表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/41

33.再会

「早く治して、またあの凄いプレーを見せてくださいね」

「怪我はどれ位で治るの、手術は成功したんでしょ」

「大丈夫、貴女ならすぐに元通りに動けるようになれるよ」

「復帰はいつ頃になりそうですか? 次のインターハイには間に合いそうですか?」


学校に顔を出すと、バスケ部の皆や取材に来た記者さんが出迎えて来た、励ましや復帰を期待する声、楽観的な言葉、先の見えない予想、私は曖昧な笑みを浮かべてそれに応えるが、少し憂鬱な気持ちになる。

もう少しだけ一人で考える時間が欲しい。






青桐先生との再会は意外と早く、病院で会った3日後の放課後のことだった。

その日の授業が終わって、なんとなく部活から遠ざかるように屋上に上がると、青桐先生が珈琲を煎れていた。

何してんの?


「あ、黒崎さん。どうしましたこんな所に」


「先生こそ、何してるんですかこんな所で?」



夕日が山の間に沈んで行く、長野の冬はあっという間に夜がやってくるので、オレンジ色に染まるこの時間は結構貴重だ、夕日を眺めながら二人でベンチに腰掛ける、吐く息が白い。ガーディガンを羽織ってはいるが寒いものは寒い、ブルッと身体を震わせると、先生が大きなストールをそっと掛けてくれた。

あ、暖かい。


「身体を冷やさないようにしてくださいね。それにしても、どうしてこんな寒い所に?」


「ん~、何となく、夕日が見たくなっちゃって。先生こそ何やってるんですか?」


「そうですか……、僕も同じようなものですよ。冬は空気が乾燥しているから、夕日や星が綺麗ですからね」


煎れたてで湯気の上がるマグカップを先生から手渡される、ブラックコーヒーかな?

コーヒーはちょっと苦手なのだけれど、この寒さでは有り難い。


「えっ、美味しい。何これ、コーヒーだよね」


あまりの美味しさに吃驚して先生を見た。

にっこり微笑む先生に思わずドキッとした、ちょうど夕日が赤くなった顔を隠してくれた。


「それは良かったです、寒い時に飲む珈琲は特に美味しく感じますからね」


そう言うと先生は星が見え始めた空を見上げて、満足げな表情を作った。

それから暫くは沈黙が流れる、でも不思議と心は落ち着いた。




「ねえ、先生。 私の怪我ね、想像以上に治るのに時間かかるみたいなんだ」


珈琲で湿らせて口が滑らかになったのか、先生に愚痴のような私の弱音をこぼしてしまう。



「黒崎さんは長野県の平均寿命をご存知ですか? 女性は87歳で全国トップです。黒崎さんはまだ16歳ですから、後70年近い長い時間が残されています。時にはゆっくり休むことも必要ですよ、周りから何を言われても焦る事はありません、自分のペースで歩んで下さい、貴女が一生懸命なのはちゃんと知ってますから」


「そんなもんですかね」


「そんなものですよ」


先生の気負わない自然な言葉で少し気が楽になった。

確かに今迄ゆっくりって言葉には縁がない生活してたからな、こんな事言われたのは初めてだ。

いつも先頭で走ってるのが、当たり前になっていて休む事なんか考えてなかった。

今思えば、そのせいで怪我したようなものかもしれない。

そうだよね、1年や2年休んだって私ならなんとかなるよね。




「ねぇ、生徒会長って私でも出来るかな?」


「僕は黒崎さんほど、生徒会長が似合う人はいないと思っています。それに何かあっても、僕が黒崎さんを支えますから大丈夫ですよ」


「な、何それ、先生が私を支えてくれるって言うんですか」


「黒崎さんは危なっかしい所がありますから、ほっとけないですからね」


そう言って先生はスクッと立ち上がり、すかっり暗くなった空を見上げた。

大きな満月が出ていて、その優しい光が私達を包んでいた。


「月が綺麗ですね、黒崎さん」


満月の光に照らされた先生を見ているとドキドキと胸が高鳴って、私は照れ隠しに残っていた一気に珈琲を飲み干した。


すごく暖かくて、優しい味がして、私はその日から珈琲が大好きになった。

お読みいただきありがとうございます。感想などいただけたらうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ