24.チョロイン黒埼明日菜
エキシビションマッチと言う名の私闘を終え、試合にはかろうじて勝利することが出来た。
しかし、青桐先生の裏切り(桐生さん公衆の面前でお姫様抱っこ)により、これはなんのための戦いだったのかと、私と黒崎会長の心に疑問が投げかけられた。
そしてその裏切り者が、ヘラヘラと笑いながら体育館に帰還する。
「皆さんお待たせしました。桐生さんは、保健室にちゃんと届けてきましたよ」
「怪我はそれほどでもありませんでしたから、心配しなくても大丈夫ですよ、黒埼会長」
青桐先生が戻ってくるなり、桐生さんの容態を知らせてくる。
まぁ、軽傷で良かった、黒崎会長のスパイクはヒビくらい入ってもおかしくない威力だからな、だが貴様の口から聞きたいのはそんな事じゃない、ほれ会長ガツンと言ってやれ。
「あ、青桐先生。あの……」
「ああ、黒埼会長のスパイクで怪我したと言っても、試合中の事ですから大丈夫ですよ。責任は顧問である僕が取ります安心してください」
あ~、そういう見方も有るのかぁ、確かに桐生さんは黒埼会長のスパイクで腕を痛めたわけだし、そういう時は顧問である青桐先生の責任問題となるか。しかし、痛めたのは腕なのにお姫様抱っこはやりすぎだろが!! それじゃあ乙女心は納得いかんぞ。
「ああ、そうそう、黒埼会長。左腕使わずに試合してくれて、偉かったですね」よしよし
「う~っ、頭撫でて子供扱いしないでください! 私、先生との約束は守ります」
「うん、治りかけが一番大事な時です、貴女がまた、怪我するかと思うと心配ですからね」よしよし
「あぅ~っ」
黒埼会長、チョロインか! もう機嫌直りかけてるよ、頭撫でるくらいで誤摩化されちゃだめだろ。
「黒崎会長がとっさに思いついた、エキシビジョンマッチ企画でしたが、盛り上がってよかったですね」
最後の最後に、先生が違う意味で盛り上げまくってくれたがな、むしろそっちのほうが歓声大きかったけどな。
「どうしました、副会長? なんか睨んでません。怖い顔してますよ」
睨んでんだよ、女の子に怖い顔とか言うな。
「ま、まぁ、もう3時過ぎてますし、お腹空いたでしょう、おやつでもお出ししますよ」
「青桐先生の手作りじゃなきゃ、やです」
「勿論、黒埼会長の為に、愛情込めて僕が作りましょう」
「う~っ、……じゃあ行く」
チョロイ、チョロすぎだぞ、会長。あんたそれでいいのか?
これは罠だ、きっと孔明の罠に違いない。なんと言う甘い罠。
目の前に置かれたこの物体に、手を出したらお終いだ。厚さ5cmはあるふわふわのパンケーキにたっぷりシロップがかけられ、その上には純白のソフトクリームが塔のようにそびえ立っている。名古屋スイーツの雄、シロノワールか!
手を出したらお終いなのは分かっている、しかし! パンケーキの熱で溶けてゆくソフトクリームが、早く食べないと溶けちゃうよ~と自己主張してくる。
大体がソフトクリームをどこから持ってきた、アイスクリームマシーンまで仕入れたのか!この卑怯者は。
女子高生の前にこんなものを平然と出してくるとは、ずるいとしか言いようがない。
震える手で、よく磨かれた銀のスプーンを純白の塔に差し入れる。塔の土台であるパンケーキまで掬い取り、口に運ぶ。
やられた~!! 美味いに決まってるじゃないかこの取り合わせは、シロップの染み込んだふわふわのパンケーキに、冷たいソフトクリーム。ん、シロップはメイプルと?このカラメルのような独特の甘みと渋みは、そば蜂蜜を少量混ぜてあるのか。
くそ~、めっちゃ美味い! 美味すぎる!!
「赤城副会長、どうぞ」
スッと目の前に置かれる真っ白な大きめのカップ、中には湯気が立っているベージュ色の液体。
くぅ~っ、ここで私の大好きなカフェオレを出してくるか! お、しかも砂糖抜きのカフェオレとは憎い真似を。
相性バッチリだよちくしょ~。
ハッ! 会長は! 駄目だ、手遅れだ、顔が緩みきっている、完璧にやられた、この鬼畜眼鏡め~美味しいおやつで上手くごまかしやがった。
「ふふ、美味しいですか黒埼会長?」
「うん、すっごーい美味しい!!」ニコニコ
「それは良かったです、ふふ、あと一年は待っててくださいね」
ん、青桐先生、今最後になんて言った?
第2体育館。強者共の夢のあと、ギャラリーも思い思いに立ち去り、観客席には江戸川まゆが一人佇んでいた。
「江戸川部長、まだここにいらしたんですか? もうとっくに試合終わっちゃってますよ」
「ハッ。私は夢でも見てたの? 鉄先生にお姫様抱っこされて……」
「違う~!! おのれ~桐生美鈴。ちょっとばかり綺麗だからって調子に乗って、今度あいつのドリンクボトルに抹茶入れといてやる~~っ!!」
「部長……」
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