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38.江戸川の乱4

「流石にこの季節の川辺は冷えるな」


旅館前の土手を降りると、目の前の千曲川がサワサワと音を立てて流れている。

初雪も間近なこの時期は夜になると冷え込みが急に厳しくなる、浴衣に茶羽織では少し肌寒かった。

羽織のポケットから煙草を取り出し火をつける、ジッポーのオイルの臭いと紫煙が白い息が混じって川風に流されていく。


「あ~っ、煙草吸ってる。いけないんだ~先生に言いつけちゃおうかな」


「どの先生に言うんですか、まゆちゃん」


「へへ~。鉄先生がここに居るのが部屋から見えたんで、来ちゃいました」


浴衣に薄手のカーディガンを羽織ったまゆちゃんが声を掛けて来た、ミディアムロングの髪を手で押さえながら下から覗き込んでくる。


「うひ~、夜はやっぱり寒いね~」


「ほら、これでも羽織ってなさい」


茶羽織を脱いでまゆちゃんにそっと羽織らせる。


「鉄先生、寒くないの?」


「寒いですけど、まゆちゃんに風邪引かす訳にはいかないでしょう」


「じゃあ、まゆがくっ付いて鉄先生を暖めてあげる!」


まゆちゃんがそう言って腰の辺りにぎゅーっと抱きついて来る、まぁ、確かに暖かいが。


「今、煙草吸ってるんで離れててください」


「も~う、早く消しなさいよ、ほれほれ」


まだ火をつけたばかりの煙草だったのだが、諦めて携帯灰皿に押し込むと、待ってましたとまゆちゃんが空いた右手に腕を絡めてくっ付いて来た。


「へへ、暖かいね」


「皆はもう寝たんですか?」


「うん、明日菜さんなんかカニ食べ過ぎてうなってんの。本当に子供みたいな子よね」


「はは、凄い勢いで食べてましたからね。お腹大丈夫かな?」


しばし川辺に二人で佇みながら、川の流れを見つめる。風が少し強くなってきた。


「こうしていると、懐かしいね。あの時も寒かったよね」


「よく、そんな10年以上前の事覚えてますね。」


「覚えてるよ、私の初恋の思い出だもん。でも、初恋は実らないって本当だよね~」


「まゆちゃん。……すみません」


「謝んなくていいよ。なんとなく分かってるから、私はいつまでたっても娘みたいなもんなんでしょ」


「あ~あ、鉄先生が本当にお父さんだったら良かったのにな~」


「江戸川の伯父さんだって、凄い良い人じゃないですか」


「えぇ~、超厳しいし、太ってるし、狸みたいでやだ~、 クシュン」


まゆちゃんが可愛くくしゃみをする、この格好では夜の川辺はちょっと寒いな。


「さて、冷えてきましたね。そろそろ旅館に戻りますか」


「ねえ、鉄先生。明日菜さんの事は…………まあいいか、頑張ってね」


「何を頑張るって言うんです?」


「知りませんよ、そんな事は自分で考えてくださいよ」


「ご心配かけます」


「いいですよ、時間位は娘のような私が稼いであげますよ、お・と・う・さ・ん」


腕に絡み付かれたまま、頭を撫でるとまゆちゃんが「へへへ」と気持ちよさそうに目を細めた。

すかっり身体が冷えてしまった、戻ったら風呂に入り直すとするか。







黒崎明日菜は夕食の食べ過ぎで布団に突っ伏して唸っていた、女将さんがしゃべる暇も無いほど料理を進めてくるので、ついつい食べ過ぎてしまったようだ。



「んあ~、もう食べられな~い。って、あれ? 江戸川がいない、トイレかな?」


ふむ、流石に食べ過ぎた、しばらくカニはいいや。冷蔵庫に入れておいた水を飲もうと、布団から這い出して窓際に行くと、夜の千曲川が見える。目をこらすと川辺に人影が並んでいる、視力はいいのだ。



「えっ! 青桐先生と江戸川がなんで一緒に……」


土手沿いの遊歩道に、青桐先生と恋人のように自然に寄り添う江戸川まゆ。


チクリと胸に刺が刺さったような痛みを感じた。

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