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古武術使いと肉の魔女 エピローグ

 一心不乱に靴を舐め続ける男を見下しながら、肉の魔女は笑みを深めた。その指先は、和馬の頭に突き刺さるようにして沈み込んでいる。

 そこには確かに頭皮があり、頭蓋骨があり、硬膜があり、脳を守るためのあらゆる組織があるはずなのに。

 魔女の両手、その指先は何にも阻まれることなく粘土でも捏ねるような気軽さで、和馬の脳を直接弄んでいた。

 心霊医術というオカルトを実現するかのようなそれは、『肉の魔女』の名に相応しい、身体操作魔法の真骨頂。

 脳に突き込まれた指先から、和馬の記憶や人格、運動データや生命活動の根幹部分など、人間一人の存在の、ありとあらゆる全てを奪い尽くし、意のままに書き換える魔法であった。


「すごいすごい。この身体操作魔法、恐ろしく洗練されているね。既存のものより3%も効率が向上するよ。早速他の端末を改造しないと。ふふ、よくできました」


 蔵部和馬だったそれは、意志の一切を放棄し、もはや魔女の言葉にのみ従う端末の一つと成り果てていた。


「私の役に立ててよかったね。嬉しいでしょ?」

「うれしいです!」

「役に立たせていただけて、ありがとうございますは?」

「ありがとうございます!」


 そんな男を見て、魔女はこの上もなく美しい笑みを浮かべて一言、


「つまらないな」


 と言葉を漏らした。


「どんなに美しい愛情も、踏み躙り終えたらただのゴミだ」


 端末は一心不乱に靴を舐め続けている。他の指示を受けていない場合は、前回の指示を継続せねばならない。

 魔女はこの端末の処遇をたっぷり三秒悩んだ末に、結論を出した。


「その靴はあげるから、死ぬまで舐めててね。あなたは見てくれも普通だし、頭の悪い子は要らないんだ。ばいばい」


 新たに追加された指示に従って、端末は下賜された愛おしい愛おしい靴をいつまでも舐め続けた。

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