29.貴女は私の敵よ!
カウンターを挟んで白衣のおっさん改め、お兄さん改め、青桐先生が声を掛けてきた。
ただ珈琲飲んでるだけなのに、妙な色気がある人だなぁ。ドキドキ
「長峰さんは、桐生さんと同じバレー部なんですか? この前の生徒会との試合では見かけませんでしたが」
「いいえ、私はバスケ部です。1年A組です、今日は桐生先輩の助っ人として先生を殴りに来ました」
「そ、それは、申し訳なかったですね。栗どら焼きも有りますけど、いかがです……」
「本当ですよ、しっかりして下さいね、教師なんですから。あ、栗どら焼きは頂きますね」
「美姫さん貴女、先生に失礼ですよ、でも今日は栗菓子が多いですわね、あ、私にも一ついただけますか」
「この季節の栗はやっぱり美味しいですからね、この前も赤城副会長にお出したモンブランとグラッセはかなり好評でしたから」
「「モンブランとマロングラッセ!!」」じゅるり
「ああ、すみません。作った分は赤城副会長に全部持っていかれてしまって、もう残って無いんですよ」
「「赤城さん、敵認定決定です(ですわ)!」」
桐生先輩と意見が一致した瞬間だった。
生徒会室、赤城春。
ゾワリッ「うわっ、寒。本当に寒くなってきましたね」
「へ、そんなに寒い? それって風邪じゃないの春ちゃん」
「そうですかね、会長も気をつけてくださいね」
再び美術準備室。
「長峰さん、1年A組ということは、生徒会書記の夏君と一緒のクラスですね」
「ああ、そういえば。あのサラサラヘアの、ひょろいのって生徒会役員でしたっけ」
「ひょ、ひょろいですか? 夏君」
「背だって私と同じ位だし、髪の毛綺麗だし、筋肉無いし。まぁ、クラスの女子には人気あるみたいだけど」
「あら、夏君ならウチのバレー部でも狙ってる娘いますわよ。戸田とか」
「あらら、でも彼奴は確か、明日菜お姉様の忠犬じゃなかった」
「ん、明日菜お姉様? 長峰さんて黒崎会長のこと、お姉様って呼んでらっしゃるんですか?」
「ええ、だって明日菜お姉様は私の従姉妹ですよ」
「えっ、そうなんですか」
「私の母が、明日菜お姉様のお父さんの姉なんです」
「なるほど、それでどことなく黒崎会長に似て……。ふふ、小さい黒崎会長みたいで可愛いらしいですね」
「か、か、可愛いって、何言ってるんですか! それに、明日菜お姉様に似てます。えへへ」テレッ
「小さいから可愛いって、言っただけですわ」シレッ
「ん、何か言いました。桐生先輩?」
トントン、カチャリ
3人で話しをしているとノックが聞こえて、準備室の入口の扉が開いた。
「て~つ先生。貴方の愛しい愛しい江戸川まゆが来ましたよー!! って桐生さん貴女また、それになんで美姫ちゃんもいるの!」
振り向くと部屋に入ってきたのは、茶道部の江戸川先輩だった。
「おりょ、まゆ先輩こそどうしてここに?」
「え、江戸川さん! わ、私はただ美姫さんを止めに来ただけで……抜け駆けでは」
まゆ先輩がズカズカと部屋に入って来た、そして私達の前に置かれたお皿と湯のみに目を止める。
「あ~~~~~~っ、栗羊羹。 そ、それにどら焼きまで!! 鉄先生、まゆの分を要求します!!」
「す、すいません。桐生さんと長峰さんにお出しした分が最後で……。 江戸川さんが来れられると分かっていれば、取っとておいたんですが」
「ガーーーン!!! そ、そんな~、栗羊羹。 この茶道部部長のまゆを差し置いて、小布施栗の栗羊羹。それにこの香しい香りは、ほうじ茶ですね。しかも焙じたばかりの上物の宇治京番茶!!」
「さすが、江戸川さんですね、良くお分かりで。とても良い栗が手に入ったので、腕をふるっちゃいました」
「ちょっと鉄先生、その言い方では火に油ですわ」
俯いたまま、わなわなと震えるまゆ先輩、あ、顔上げた。
「………………桐生さんも美姫ちゃんも。敵認定決定です!!!」
「え~っ、私も!」
なぜか、まゆ先輩に敵扱いされてしまった。
食べ物の恨みはとても怖いと思いました。
私の食べかけですが、栗羊羮いります?
再び生徒会室。
「あれ? 寒気がしなくなった。さっきのはなんだったのかしら?」
「それはたいした事無くて良かったね、春ちゃん」
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