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古武術使いと肉の魔女(2)

 アイリの存在は、とかく人目を引く。

 二人で並んでアイリ手製の弁当を食べていたりなんかすれば、男女を問わない殺意の視線が飛んでくる。

 そうでなくとも、今日の和馬はぶっちぎりの50m走最速記録保持者であり、騒ぎの種、その中心である。

 和馬は誰にも見つかることのないよう普段以上の注意を払って、こそこそと教室を抜け出し、階段を二段飛ばしで駆け昇り、屋上へ続くドアを開けた。

 アイリは既に弁当を広げて和馬のことを待っていた。


「おっ。カズくんおつかれー」

「ん。アイリもお疲れ」


 和馬はアイリの隣に腰掛けて、弁当の中身を覗き込む。

 今日は南瓜の煮付けと茹で野菜、玉子焼きに、ハート型をしたハンバーグ。

 ハンバーグは和馬の好物で、それを知っているアイリは、週に一度はハンバーグを作ってくれていた。


「おお、ハンバーグだ! いっただきまーす」

「うん、召し上がれ」


 普段は少し薄味に感じる味付けも、体育の後の空きっ腹にはちょうど良く感じられる。

 アイリは健康マニアなので、濃い味付けを嫌うのだった。


「よく噛んで、味わって欲しいの」


 とは、アイリの言。

(俺の食べ方にまで口を出さなくてもいいのに)

 と和馬は思っているが、口には出さない。

 アイリを怒らせて、弁当を作ってもらえなくなるのは、困る。

 和馬とその父しかいない、男やもめの蔵部家の台所を掌握しているのは、今や羽原アイリなのだった。

 食事に関しては彼女に従うのが蔵部家のルールである。


「ところでカズくん、何か言うことがあるんじゃないかな?」

「ん? 今日も弁当おいしいよ」

「あ、ありがと……って、そうじゃなくて!」


 和馬の感想に一瞬表情を崩したアイリは、すぐさま眉を吊り上げる。


「今日、体育の時間! 使ったでしょ、魔法!」

「あのな、アイリ。何度も言うけど、アレは魔法じゃないんだって。流派秘伝の技なんだぞ?」


 和馬は箸を止めて、ため息を吐いた。

 しかしアイリは止まらない。


「見る人が見ればわかるんだからね! ダメだよ、簡単に魔法を人前で使っちゃ!」


 そんな和馬の言い分をまるで聞かず、アイリは、大げさに手を振って抗議する。

 ぷんぷん、という擬音がそのまま似合うような、かわいらしい怒り方。

 神妙にしていなければ、と思っているのに、どうしても、顔が緩んでしまう。


「あー、全然マジメに聞いてない!」

「ごめんごめん」

「どうして使ったの? 今まで一回も、学校で使ったことなんてなかったのに」


 真面目な表情でそう尋ねるアイリに、和馬は目を背けた。


「男には、引けない時があんのよ」

「感じわるー。ちゃんと説明してよー!」

(お前を取られたくなかったから、なんて言えるわけねえだろ)


 正直に答えられない和馬は、曖昧な言葉で誤魔化すことにした。


「木下くんの男の名誉に関わる話、かな」

「なにそれ! 恋バナ?」


 アイリの瞳が急に輝きを増す。

 ずいと顔を近づけて、続きを促すようにじっと和馬の顔を見つめる。


「なんですぐそういう色恋沙汰にすんのかね、おまえは」

「だって木下くん、さっき廊下で電話してたんだけど。その時の表情が、すっごーく」

「すごく?」

「デレデレッとしてたから」

「なんじゃそりゃ」


 なんだそれは。

 あいつはアイリに気があったんじゃないのか。

 失敗したら返す刀で別の女にデレデレしてやがるとは。

 本気を出しておけば良かった。

 あの野郎は、二度と立ち直れないくらいぶちのめしておく必要があったのかもしれない。

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