22.黒埼明日菜vs桐生美鈴5
「ウオォーーーーッ!! 女帝黒埼会長が勝ったー!!」
「本当に片手で女王に勝っちゃたよ、会長スッゲー!!」
集まっていたギャラリーが一斉に騒めく、インターハイ優勝メンバーの女子バレー部相手に5対6のハンデ状態で勝利したのだから無理もない。黒崎明日菜も飛び上がって、勝利の喜びを全身で表現した。
「いっやったーー!! 勝ったーーーーーーーーっ!!! ちょっとギリギリだったけど、それもまたスポーツの醍醐味よね! ヤッホーーーイ!!」
嬉しさ大爆発だ、やった、勝てた。ちょっと中盤危なかったけど勝てた。
やっぱりスポーツは面白い、美鈴さん達が強かった分達成感があるわぁ。バスケでも是程の達成感はめったに無かったもんね。しかも青桐先生への悪い虫も駆除出来たし、終わり良ければ全て良しだ、わはははっは。ゲホゲホ
「春ちゃん、やったね! 勝った! 勝ったーっ!!」
黒崎会長がハイタッチしてくる大喜びだな。おうおう飛び跳ねちゃって、まぁ、途中目的も忘れて勝負に集中しちゃう所は、元スポーツウーマンの性なのだろう。しかし、本当に良く勝てたな、青桐先生が居なければ完全に負けてたけどね。
しかし桐生さんは悔しいだろうな、最後に会長のスパイクを受けて怪我しなければ微妙な流れだったし……。
ちょっと心配になった私は、反対のコートで踞ってる桐生さんを見た。
「負けた。……負けちゃた」
バレー部のレギュラーメンバーで負けるなんて。
しかも最後は、私が足を引っ張ってしまった。
「ごめんなさい皆、私のせいで負けてしまいましたわ」
「そんな、桐生先輩のせいじゃ有りません!」
「こっちこそごめん、美鈴。私もブロッカーなのに、黒崎会長のスパイク一本も止められなかった」
「て言うか、やっぱり会長は化物だよ。バレー部でもないのにアレはないわぁ」
メンバーの皆はそう言って慰めてくれるが、力押しでも勝てると思ってた私の作戦ミスが原因だ。やはり右腕しか使えない彼女を、どこかで舐めていたのかもしれない、今日は反省会ですわね。
それにしても、黒埼会長の喜びようったら、あんなに嬉しそうにされてはこっちも諦めがつきますわ。
……諦め? そうだ鉄先生への告白! あぁ~、告白する前に諦めなければいけないなんて……。
私の恋は、始まる前に終わってしまった。
やだっ、泣きそう。
「大丈夫ですか? 桐生さん」
「えっ、鉄先生」
「腕、診せてください、最後、手が動かせなかったでしょ」
鉄先生がいつのまにか傍に来ていた、私の腕を優しく持ち上げると、綺麗な顔を少ししかめた。
「あぁ~、こんなに真っ赤になっちゃて、痛かったでしょう。けれど、さすがに毎日鍛えてるだけの事はありますね、骨まではいってないようですね」
「誰か、アイシングパック持って来てくれますか!」
うぅ~、なんでこの人は、私が弱ってる時にいつもいつも優しくしてくるのよ~。
こんな心の状態でそんな事されたら、もう、もう、耐えられませんわ。
「て、鉄しぇんせ~~。うわ~~~~ん」
涙がこらえられなくなった私は、泣き顔を隠すように鉄先生の胸に飛び込んだ。
「先生~! 鉄先生。えぐっ、えぐっ、えぐっ」
「よしよし、頑張ったね。痛かったねぇ」
鉄先生は、泣いてる私を抱き寄せながら背中をポンポンと、子供をあやすように軽く叩いた。
ばか~っ!! これ以上優しくしないで下さい、涙が止まらくなっちゃいます!
「今日1日は痛いかもしれませんが、頑張ってくださいね。さぁ、とりあえず保健室に行きましょう」
鉄先生はそう言うと、背中と膝裏に腕を通してスッと私を抱き上げるとそのまま歩き出す。
えっ、えっ、うえぇ~~~~~~!!!
お、お姫様抱っこ! こんな大勢のギャラリーが見てる前でぇ! 恥かしすぎて鉄先生の胸元に顔を埋めて皆んなからの視線を遮断する。
「「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッツ!!!」」」」
「キャーーーーーッ、桐生さんがお姫様抱っこよーー!!!」
「羨ましぃ~」
「何あれ、何あれ、あんなの実物初めて見た!!」
「うわぁ、写真、写真」
「桐生美鈴ぅ~~~、絶対に許すまじ……。やっぱり彼女は危険だわ」
会場が大爆発する。特に女生徒達の反響が大きい、試合中よりも大きな歓声が体育館を埋め尽くす、歓声は私達が体育館を去っても鳴り止まなかった。うぅ~恥ずかしくて死んでしまいそう。
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「あはははははははは、ねぇ、春ちゃん。私は勝ったのかな? 負けたのかな?」
桐生さんと先生が去って行く光景を見て、呆然と立ち尽くす黒埼会長に、掛ける言葉が見つからない。
勝利の喜びが一瞬で吹き飛んでしまった。
あの鈍感鬼畜メガネぇ~、ちゃ~んと責任とれよ~!!!!!!
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