの故郷と重なった。

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